artscapeレビュー

原久路「バルテュス絵画への考察II」

2010年05月15日号

会期:2010/04/06~2010/05/22

gallery bauhaus[東京都]

昨年、四谷のトーテムポールフォトギャラリーで開催されて好評を博した原久路の「バルテュス絵画の考察」のシリーズが、装いも新たにgallery bauhausで展示された。点数が9点から22点に増えるとともに、作品のサイズはかなり小さくなっている。gallery bauhausはメインの会場が地下にあって、やや内向きの雰囲気なので、それにあわせて一回り小さくプリントしたということのようだ。また、最終的にはデジタルプリンターで出力しているのだが、特殊なニスを5回も重ね塗りして画像の厚みと黒の締まりを出しているという。そういう丁寧な気配りと、画面を構築していく時の緻密な作業の進め方こそが、原の真骨頂と言えるだろう。
それにしても、バルテュスの代表作を写真に置き換えるという原の試みは、いろいろな問題を明るみに出すものだと思う。写真が19世紀半ばに発明されて以来、絵画と写真とはまったく別々の道を歩んできた。だが、21世紀になってデジタル化の進行ととともに、両者が融合したり合体したりするような可能性も大きく広がりつつある。原の絵画と写真の「ハイブリッド写真」はその答えのひとつであり、何者かに全身全霊で憑依していくような情熱の傾け方において、森村泰昌の一連の「美術史」シリーズとも通じるものがある。バルテュス作品の構図を日本の空間に置き換える時、セーラー服と学生服を選択したというのも興味深い。そのことによって、東西の衣裳文化が融合・合体するとともに、バルテュスの絵の中にある少年や少女イノセンスへの純粋な希求を、巧みに記号化することに成功しているからだ。次はよりデジタル処理を徹底した作品を作っていきたいとのこと。さらなる展開が大いに期待できそうだ。

2010/04/23(金)(飯沢耕太郎)

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