2020年04月01日号
次回4月15日更新予定

artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス | 2020年4月1日号[テーマ:エコロジー]

テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、東京都現代美術館(※2020年4月1日現在、臨時休館中)で開幕予定の展覧会「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」にちなみ「エコロジー」。太陽光などの再生可能エネルギーや自然現象に着目したインスタレーションで世界的に高い評価を集める作家による本展ですが、本の世界では「エコロジー」というとどのようなものが注目を浴びているのでしょうか。このキーワードに関連する書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
ハイブリッド型総合書店honto調べ。書籍の詳細情報はhontoサイトより転載。

「エコロジー」関連書籍 購買冊数トップ10

1位:大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝(Νυξ叢書)

著者:斎藤幸平
発行:堀之内出版
発売日:2019年4月25日
定価:3,500円(税抜)
サイズ:20cm、352ページ

資本主義批判と環境批判の融合から生まれる持続可能なポスト・キャピタリズムへの思考。マルクスのエコロジー論が末節ではなく、経済学批判において体系的・包括的に論じられる重要なテーマであると明かす。


2位:猫楠 南方熊楠の生涯(角川文庫)

著者:水木しげる
発行:角川書店
発売日:1996年10月22日
定価:680円(税抜)
サイズ:15cm、427ページ

博物学・民俗学・語学・性愛学・粘菌学・エコロジー……広範囲な才能で世界を驚愕させた南方熊楠。そんな日本史上最もバイタリティーに富んだ大怪人の生きざまを天才・水木しげるが描く。


3位:21世紀のマルクス マルクス研究の到達点

編集:伊藤誠、大藪龍介、田畑稔
発行:新泉社
発売日:2019年11月28日
定価:2,800円(税抜)
サイズ:19cm、337ページ

マルクスをどう読むか。彼のライフワークである「資本論」から、哲学、政治理論、歴史理論、未来社会構想、エコロジー論まで、マルクス研究の今日的な到達点を提示。継承すべき成果と残された課題を明らかにする。


4位:ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来(岩波新書 新赤版)

著者:広井良典
発行:岩波書店
発売日:2015年6月19日
定価:860円(税抜)
サイズ:18cm、260ページ

近代科学とも通底する人間観・生命観にまで遡りつつ、人類史的なスケールで資本主義の歩みと現在を吟味。定常化時代に求められる新たな価値とともに、資本主義・社会主義・エコロジーが交差する先に現れる社会像を描く。



5位:よくわかる国連「家族農業の10年」と「小農の権利宣言」(農文協ブックレット)

編集:小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン
発行:農山漁村文化協会
発売日:2019年3月5日
定価:1,100円(税抜)
サイズ:21cm、114ページ

国連総会で、2019〜2028年を国連の家族農業の10年とすることが可決された。なぜ今、国際社会は家族農業の役割を再評価し、その政策的支援に乗り出そうとしているのか。家族農業および関連の深いテーマを解説する。


6位:民主主義の革命 ヘゲモニーとポスト・マルクス主義(ちくま学芸文庫)

著者:エルネスト・ラクラウ、シャンタル・ムフ
翻訳:西永亮、千葉眞
発行:筑摩書房
発売日:2012年11月7日
定価:1,600円(税抜)
サイズ:15cm、429ページ

新たなヘゲモニー概念を提起したポスト・マルクス主義の記念碑的著作。反核運動や性的マイノリティ、フェミニズム、エコロジー運動など新しい社会運動と労働闘争との「節合」の必要を説く。


7位:森の思想 新装版(河出文庫 南方熊楠コレクション)

著者:南方熊楠
編集:中沢新一
発行:河出書房新社
発売日:2015年4月28日
定価:1,420円(税抜)
サイズ:15cm、535ページ+図版32ページ

東アジア的な生命論から出発して未踏のエコロジー思想の存在を予告した熊楠。植物学論文、南方二書、神社と森を無残に破壊した神社合祀令に反対する意見書などにより、熊楠が見た生命の本質を追う。中沢新一の解題も収録。


7位:手塚マンガでエコロジー入門

著者:手塚治虫
発行:子どもの未来社
発売日:2019年8月26日
定価:1,500円(税抜)
サイズ:21cm、254ページ

手塚治虫が生前に発表したエコロジーに関わる作品の中から、「モンモン山が泣いてるよ」「ブラック・ジャック 老人と木」など8点を紹介。各作品末に、未完のエッセイ集「ガラスの地球を救え」から採録した文章を掲載する。


7位:エコロジカル・デモクラシー まちづくりと生態的多様性をつなぐデザイン

著者:ランドルフ・T. ヘスター
翻訳:土肥真人
発行:鹿島出版会
発売日:2018年4月12日
定価:5,500円(税抜)
サイズ:23cm、510ページ

【ポール・ダビドフ賞】人類の歴史的発展という文脈を描き出す、生産や文化など広範な分野に関係する文明論、エコロジカル・デモクラシー。地方・都市・コミュニティのデザイン分野からエコロジカル・デモクラシーを実現する意味・方法・価値を記す。


8位:自然なきエコロジー 来たるべき環境哲学に向けて

著者:ティモシー・モートン
翻訳:篠原雅武
発行:以文社
発売日:2018年11月20日
定価:4,600円(税抜)
サイズ:20cm、455ページ

エコロジーの概念から「自然」を取り除き、それによりエコロジーの概念を新しく作り直すことを試みる。人間の死のカルト化へと帰着したファシズム的な環境批評を批判し、新たな環境人文学を立ち上げるモートン思想の主著。


9位:マルクスとエコロジー 資本主義批判としての物質代謝論(Νυξ叢書)

編著:岩佐茂、佐々木隆治
発行:堀之内出版
発売日:2016年6月10日
定価:3,500円(税抜)
サイズ:20cm、364ページ

マルクスは環境破壊や環境保護について、どのようにとらえていたのであろうか? 現代的課題に応えうるマルクスのエコロジー論の生命力・可能性を探る試み。



10位:三つのエコロジー(平凡社ライブラリー)

著者:フェリックス・ガタリ
翻訳:杉村昌昭
発行:平凡社
発売日:2008年9月
定価:1,000円(税抜)
サイズ:16cm、177ページ

浅薄なエコ志向が孕む構造的問題を鋭く突き、エコロジー思想には環境、社会、精神の3つを統べる新たな知が必要と説く。マサオ・ミヨシによる解説付き。〔大村書店 1991年刊の再刊〕





artscape編集部のランキング解説

「エコロジー」。日常的によく耳にする言葉ですが、辞書で引くと「人間を生態系を構成する一員としてとらえ、人間と自然環境・物質循環・社会状況などとの相互関係を考える科学」(三省堂 大辞林 第三版より)とあります。今回のランキングからは、エコロジーが現代の政治・経済学と密接に関わる思想であることを改めて実感させられると同時に、マルクスが晩年に論じていたというエコロジー論が近年注目を集めていることも如実に伝わってきます(1位、3位、6位、9位)。
そんななかで注目したいのが、南方熊楠にまつわる書籍が2冊ランクインしていること。博物学者、生物学者、民俗学者などさまざまな顔を持ち、特に粘菌の研究でよく知られる南方ですが、彼の生きざまを漫画化した『猫楠 南方熊楠の生涯』(2位)では、水木しげるが“変人”南方のキャラクターを愛情とともに描き切っています。『森の思想 新装版』(7位)は、宗教史学者・中沢新一が南方の論文や資料をセレクトし編纂した「南方熊楠コレクション」(全5巻)のうちの一冊。いずれの本も、博覧強記で知られた南方の膨大な興味のなかから、日本人にとって身近なエコロジーの姿を再発見させてくれるかもしれません。一方、漫画界の巨人である手塚治虫も環境問題に大きな関心を寄せていたひとり。『手塚マンガでエコロジー入門』(同列7位)では、漫画作品のなかだけでなく、絶筆となったエッセイでも地球環境の危うさにたびたび警鐘を鳴らしていたことがわかります。
東京都現代美術館の「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展では、私たちが普段当たり前に享受している自然環境との接点や、それらを持続させるためのシステムを再考する機会を与えてくれるはず。家で過ごす時間も増えているであろう昨今の状況のなかで、これらの本を入り口にゆっくり考えてみてください。


ハイブリッド型総合書店honto(hontoサイトの本の通販ストア・電子書籍ストアと、丸善、ジュンク堂書店、文教堂)でキーワード「エコロジー」の書籍の全性別・全年齢における購買冊数のランキングを抽出。〈集計期間:2019年3日16日~2020年3月15日〉

2020/04/01(水)(artscape編集部)

カタログ&ブックス | 2020年03月15日号[近刊編]

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます





ほんきであそぶとせかいはかわる

著者:森村泰昌
発行:LIXIL出版
発行日:2020年3月7日
定価:2,700円(税抜)
サイズ:A4変型、126ページ

美術家の森村泰昌が、富山県美術館のコレクションを大胆キュレーション! 「あそび」の3文字に込めた、モリムラ流あたらしい美術鑑賞の方法を提案。見慣れた作品でも、見方の発想を変えると新しい発見があり、それはきっと、私たちのなにげない日常の世界の見方でも同じこと。美術作品との出会いを通して、さまざまな世界へのふれ方をさぐる、ひらくたび新しい発見に出会える一冊。

青森EARTH2019:いのち耕す場所 ──農業がひらくアートの未来

著者:浅野友理子、東千茅、雨宮庸介、安藤昌益、岩名泰岳、江渡狄嶺、遠藤水城、奥脇嵩大、片岡龍、椹木野衣、白取克之、丹羽良徳、リ・ビンユアン、胡昉、森元斎、山内明美
デザイン:大西正一
発行:青森県立美術館
発行日:2019年10月31日
定価:2,500円(税抜)
サイズ:A5変型、184ページ

2019年10月5日〜12月1日に青森県立美術館で開催された「青森EARTH2019:いのち耕す場所 ──農業がひらくアートの未来」展のカタログ。作品図版や会場風景のほか、農家、哲学者、歴史社会学者、思想史家、キュレーター、農の担い手らによる論考を多数収録。

デジタル写真論 イメージの本性

著者:清水穣
発行:東京大学出版会
発行日:2020年2月19日
定価:4,900円(税抜)
サイズ:A5判、248ページ

SNSやスマートフォンによって全面化するデジタル写真とは何か? その本性と可能性を松江泰治やヴォルフガング・ティルマンスらの具体的な作品を詳細に解析することで考察する。水や空気のように遍在することで透明化してしまったデジタル写真を真に見るための必読書。著者幻のデビュー論考「不可視性としての写真」(改訂版)も所収。

連続と断絶 ホワイトヘッドの哲学

著者:飯盛元章
発行:人文書院
発行日:2020年1月30日
定価:4,500円(税抜)
サイズ:四六判、324ページ

孤高の哲学者アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド。事物の有機的連関を重視し、恐るべき密度と宇宙的壮大さを併せ持つその思想は、長らく哲学界の傍流であった。しかし、現在、思弁的実在論、オブジェクト指向哲学など、21世紀の思想潮流のなかで再び注目されている。本書は、これまで事物の連続性が重視されてきたホワイトヘッド哲学に、存在の深き断絶の契機を見出し、ハーマン、メイヤスーとの比較をふまえ、その哲学の全体性と独自性を描き直してゆく。光も届かぬ存在の彼方、想像力の彼方、宇宙の彼方へと哲学を導く、闇の形而上学の誕生。

あいたくて ききたくて 旅にでる

著者:小野和子
編集:清水チナツ
写真:志賀理江子
デザイン:大西正一
寄稿:濱口竜介・瀬尾夏美・志賀理江子
発行:PUMPQUAKES
発行日:2020年1月
定価:2,700円(税抜)
サイズ:A5変形、368ページ

これまで50年にわたり東北の村々を訪ね、民話を乞うてきた民話採訪者・小野和子。
採訪の旅日記を軸に、聞かせてもらった民話、手紙、文献などさまざまな性質のテキストを、旅で得た実感とともに編んだ全18話と、小野の姿勢に共鳴してきた若手表現者—濱口竜介(映画監督)、瀬尾夏美(アーティスト)、志賀理江子(写真家)の寄稿がおさめられています。
表紙や本中には志賀が東北で撮りおろした写真を掲載。
一字一字を精密に美しく組んだ大西正一によるデザインワークも魅力のひとつです。

風景の哲学 芸術・環境・共同体

著者:パオロ・ダンジェロ
翻訳:鯖江秀樹
発行:水声社
発行日:2020年2月25日
定価:3,000円(税抜)
サイズ:四六判上製、297ページ

あらゆる場所で出くわす〈風景〉という言葉はいったい何を意味しているのだろうか。現代イタリアを代表する美学者が、〈風景〉という概念とそのイメージを根本から捉え直し、映画、美術、法制度まで、環境美学の成果に応答しながら横断的に思考することで、〈風景〉の問題に美学の側からアプローチする。

「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ

著者:長島有里枝
発行:大福書林
発行日:2020年1月15日
定価:3,300円(税抜)
サイズ:四六判、412ページ

1990年代に若い女性アーチストを中心として生まれた写真の潮流──同世代の多くの女性に影響を与え、一大「写真ブーム」を巻き起こしたムーブメントについて、長島有里枝が、仕事と子育てに追われながら大学院に通ってジェンダーを学び、大人たちが気軽に放った不誠実な言説の数々を検証した。現役写真家による90年代写真史としても貴重な一冊。

シアターコモンズ'19 レポートブック

執筆:岩城京子、越智雄磨、川本瑠、黒川知樹、佐藤朋子、菅原伸也、相馬千秋、なかむらなおき、林立騎、冨士盛健雄、星野太、前原拓也、三浦翔、水野妙、シアターコモンズ実行委員会
発行:シアターコモンズ実行委員会
発行日:2019年8月31日
定価:700円(税込)
サイズ:A5判、70ページ

2019年2月・3月に開催された「シアターコモンズ19」のドキュメント冊子。9ページに渡る詳細なシンポジウムの記録、岩城京子氏による本レポートブックのためのテキスト書き下ろし総評、若手批評家、研究者等による各演目レポートなど、充実の70ページ!





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https://honto.jp/

2020/03/15(日)(artscape編集部)

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田附勝『KAKERA』

発行所:T&M Projects

発行日:2020年2月

写真に限らず、どんなアート作品でも「思いつきを形にする」ところからスタートする。だが、それが単なる生煮えの「思いつき」だけに終わってしまうのか、それとも熟成して高度な作品にまで辿り着くかに、アーティストの力量があらわれてくるといえそうだ。

田附勝の『KAKERA』もその始まりは偶然の産物だった。2012年の夏、田附は新潟で縄文土器が発掘されたという知らせを聞き、現場に向かった。その破片を目にした時、そこに積み重なった「時間」の厚みを感じて、「重くて熱い血液が上昇してくる」ように感じる。田附は縄文土器を撮影するために新潟に通うようになり、ある博物館の資料室で新聞紙に包まれた縄文土器の破片を見せてもらった。土器片を整理するときに、保管状態をよくするために、その場にあった新聞紙を使うのだという。たまたま、その新聞の日付が「2011年3月13日」、東日本大震災から2日後のものだったことで、何かがスパークした。田附は震災前から東北地方に足を運び、写真集『東北』(リトルモア、2011)を刊行していた。その記憶が鮮やかに甦り、「いくつにも積み重なった地層。表層と深層を繋ぐ時間」がそこに顔を覗かせたのだ。

本作『KAKERA』は、田附がその後さまざまな博物館、資料室などを訪ね歩き、縄文土器の破片とそれらを包んでいた新聞紙を撮影した写真群によって構成されている。「時間」そのものの結晶というべき土器のたたずまいにも引きつけられるが、それ以上にそのバックの新聞記事が気になってしまう。1918年の「米の対露声明」から2015年の「戦後70年反省とおわび」まで、その間に太平洋戦争、戦後の復興、高度経済成長の時期、東日本大震災など、日本と世界の歴史が含み込まれている。縄文土器が土中で経てきた「時間」と比較すれば、わずかな光芒かもしれないが、それでもひとりの日本人の生涯を超えるほどの「時間」が過ぎ去っているのだ。

『KAKERA』は、2種類の時間を一気に結びつけるという卓抜なアイディアを、的確な構図とライティングによって完璧に実現した写真シリーズである。町口覚の造本設計、浅田農のデザインも、写真の内容にうまくフィットしている。なお、写真集の刊行にあわせて、あざみ野フォト・アニュアルの一環として田附の個展「KAKERA きこえてこなかった、私たちの声」(1月25日〜2月23日)が開催された。

関連レビュー

田附勝『魚人』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2016年03月15日号)

田附勝『東北』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2011年09月15日号)

2020/03/07(土)(飯沢耕太郎)

安藤忠雄(原作)/はたこうしろう(絵)『いたずらのすきなけんちくか』

発行所:小学館

発行日:2020/03/03

建築家の安藤忠雄が、大阪・中之島公園内に子ども向け図書館「こども本の森 中之島」を設計し、大阪市に寄贈した(2020年3月1日開館予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、現在、開館が延期されている)。その開館に合わせて刊行されたのが本書である。なんと安藤が初めて挑んだ絵本ということで興味を惹かれ、手に取ってみた。当然、同図書館の紹介を切り口としながらも、途中から「建築とは何か」という安藤の思想に迫る内容となっていた。

主人公は小学生くらいの兄妹。父に連れられて「こども本の森 中之島」を訪れるが、父とは入り口で別れ、兄妹だけで館内を探検する。3フロア吹き抜けの構造や壁一面に設けられた本棚など、館内を一望する絵がまず大きく描かれる。肝はここからだ。本棚の脇から伸びる細い廊下を発見した兄妹は、「ひみつの においがする」と興味津々で突き進む。すると天井が高い円筒形の空間にたどり着いた。なんとも不思議な空間にワクワクする兄妹の前に、黒い服を着たおじさんが現われる。このおじさんこそ、安藤忠雄らしき人物だ。本物よりやけにスレンダーで若々しいのが気になるが、髪型はそっくりに描かれている。兄妹からおじさんへ素朴な質問が次々と投げかけられ、おじさんは率直に答える。これが実に興味深い。この円筒形の空間のように、よくわからない変な場所は何のためにあるのか。キーワードとして、おじさんは「いたずら」という言葉を使う。頑丈で機能的な建物は便利だけど、それだけではつまらない。「だから ぼくは、たてものに いたずらを しこむんだ」と。

その事例として直島の「ベネッセハウス」や大阪の「光の教会」、「住吉の長屋」など、安藤の代表的な建築作品が登場する。壁一面の十字架も、雨の日に部屋から部屋へ移動するときに傘をさして歩くことも、すべて安藤のいたずらだったのか! 子どもに向けたわかりやすい言葉として選ばれたとはいえ、いたずらという言葉は実に言い得て妙である。これは悪ふざけというよりは、「無駄なもの」という意味に近い。一見、無駄に思えるものこそ、「どんな風に使おうか」と人の想像力をかき立てるから面白いのだ。それが、安藤が建築に求める真髄だった。確かにその通りなのだ。便利なものは人の心にあまり残らないが、面白いものは心にずっと残り続ける。安藤の建築作品が印象的なのは、大人が真剣に考えて設計、施工したいたずらが仕込まれているからなのだ。

2020/03/05(木)(杉江あこ)

カタログ&ブックス | 2020年3月1日号[テーマ:デンマーク]

テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、東京都美術館で開催されている話題の展覧会「ハマスホイとデンマーク絵画」(2020年3月26日まで)にちなみ「デンマーク」。展示のなかでもデンマークという国の近代絵画の系譜が紐解かれており、そこに通底する静謐な魅力にハッとした人も多いのではないでしょうか。「デンマーク」というキーワードに関連する書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
ハイブリッド型総合書店honto調べ。書籍の詳細情報はhontoサイトより転載。

「デンマーク」関連書籍 購買冊数トップ10

1位:シェイクスピア全集 1 ハムレット(ちくま文庫)

著者:シェイクスピア
翻訳:松岡和子
発行:筑摩書房
発売日:1996年1月26日
定価:660円(税抜)
サイズ:15cm、296ページ

デンマークの王子ハムレットは、父王の亡霊から、叔父と母の計略により殺されたことを知らされ、固い復讐を誓った。悩み苦しみながらも、狂気を装い、ついに復讐を遂げるが自らも毒刃に倒れる。美しい恋人オフィーリアは、彼の変貌に狂死する。数々の名セリフを残したシェイクスピア悲劇の最高傑作の新訳。脚注・解説・日本での上演年表付き。

2位:柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記

著者:柳家喬太郎
発行:フィルムアート社
発売日:2019年3月26日
定価:1,900円(税抜)
サイズ:19cm、245ページ

字幕付き落語に挑戦したデンマーク、アイルランドでのワークショップ、ケンブリッジ大学での落語公演、アイスランド大使公邸での晩餐会…。柳家喬太郎はじめての欧州ツアーの顚末を、写真とともに一挙公開。

3位:ヴィルヘルム・ハマスホイ沈黙の絵画(コロナ・ブックス)

監修:佐藤直樹
発行:平凡社
発売日:2020年1月26日
定価:2,000円(税抜)
サイズ:22cm、126ページ

この静寂の奥には、秘密が隠されている─。デンマークが生んだ孤高の画家ハマスホイ。国内未発表を含む代表作54点を収録し、謎めいた室内画を描き続けたその静謐さの魅力に迫る。

4位:デンマーク家具 時を超える魅惑のモダン・デザイン(別冊太陽)

編集:山根郁信
発行:平凡社
発売日:2014年5月22日
定価:2,300円(税抜)
サイズ:29cm、143ページ

控えめで上品、質感の効果と素材への細やかな配慮を体現したデンマークのデザイン。日本文化の影響、家具デザイナーの人と作品など、1940年代から現在までのデンマーク家具をデンマーク人研究者たちによる解説で紹介する。

5位:SOMETHING STRANGE THIS WAY

著者:ジャネット・カーディフ ほか
発行:青幻舎
発売日:2017年11月1日
定価:2,500円(税抜)
サイズ:B5変判、201ページ

ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーの作品や制作風景、生活の様子をとらえた写真のほか、本人のコメントやキュレーターの論考、作品に関連したキーワードなどを収録し、彼らの独自の世界観に迫る。

6位:映画のなかの「北欧」 その虚像と実像

編著:村井誠人、大島美穂、佐藤睦朗、吉武信彦
発行:小鳥遊書房
発売日:2019年11月29日
定価:2,400円(税抜)
サイズ:21cm、294ページ

デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン…。60本以上の北欧の映画を「ストーリー」「作品の背景と現実」等の観点から幅広く紹介し、北欧の“虚像と実像”に迫る。掲載映画の詳細データ付き。

7位:ショップイメージグラフィックスイン北欧 Living, Food, Fashion, Service

発行:パイインターナショナル
発売日:2010年9月
定価:9,800円(税抜)
サイズ:31cm、184ページ

巨匠のデザインを現代に取り入れ、新しく生み出された北欧デザイン。日本でも人気の高いスウェーデン、フィンランド、デンマークのショップアイデンティティを紹介する。



8位:最新!北欧デザイン・コレクション

編集:ヴィクショナリー
発行:グラフィック社
発売日:2018年1月10日
定価:3,800円(税抜)
サイズ:26cm、309ページ

北欧デザインの真髄ともいうべき削ぎ落としの妙技が光る、デザイン事例の数々。デンマーク、フィンランドなどを拠点とするクリエイターらの、140以上の最先端プロジェクトを紹介する。

9位:ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人(ToBi selection)

著者:萬屋健司
画:ヴィルヘルム・ハマスホイ
発行:東京美術
発売日:2020年1月27日
定価:2,300円(税抜)
サイズ:26cm、143ページ

19世紀末から20世紀にかけて活動したデンマーク人画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ。デビュー作から、最後に描いた室内画まで、画家の創作活動を辿りながら、その人生と同時代のデンマーク美術の一端を紹介する。

10位:NERO YOUTH UGLY LISS LADY BIRD PUMA BLUE PINKY PINKY LITTLE SIMZ SE SO NEON

企画・監修:neromagazine
発行:nero編集部
発売日:2019年4月25日
定価:1,800円(税抜)
サイズ:29cm、157ページ

アンダー25のアーティストを中心に取材。前から、次世代のイギリスのバンド「アグリー」のサムと「レディーバード」のアレックス、後ろからデンマークのバンド「LISS」のインタビューなどが読める。





artscape編集部のランキング解説

話題の「ハマスホイとデンマーク絵画」展の関連書籍(3位、9位)が複数ランクインする一方で、北欧といえばデザインのイメージがやはり根強いのか、現地のグラフィック・空間デザインなどの事例集(7位、8位)や、洗練と温かみが共存するデンマーク家具を深く知るビジュアルブック(4位)がランキングのなかでも目立ちます。
しかしそれらを押さえての1位はなんと、誰もが知るシェイクスピアの傑作「ハムレット」の新訳。シェイクスピアはそもそもイギリスの人だったはず、と思いきや、主人公ハムレットがデンマークの王子だという設定は意外と知られていません。落語家・柳家喬太郎が北欧を中心にヨーロッパを巡った際の道中記(2位)のなかで描かれるデンマークも、噺家ならではのユーモアに富んだ形容が盛りだくさんで、書き手の実感が伝わる楽しい一冊です。雑誌『NERO』(10位)に掲載のデンマーク・オーフス出身の新鋭バンド「LISS」のインタビューでは、10代でデビューした彼らの視点からの現代デンマーク観にも少し触れられるはず。
遠く離れた日本では北欧というカテゴリでひと括りにされがちですが、個別の土地の歴史やディテールを知ることでイメージの解像度がぐんと上がる体験は読書ならでは。展覧会の前でも後でも、デンマークを出発点に北欧への印象を拡張してみてください。


ハイブリッド型総合書店honto(hontoサイトの本の通販ストア・電子書籍ストアと、丸善、ジュンク堂書店、文教堂)でジャンル「芸術・アート」キーワード「デンマーク」の書籍の全性別・全年代における購買冊数のランキングを抽出。〈集計期間:2019年2月1日~2020年1月31日〉

2020/03/02(月)(artscape編集部)

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