artscapeレビュー

壺中天『オママゴト』

2010年06月01日号

会期:2010/05/01~2010/05/16

大駱駝艦・壺中天[東京都]

本作の振付担当でもある田村一行は夏の学生服の格好で現われると、洗面台にて手を洗う。すると後ろのほうに不意に魚の頭をした怪物が二頭。日常のなにげない瞬間に、空想への入口がぽっかりあいた。冒頭、この怪物たちに次第に巻き込まれてゆくまでに見せた、日常と空想的な世界とを往還するかのようなソロダンスが素晴らしかった。自分のなかから出てきていながらはっきりと自分のではないといわねばならない、そんな動きのきっかけから生みだされるダンス。それはまた、村松卓矢や向雲太郎のような男の子的な強さで魅了する振付とは少しニュアンスが違う、巧みに制御されたやわらかさやうつくしさが盛り込まれていた。それが顕著だったのは女性たちのシーン。女たちが4人、白塗りでときおり白目をむくなど舞踏的なテイストは濃厚であるものの、よく見たらおだんご頭で、表情も会場のある吉祥寺の街に歩いていそうな雰囲気が漂っている。村松や向の舞台で白塗りの男性ダンサーたちが不意にリアルな若者集団に見えることがあるのに似て、彼女は空想の隙間から現実の女の子をチラチラと見せていた。丸太を担いだときは「森ガール?」とまで連想が膨らんだが、威勢よく大きな音を立てて丸太を倒すと、男たちとともにやぐらを組み立てはじめた。現代の女の子/男の子であり、空想の怪物であり、習俗のなかの女/男にも見えるダンサーたち。現実と非現実、現在と過去とがダイナミックに接合と分解を繰り返した。

2010/05/15(土)(木村覚)

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