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カルカモ・デ・ドローレス博物館、べジャス・アルテス宮殿、サン・イルデフォンソ学院、ディエゴ・リベラ壁画館

2024年02月01日号

[メキシコ、メキシコシティ]

チャプルテペック公園内にリベラの作品があるというので行ってみた。神殿のようなつくりのカルカモ・デ・ドローレス博物館の手前に池があり、巨人が横たわるようなかっこうでレリーフ状に盛り上がっている。これがリベラの《トラロックの泉:種の進化に果した水の役割》というモニュメントだ。トラロックとは古代遺跡にも表わされている水の神。なぜ水の神? と思って博物館に入ってみたら納得。ここは水道局が市内に水を送るための施設だったのだ。床に深いプールが掘られ、水を通すための大きな穴が空いているが、そのプールの側面がすべてリベラの絵で覆われているのだ。かつてこの装置が機能していたときには壁画の半分は水没していたらしい。こんなところまで壁画で飾るかと感心する。おもしろいのは壁にパイプオルガンの一部が展示され、音が響いていること。これは別のアーティストの作品で、外の風や天候の変化を音に変換して鳴らしているのだという。



カルカモ・デ・ドローレス博物館 ディエゴ・リベラによる壁画 [筆者撮影]



カルカモ・デ・ドローレス博物館 [筆者撮影]


市の中心部、べジャス・アルテス宮殿へ。べジャス・アルテスとは「ファインアート」の意味で、そのまま「美術宮殿」ともいう。20世紀に建てられた美術館を兼ねた国立劇場とのことだが、見どころはフロアごとにホセ・クレメンテ・オロスコ、ディエゴ・リベラ、ダビッド・アルファロ・シケイロスによる壁画がそろっていること。3巨匠の壁画がこんなに近くで見比べられるのはここだけかもしれない。特に有名なのはリベラの《十字路の人物》(1933)という壁画で、この主題はかつてニューヨークのロックフェラーセンターにも描いたが、画中にレーニンの顔があったことからロックフェラーに拒否されたため、ここに再び描いたといういわくつきのもの。レーニンだけでなくマルクスやトロツキーの顔も描かれている。ちなみにここは地盤が緩く、壮大な大理石建築の自重で年に数センチずつ沈下しているという。



べジャス・アルテス宮殿 [筆者撮影]



べジャス・アルテス宮殿 ディエゴ・リベラによる壁画 [筆者撮影]



べジャス・アルテス宮殿 ダビッド・アルファロ・シケイロスによる壁画 [筆者撮影]


歩いてサン・イルデフォンソ学院へ。ここは16世紀に建てられたイエズス会の寄宿学校だったが、20世紀に建て増しされ、1920年代には文部大臣バスコンセロスが壁面を画家たちに提供し、壁画運動の発祥の地となった場所なのだ。特に初期のころ中心になったのがオロスコで、中庭に面した3フロアの壁と湾曲した階段の天井部分を、植民地時代からメキシコ革命までの民衆の生活を絵物語で埋め尽くしている。これは圧巻。



サン・イルデフォンソ学院 [筆者撮影]



サン・イルデフォンソ学院 ホセ・クレメンテ・オロスコによる壁画 [筆者撮影]


再びべジャス・アルテス宮殿の前を通り、アラメダ公園を横切ってディエゴ・リベラ壁画館へ。この近くにはもともとホテルが建っていて、壁にはリベラの幅15メートルにおよぶ壁画《アラメダ公園の日曜の午後の夢》が描かれていたが、ホテルの廃業に伴い隣にこの壁画1点だけを展示する美術館が建てられたのだ。絵にはメキシコの有名人が多数描かれており、中央やや左寄りには12歳のリベラと、のちに結婚・離婚を繰り返すことになるフリーダ・カーロ、リベラに影響を与えた風刺画家のホセ・ガダルーペ・ポサダと、彼が創造したガイコツの貴婦人カラベラ・カタリーナなどが描き込まれている。普通これだけ大きな壁画だと取り外したり動かしたりできないが、これは鉄のフレームを使っているため可能だったという。その移動中の記録写真も展示されている。



ディエゴ・リベラ《アラメダ公園の日曜の午後の夢》、ディエゴ・リベラ壁画館 [筆者撮影]


べジャス・アルテス宮殿(Palacio de Bellas Artes):https://museopalaciodebellasartes.inba.gob.mx/
サン・イルデフォンソ学院(Colegio de San Ildefonso):https://www.sanildefonso.org.mx/
ディエゴ・リベラ壁画館(Museo Mural Diego Rivera):https://inba.gob.mx/recinto/46/museo-mural-diego-rivera

2023/12/22(金)(村田真)

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