artscapeレビュー

「ホーム・ストーリーズ:100年、20の先駆的なインテリア」展

2023年07月01日号

会期:2023/04/06~2023/10/01

ヒョンデモータースタジオ釜山[韓国、釜山]

15年以上ぶりに釜山を訪れた。高速鉄道の駅のまわりに、2030年の万博招致の看板が掲げられ、目の前ではスノヘッタによるオペラハウスが建設中である。また新市街では、コープ・ヒンメルブラウによる国際映画祭の基幹施設となる巨大な《映画の殿堂》(2011)やダニエル・リベスキンドが参加した再開発、《海雲台アイパーク》(2011)など、ランドマーク的な建築が増えていた。また郊外では、チョ・ビョンスが設計したケーブルメーカーの展示場、《キスワイヤ・センター》(2014)と、その工場を複合文化施設にリノベーションした《F1963》(2016)に足を運んだ。



《映画の殿堂》(2011)




F1963で開催されていたジュリアン・オピー展


これらに隣接するヒョンデ・モータースタジオ釜山には、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムで2020年から21年にかけて開催された「ホーム・ストーリーズ:100年、20の先駆的なインテリア」展が巡回してきていた。これは20世紀のインテリアの歴史を振り返るものだが、特に20のトピックを重視している。なお、驚くべきことに、入場は無料だった。展示が始まる手前のスペースに、ヒョンデが独特のインテリアを提案する新車「セブン」を設置し、ブランド・イメージを向上させるプロモーションを兼ねていたからだろう。



ヒョンデの新車「セブン」


興味深い展覧会だったので、その内容を紹介しよう。全体の構成は、以下の通り。最初のパートは、2000年から今日までの「リソースとしての居住空間」(アッセンブルやイケアなど)であり、過去に遡っていく。次は1960年代から80年代のラディカルな変化を扱う「インテリアの分裂」(マイケル・グレイヴス、メタボリズム、ヴェルナー・パントンなど)、そしてミッドセンチュリーの「自然と技術」(リナ・ボ・バルディ、フィン・ユールなど)、最後は1920年代から40年までの「モダン・インテリアの誕生」(アドルフ・ロース、ミースのトゥーゲンハット邸、フランクフルト・キッチンなど)だ。もっとも、機能主義や標準化をめぐる教科書的なラインナップだけでなく、冷戦下のモスクワで展示されたアメリカのインテリア、「斜めの機能」で知られるクロード・パラン、著述家のバーナード・ルドフスキーが手がけたハウス・ガーデンなど、ひねったセレクションが楽しめる。さらにアンディ・ウォーホールのシルバー・ファクトリー、ジャック・タチの映画『ぼくの伯父さん』の劇中のモダン住宅、写真家のセシル・ビートンが自ら装飾した部屋など、異分野の事例も含む。またおそらく韓国バージョンとして、展示の後にスタジオ・スワインによる実験的な空間インスタレーションが加えられていた。

「ホーム・ストーリーズ」展は、コンパクトだが、多視点からインテリア・デザインの変化を読み解く試みである。




1960〜80年代ポストモダンを紹介するパート(「ホーム・ストーリーズ」展より)



フランクフルト・キッチン(「ホーム・ストーリーズ」展より)




映画『ぼくの叔父さん』の劇中のモダン住宅(「ホーム・ストーリーズ」展より)




資源としての居住空間(「ホーム・ストーリーズ」展より)



ホーム・ストーリーズ:100年、20の先駆的なインテリア:https://motorstudio.hyundai.com/busan/cotn/exhb/homeStories.do

2023/05/06(土)(五十嵐太郎)

2023年07月01日号の
artscapeレビュー