2022年12月01日号
次回12月15日更新予定

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カタログ&ブックス | 2022年12月1日号[テーマ:ウォーホルをこの人はどう見ていたか? 個人の記憶と時代が交差する5冊]

言わずと知れたポップ・アートの旗手ウォーホル。1956年の初来日時の京都と彼の接点にも目を向けた大回顧展「アンディ・ウォーホル・キョウト」(京都市京セラ美術館で2022年9月17日~2023年2月12日開催)に際し、日本の作家や芸術家たちがウォーホルに向けた個人的な眼差しが時代背景とともに垣間見える5冊を選びました。

※本記事の選書は「hontoブックツリー」でもご覧いただけます。
※紹介した書籍は在庫切れの場合がございますのでご了承ください。
協力:京都市京セラ美術館


今月のテーマ:
ウォーホルをこの人はどう見ていたか? 個人の記憶と時代が交差する5冊

1冊目:見えない音、聴こえない絵(ちくま文庫)

著者:大竹伸朗
発行:筑摩書房
発売日:2022年8月10日
サイズ:15cm、363ページ

Point

アーティスト・大竹伸朗によるエッセイ集。大量消費社会の合わせ鏡としてのウォーホル作品に対する著者の問題意識が綴られる「ウォーホル氏」の章だけでなく、子供時代の雑誌や漫画との衝撃的な出会い、コラージュという手法に目覚めた瞬間など、著者の現在の作家活動にもつながる記憶のディテール描写に気づけば夢中に。


2冊目:ウォーホルの芸術 ~20世紀を映した鏡~(光文社新書)

著者:宮下規久朗
発行:光文社
発売日:2010年4月
サイズ:18cm、294ページ

Point

日本でのウォーホルの回顧展にも関わった美術史家の目線から、メディアを通してセンセーショナルにつくり上げられていった国内でのウォーホルのイメージと、実は多くの人が深くは理解していないであろう美術史上での彼の作品の意義を俯瞰的に解説。ウォーホルという人物を知るうえでの最初の一冊としてもおすすめです。


3冊目:サブカルズ(角川ソフィア文庫 千夜千冊エディション)

著者:松岡正剛
発行:KADOKAWA
発売日:2021年1月22日
サイズ:15cm、428ページ

Point

現代の知の大家・松岡正剛による「サブカル」に関する書評集。1世紀前のアメリカにサブカルチャーの起源を見出し、日本の漫画・ラノベに至るまで、植草甚一、都築響一、東浩紀などの著書も網羅。ウォーホル『ぼくの哲学』評では「とびきり猜疑心が強くて、ひどく嫉妬心が強い」ウォーホルの人物像を魅力的に描いています。



4冊目:CONTACT ART 原田マハの名画鑑賞術

著者:原田マハ
発行:幻冬舎
発売日:2022年10月26日
サイズ:20cm、191ページ

Point

作家・原田マハが日本各地の美術館を訪ね、モネ、ルソー、東山魁夷など名だたる絵画と向き合い語られる、彼女流の作品解説。福岡市美術館で鑑賞するウォーホルのシルクスクリーン作品「エルヴィス」の章も収録。「美術館大国」として日本を少し違った角度から見つめ直すこともできる、アートファンに広く薦めたい一冊です。



5冊目:自画像のゆくえ

著者:森村泰昌
発行:光文社
発売日:2019年10月17日
サイズ:18cm、615ページ

Point

絵画や作家に扮したセルフポートレイト作品を通してアイデンティティとイメージの関係を問い続ける美術家・森村泰昌が「自画像」という軸で語り直す、世界と日本の美術史。ウォーホル作品を深く読み解く第8章だけでなく、ダ・ヴィンチ、ゴッホから現代日本のコスプレ文化やセルフィーに至るまでの、その射程の広さに驚嘆。







アンディ・ウォーホル・キョウト

会期:2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)
会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」(京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124)
公式サイト:https://www.andywarholkyoto.jp/


[展覧会図録]
「アンディ・ウォーホル・キョウト」公式図録

編集:ソニー・ミュージックエンタテインメント、イムラアートギャラリー
発行:ソニー・ミュージックエンタテインメント ©2022-2023
発行日:2022年9月17日
サイズ:A5判型(145×210mm)、340ページ

出品作品のカラー図版と詳細な解説文、本展キュレーターのホセ・ディアズ氏(アンディ・ウォーホル美術館)の「ウォーホルと日本:1956年」と山田隆行氏(京都市京セラ美術館)の「アンディ・ウォーホル・イン・キョウト─ウォーホルの京都滞在(1956年)を振り返る─」論文を収録。1956年のウォーホル来日時の足跡をたどり、ウォーホル芸術に日本が与えた影響を考察します。ニューヨークの「ファクトリー」を二度訪問し、生前のウォーホルと交流のあった美術家・横尾忠則氏によるエッセイも必読! その他にもアンディ・ウォーホル美術館のアーカイブをまとめた『A is for Archive』からファッションをテーマとした「F is for FASHION」を本書のために翻訳。1956年と1974年の二度の日本訪問を記録した貴重な写真を多数収録した永久保存版。

◎展覧会会場にて販売中。

2022/12/01(木)(artscape編集部)

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カタログ&ブックス | 2022年11月15日号[近刊編]

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます





ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ:どこにもない場所のこと

著:中田耕市/パク・ジュウォン(韓国国立現代美術館)
発行:金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]
発行日:2022年9月30日
サイズ:A4変形判、128ページ

2022年5月3日(火・祝)〜9月4日(日)まで、金沢21世紀美術館にて開催されていた展覧会「ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ:どこにもない場所のこと」のカタログ。




今井俊介 スカートと風景

著:天野太郎/竹崎瑞季
発行:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、公益財団法人ミモカ美術振興財団
発行日:2022年10月
サイズ:29.7cm× 21.1cm× 1.6cm

2022年7月16日(土)〜11月6日(日)まで、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館にて開催されていた企画展「今井俊介 スカートと風景」のカタログ。






「北欧デザイン」の考え方

著:渡部千春
発行:誠文堂新光社
発行日:2022年10月12日
サイズ:A5変形判、224ページ

家具、建築、テキスタイル、工芸、グラフィック……「北欧デザイン」の全体像が理解できる決定版   シンプルで洗練されたデザイン家具や日用品が日本でも長年愛されている北欧デザイン。近年では、環境や社会福祉に配慮した素材選びや生産体制など、北欧のものづくりの思想や価値観そのものが、「北欧デザイン」という現代的なデザイン・ライフスタイルとして広く浸透しつつあります。






帝国の祭典 博覧会と〈人間の展示〉

著:小原真史
発行:水声社
発行日:2022年10月14日
サイズ:B5変形判、120ページ

1851年にロンドンで始まった万博。そこでは産業製品が示す明るい未来への欲望と異国の品々が掻き立てる遠方への欲望が交叉し、壮大なスペクタクルをつくり出していた。やがて博覧会は、商品と娯楽の殿堂となり、植民地帝国の威容を示す舞台装置となり、異文化との出会いの場となった。 非西洋の集落をまるごと再現した〈ネイティヴ・ヴィレッジ〉、「異質」な身体を見世物にしたフリークショー、日本初の〈人間の展示〉施設となった人類館……。人々は新たに出会った他者をどのように展示し、世界を認識しようとしたのか。著者による膨大な博覧会資料コレクションから、見ること/見せることをめぐる欲望を問う。






モダンの身体 マシーン・アート・メディア

編著:中村嘉雄/小笠原亜衣/塚田幸光
発行:小鳥遊書房
発行日:2022年10月17日
サイズ:A5判、376ページ

近代科学とテクノロジーの「知」的産物、広告手段=メディア/身体=人間 「マシーン」「アート」「視覚メディア」「他者」を鍵概念に
ロシア、アメリカ、ドイツ、日本、カリブ諸島と広範囲にわたって
戦間期モダニズムにおける身体とメディアの境界
を多角的に論じる!






シベリアのビートルズ イルクーツクで暮らす

著:多田麻美
発行:亜紀書房
発行日:2022年10月19日
サイズ:四六判、208ページ

著者は、無類のビートルズファンである画家のスラバと結婚し、2018年からイルクーツクに暮らす。
西側の情報が入らないソ連下で、ロック少年として暮らしたスラバは、ペレストロイカをくぐり抜け、激変する社会を生き抜いてきた。
彼の波乱に満ちた人生と、自らの人生を重ねながら、別の価値観で動く社会のなか、人々はどのように暮らしているのか、アートや音楽や文学は、彼らをどのように支えているのか。






戦後日本の抽象美術 具体・前衛書・アンフォルメル

著:尾﨑信一郎
発行:思文閣出版
発行日:2022年10月26日
サイズ:A5判、528ページ

GUTAI、『墨美』、アンフォルメル旋風、数々の神話に彩られた1950年代の関西の美術を「素晴らしい遊び場」ではなく、欧米に由来するモダニズム美術の一つの臨界としてとらえ直すことは可能か。学芸員生活35年を迎える著者が国内外の数々の展覧会カタログに寄稿した論文を通して、浮かび上がる戦後日本の抽象美術の核心。身体と物質、アクションとタブロー、そしてグローバリズム。多くの作家やコレクター、批評家たちと交流する中で日本の戦後美術の連続と断絶を展覧会によって検証してきた著者ならではの視点による戦後美術史の再検証。






試展ー白州模写 「アートキャンプ白州」とは何だったのか

編集:市原湖畔美術館
発行:市原湖畔美術館
発行日:2022年10月29日
サイズ:B5判、280ページ

2022年10月29日(土)〜2023年1月15日(日)まで、市原湖畔美術館にて開催されている展覧会「試展-白州模写 「アートキャンプ白州」とは何だったのか」のカタログ。






石を送るメール・アート読本

著:堀川紀夫/富井玲子
発行:現代企画室
発行日:2022年11月2日
サイズ:B5変形判、144ページ

1969年にスタートし、70年代の現代美術シーンで脚光を浴びた堀川紀夫の《石を送るメール・アート》。その後、さまざまな紆余曲折を経て今なお継続し、国際的な評価を高めつつある稀有なプロジェクトの発端、展開、中断、再開のプロセスを、その都度の作家の判断も交えてクロニクル形式で綴る新たなスタイルの「作品集」。堀川らのGUN(新潟現代美術家集団)や松澤宥、THE PLAYなど、1960年代から70年代にかけて日本の各地に出現した前衛的な取り組みの世界美術史における位置付けや、後にかたちを残さないアートプロジェクトにおける作品と記録の関係を論じる美術史家・富井玲子の論考なども収録。






土偶美術館

著:小川忠博
発行:平凡社
発行日:2022年11月5日
サイズ:B5変形判、208ページ

40年間、日本各地で縄文資料の撮影を続けてきた小川忠博による土偶写真集。縄文のヴィーナスをはじめ、土偶300点を収録。






美術家たちの学生時代

著:功刀知子
発行:芸術新聞社
発行日:2022年11月5日
サイズ:19cm、199ページ

美術家たちはどのように唯一無二の「自分」を確立してきたのか。舟越桂、塩田千春、千住博、町田久美、山口晃など、第一線で活躍する美術家たちにインタビュー。学生時代の話を中心に、知られざるバックボーンに迫る。








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https://honto.jp/

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます



2022/11/14(月)(artscape編集部)

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エバレット・ケネディ・ブラウン『Umui』

発行所:サローネ フォンタナ

発行日:2022/10/30

1959年、アメリカ・ワシントンD.C.生まれの写真家、日本文化史研究家のエバレット・ケネディ・ブラウンは、このところ初期の写真技法である湿版写真(Wet collodion process)で日本各地の風景、人物、祭事などを撮影している。沖縄県立芸術大学客員研究員(歯科医師、わらべ唄研究家)の高江洲義寛が監修した本作では、沖縄各地を湿版写真で撮影した。

ブラウンが写真撮影を通じて見出そうとしたのは、沖縄人の魂の表出というべき「 UMUI=ウムイ」の在処である。「UMUI」は「思い」と表記されることが多いが、ブラウンによれば「心の中に湧き上がる祈りや感情」であり「生命の叫び」でもある。沖縄の人々、大地、植物、遺跡などに漂う「UMUI」はむろん目に見えたり、手で触ったりできるものではない。だが、あえて露光時間が長くかかり、暗室用のテントで、撮影後すぐに現像・定着をしなければならない湿版写真で撮影することで、被写体をオーラのように取り巻く「UMUI」を捉えようと試みている。そこにはたしかに、沖縄の地霊を思わせる何ものかが、おぼろげに形をとりつつあるように見えてくる。

もう一つ興味深かったのは、そこに写っている沖縄の人たちのたたずまいが、太平洋のより南方の地域に住む人々と共通しているように見えることである。これには理由があって、ガラスのネガを使う湿版写真は、赤に対する感度が低いので、肌や唇の色がやや黒っぽく写ってしまうのだ。だが、そのことによって、沖縄の精神文化がむしろ南方の環太平洋地域に出自をもつものであることが、問わず語りに浮かび上がってくる。日英のテキストと写真とを交互に見せる写真集の構成(デザイン=白谷敏夫)もとてもうまくいっていた。

2022/11/05(土)(飯沢耕太郎)

藤原更『Melting Petals』

発行所:私家版

発行日:2022/10/22

藤原更はユニークな軌跡を描く写真家である。コマーシャル・フォトの世界からアート写真の世界に転じ、2000年代以降は東京・広尾のEmon Photo Gallery(2020年に閉廊)を中心に展覧会を積み重ねていった。ポラロイド写真などによって制作した画像を大きく引き伸し、ギャラリー空間にインスタレーションした作品は、アメリカやヨーロッパ諸国でも評価が高い。今回、町口覚のデザインによって私家版で刊行された『Melting Petals』は、彼女にとっては最初の本格的な写真集となる。

写真集は「Scattered Memories in the Field of Transience(うつろいゆく領域にちりばめられた記憶)」「VOID: Inseparable Domains(空虚:分割できない場所)」「Uncovered Present(見出された現在)」の三部構成であり、それぞれ5~7枚の写真が収められている。ほとんどは色面とフォルムに単純化された抽象的なイメージであり、ポラロイド写真の感光乳剤を剥がしとる「ピーリング」と称する技法を駆使することで、日常の世界からは離脱する幻影のような空間が構築されていた。

とはいえ、主に赤と緑のグラデーションによって織り成された画像は、奇妙に生々しい現実感もまた備えている。それは、これらの写真群の被写体となっているのが、芥子の花(ポピー)であることからもきているのだろう。芥子の花はいうまでもなく阿片の原料でもあり、美しさだけでなく、ある種の魔術性、どこか禍々しい気配を秘めている。藤原はそのあたりを十分に考慮しつつ、ともすれば紋切り型になりがちな「花」の写真に、既存の価値の原理を掻き乱すような要素を付け加えようとした。

たしかに、これまで藤原が発表してきた「花」や植物の写真と比較しても、「Melting Petals」は特別な意味をもつシリーズといえる。とはいえ、藤原の写真家としての可能性は、本写真集におさめられた23枚の写真群だけに収束していくものではないはずだ。むしろその仕事の幅を、さらに広げていくべき時期に来ているのではないだろうか。なお、写真集刊行に合わせて、東京・銀座の森岡書店で出版記念展も開催されている(2022年10月25日〜30日)。


関連レビュー

藤原更「Melting Petals」|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2019年08月01日号)

2022/11/04(金)(飯沢耕太郎)

王露『Frozen are the Wind of Time』

発行所:ふげん社

発行日:2022/10/22

王露(Wang Lu)は1989年、中国山西省出身の写真家。武蔵野美術大学、東京藝術大学で写真を学び、いくつかの賞を受賞している。本作は、2021年にふげん社で開催された同名の個展に出品されたものだが、その時点から写真の数を大幅に増やし、構成も大きく変えて面目を一新し、ハードカバーの写真集として刊行した。同時期に、キヤノンオープンギャラリーで個展も開催している(2022年10月29日~12月1日)。

写真作品の重要なテーマになっているのは、王露自身の父親である。父親は彼女が12歳の時、事故によって脳に損傷を負い、社会生活が難しくなった。記憶が曖昧になり、精神的な障害もある。写真集は事故以前の、若く、幸せそうな父と母の写真の複写から始まり、帰省のたびに二人を撮影した写真が続く。父親が、撮影を拒否するように手で顔を隠す写真が繰り返し出てくるが、不安と諦念を抱え込んだ母親の表情とともに強く印象に残る。撮り続けなら、彼らの生、自分との関係のあり方について、王が自問自答している様が切々と伝わってくる。とはいえ、ネガティブな印象はあまりなく、見つめ続けることで認識が深まり、写真家としての自覚に繋がってくることがよくわかる構成になっていた。

家族の写真に加えて、もう一つ大事なのは、生まれ故郷で、現在も父母が暮らす山西省太原市の環境の変化が丁寧に描写されていることだ。ほかの中国の大都市と同様に、太原市もここ10年余りで都市化が急速に進行し、大きく変貌していった。その移りゆきと、病を抱え込んだ家族の姿とが対比されることで、本作は単純な「私写真」の枠に収まることなく、より大きなスパンを備えた社会的ドキュメンタリーとして成立している。今後の彼女の仕事への期待が高まる作品集だった。

2022/11/04(金)(飯沢耕太郎)

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