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笠木絵津子展 シリーズ「地の愛」より「孝一の戦争と戦後」

2009年01月01日号

会期:2018/1/29~2018/2/3

藍画廊[東京都]

自分より若いころの親の写真を見たりすると、だれしもなにかしら感慨を抱くもの。とくにそれが戦前・戦後の厳しい時代であればなおのこと、ここで父が戦死していたらとか、母が別の男と出会っていたらどうなっていたかみたいな、自分の存在を根源から揺るがしかねないのだ。しかし戦前の親の写真があるのはもはや50-60歳以上の世代だろう。笠木は15年ほど前から母親の昔の写真と自分の写真をコンピュータで合成し、時空を超えた出会いを実現させてきた。そうした母のシリーズが終わってから、父の生涯を同様の手法で綴る「地の愛」シリーズを始め、今回はその3回目となる。作品は大作を壁に1点ずつ、計4点の出品。

笠木の父・孝一は、1945年に招集されて和歌山で軍事訓練を受けたが、敗戦により命拾いしたという。その和歌山の訓練場所を推定して撮影し、そこに孝一、戦闘機、笠木の夫らの写真を合成したのが《昭和20年7月頃、孝一、和歌山にて軍事訓練中》だ。過去と現在、モノクロとカラー、アナログとデジタルが混在した作品だ。敗戦後復員し、故郷の姫路でGHQの通訳の仕事を得た時期を表わしたのが《昭和21年頃、孝一、姫路にて進駐軍の通訳の仕事を始める》で、当時と現在の姫路の駅前風景を組み合わせている。同様に《昭和25年頃、孝一、神戸市赤塚山の兵庫師範学校を卒業する》《昭和25年頃、孝一、芦屋市立宮川小学校の教員になる》と続く。いずれも現在の写真をベースに過去のイメージをざっくり合成したもので、ぼくは作者に世代が近いせいかついじっくり見てしまったが、果たして若い世代がどれだけ興味を持つだろう。

2018/02/2

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