artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス | 2023年9月15日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます。「honto」は書店と本の通販ストア、電子書籍ストアがひとつになって生まれたまったく新しい本のサービスです。
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明日少女隊作品集「We can do it !」
著者:明日少女隊
発行:アートダイバー
発行日:2023年7月26日
サイズ:B5変型判、156ページ
「第4波フェミニズム」期のまっただなか、2015年に誕生した社会派アートグループ「明日少女隊」。これまでの作品や活動を網羅するだけでなく、ジェンダー学の基礎知識や時事問題をふんだんに盛り込み、「フェミニスト×アート」を実践的に学べる入門書決定版!
超老芸術
著者:櫛野展正
発行:ケンエレブックス
発行日:2023年7月29日
サイズ:A5判、304ページ
2023年10月3日~10月8日まで、アーツカウンシルしずおかで開催される展覧会の図録。
「超老芸術」とは著者の造語で、「老いを超える」という字のとおり、高齢になってから、または高齢になってもなお、精力的に表現活動をおこなっている人たちのことである。
本書は厳選した25名の超老芸術家の作品とインタビューをオールカラーで収録。長い人生の中で成功だけでなく身近な人の死、貧困、災害などさまざまな喪失体験も重ねながら、それらを表現へと昇華する超老芸術家たちはどういった人生を歩み、なぜその表現に至ったのか。
日本で唯一の「アウトサイダーキュレーター」である著者が、人生100年時代に長く楽しく生きるヒントを彼らのなかに探る。
なぜ美を気にかけるのか 感性的生活からの哲学入門
著者:ドミニク・マカイヴァー・ロペス、ベンス・ナナイ、ニック・リグル
翻訳:森功次
発行:勁草書房
発行日:2023年8月1日
サイズ:四六判、192ページ
お気に入りの服を着る、おいしいものを食べる、好きな映画をみる──こうした日常のさまざまな美的選択は、人生にどのような意味をもたらすのか。人はなぜ美的な暮らしを送るのか。現代美学を代表する論者たちが3つの答えを提案する、哲学入門の授業向けに書かれた教科書。著者たちによる座談会とティーチングガイドつき。
小杉幸一(ggg Books 世界のグラフィックデザイン)
著者:小杉幸一
発行:DNP文化振興財団
発行日:2023年8月2日
サイズ:19cm、63ページ
デザインでその企業や商品、サービスのキャラクターを明快にし、クリエイティブディレクション、アートディレクションを行う小杉幸一の活動の航跡をたどる作品集。ポスターやチラシ、装丁等のデザインをカラーで紹介する。
創造性はどこからやってくるか──天然表現の世界(ちくま新書)
著者:郡司ペギオ幸夫
発行:筑摩書房
発行日:2023年8月3日
サイズ:新書判、288ページ
考えてもみなかったアイデアを思いつく。急に何かが降りてくる─。そのとき人間の中で何が起こっているのか。まだ見ぬ世界の〈外部〉を召喚するためのレッスン。
Dance Fanfare Kyoto Document vol.01-04ダンスの閉塞感から身体の可能性へ
企画・編集・発行:Dance Fanfare Kyoto実行委員会(きたまり、和田ながら、川那辺香乃、竹宮華美、御厨亮)
発行日:2023年8月3日
サイズ:A5判、142ページ
Dance Fanfare Kyotoは2013年から2015年の3年間、作品のクリエイションを通して、関西のダンスシーンの活性化と舞台芸術における身体の可能性の探究をめざす実験の場として活動。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって受けた大きな打撃をきっかけに、Dance Fanfare Kyotoの成果やコロナ禍以前の関西ダンスシーンの再検証を目的にこのドキュメントが制作された。公式サイトの記事や書き下ろしなどによって構成。
ジョセフ・アルバースの授業──色と素材の実験室
編者:DIC川村記念美術館
著者:亀山裕亮、ブレンダ・ダニロウィッツ、永原康史、沢山遼
ブックデザイン:木村稔将
発行:水声社
発行日:2023年8月4日
サイズ:A5判、352ページ
2023年7月29日~11月5日まで、DIC川村記念美術館で開催されている展覧会の図録。
バウハウス、ブラックマウンテン・カレッジ、イェール大学という三つの重要な教育機関で教え、今日なお影響を与え続ける画家・デザイナー、ジョセフ・アルバース。制作と教育の両側面から、その全貌に迫る。
奥能登国際芸術祭2023公式ガイドブック「最涯の芸術祭、美術の最先端」
監修:北川フラム、奥能登国際芸術祭実行委員会
発行:現代企画室
発行日:2023年8月4日
サイズ:A5判、160ページ
能登半島の先端、石川県珠洲市を舞台に2017年にスタートした奥能登国際芸術祭が2023年秋に第3回目を迎えます。珠洲市は、5月に震度6強の地震に見舞われましたが、アートを通して地域と地域を、また珠洲市と世界をつなぎ、震災からの復興にむけた光として、9月23日~11月12日まで芸術祭が開催されます。
本書は10のエリアに展開するすべての作品、イベントを紹介し、アクセスからモデルコースなどの巡り方ガイド、現地での飲食・宿泊・お土産など旅に必要な情報までを完全網羅した公式ガイドブックです。
藤森照信の現代建築考
著者:藤森照信
撮影:下村純一
発行:鹿島出版会
発行日:2023年8月7日
サイズ:A5判、208ページ
明治初期に開拓した日本の建築という新しい領域にモダニズムが如何にして浸透してきたのか。日本の建築界は近代という激変の時代に、コルビュジエやバウハウスの影響を受けながらも対応してきた。時代を代表する建築家たちの45作品を通してその特質を考察する。
ル・コルビュジエ モダンを背負った男
著者:アンソニー・フリント
翻訳:渡邉泰彦
発行:鹿島出版会
発行日:2023年8月7日
サイズ:四六判、374ページ
ル・コルビュジエの評伝。生い立ちから最期までを描き、ル・コルビュジエの生きざまと思考に迫る一冊。『ジェイコブス対モーゼス ニューヨーク都市計画をめぐる闘い』を著したジャーナリスト、アンソニー・フリントによる巨匠ル・コルビュジエの包括的な評伝。
色から読みとく絵画 画家たちのアートセラピー
著者:末永蒼生、江崎泰子
発行:亜紀書房
発行日:2023年8月12日
サイズ:四六判、384ページ
〈 一枚の絵が生きた人間の物語としてあらわれる 〉
生きることに困難を抱えた画家たちは、内面に渦巻く感情をキャンバスに解き放ち、心を癒やし、生命の歓びを描いた──。
色彩心理の研究をもとに長年アートセラピーに取り組み、絵は人の心の表現だと考える著者が作品を深く味わう見方をつづる。
Continuum 想像の語彙
著者: 野又穫
発行:limArt
発行日:2023年8月12日
サイズ:四六判、384ページ
2023年7月6日〜9月24日まで、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の展覧会の図録。
いつの時代のものともしれない謎めいた建造物がぽつりと建っている。鑑賞者を時空を超えた世界へと誘う美術家・野又穫の初期〜最新作を紹介。
アートとフェミニズムは誰のもの? (光文社新書)
著者:村上由鶴
発行:光文社
発行日:2023年8月18日
サイズ:新書判、268ページ
アートとフェミニズムは少なくない人びとから、よく見えていないのです。「よく見えていない」とは、見ていて良い気がしない、というのもありますが、どちらかと言うと、そこにあることはわかっているのだけど、見通しが悪くてその実態がよく見えないということです。いわば、アートとフェミニズムは、(中略)入門したくてもしにくい「みんなのものではないもの」なのです。(「はじめに」より)もともと、「みんなのもの」になろうとするエネルギーを持っているアートとフェミニズム。現代社会では両者に対する理解の断絶が進んでいる。この状況に風穴を開けるには──。美学研究者による新しい試み。
挑発関係=中平卓馬×森山大道
著者:中平卓馬、森山大道
発行:月曜社
発行日:2023年8月24日
サイズ:A5変型判、288ページ
2023年7月15日~9月24日まで、神奈川県立近代美術館 葉山館で開催中の展覧会の図録。
現代写真史に大きな独自の足跡を残す二人の写真家の、若き日にともに過ごした葉山、逗子(神奈川)を起点に、世界のアートに越境的に影響を与えてきた二人の、その出発点と現在を貫く「挑発関係」の共振と発信を跡づける、初めての貴重な試み。「27歳になったばかりの中平卓馬とぼくが、逗子の海で、葉山の海で日々を過ごしていた頃の遠い夏の記憶は、ぼくとしてはまさに「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」ということになろうか。つまり、写真家・中平卓馬と写真家・森山大道の二人は、現在も終わることなき〈挑発関係〉を続けているのかもしれない」(森山大道〔あとがき〕より)。
庭のかたちが生まれるとき 庭園の詩学と庭師の知恵
著者:山内朋樹
発行:フィルムアート社
発行日:2023年8月26日
サイズ:四六判、384ページ
徹底的に庭を見よ!
作庭現場のフィールドワークから、庭の造形を考え、庭師の生態を観察し、庭のなりたちを記述していく、新感覚の庭園論がここに誕生!
庭師であり美学者でもあるというユニークなバックグラウンドを持つ注目の研究者・山内朋樹の待望の初単著。
障害の家と自由な身体──リハビリとアートを巡る7つの対話
編著者:大崎晴地
著者:池上高志+毛利悠子、河本英夫+十川幸司+村山悟郎、八谷和彦、佐野吉彦+笠島俊一、松本卓也、小倉拓也+飯岡陸、中尾拓哉
発行:晶文社
発行日:2023年8月30日
サイズ:A5判、252ページ
バリアフリーは「障害者」を「健常者」に合わせる考え方だが、社会の均質化につながるのではないか。本当のゆたかさは「障害」の側にあるのではないか。そうした意識から、アーティストである大崎晴地は、障害そのものを建築的に考える《障害の家》プロジェクトを進めてきた。三度の展示を経て、建設に向けた計画が始まっている。本書はこれまでの展示と連動して行なわれた対談・座談の記録集であり、「障害」「家」「リハビリ」「アート」を多角的に考えるための一冊である。「障害」が、真のゆたかさと自由につながる。哲学/精神医学/建築/アートを横断しながら、障害を考える対話集。
DRAWING ドローイング 点・線・面からチューブへ
著者:鈴木ヒラク
装幀:松田行正+杉本聖士
発行:左右社
発行日:2023年9月20日
サイズ:四六判、284ページ
ドローイングとはなにか? いまなぜ、ドローイングは世界的に重要視されているのか? その答えは、描かれたラインを「チューブ」として捉えたときに見えてくる──国際的に注目されるアーティスト・鈴木ヒラクが書き下ろす渾身の〈ドローイング原論〉。
2023/09/14(木)(artscape編集部)
速水健朗『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』
発行所:東京書籍
発行日:2023/07/14
本書のタイトルに思わず引き付けられてしまった。なぜなら、私自身も1973年生まれであるからだ。2023年の今年はちょうど半世紀。だからこうした本が出版されるタイミングなのかと思うと同時に、もう50歳とは年を取ったなぁとしみじみ思う。1973年生まれはベビーブーマー、いわゆる団塊ジュニア世代である。かつてはX世代とも言われた。とにかく人口過多なのである。受験戦争がもっともピークに達した頃であったし、大学時代にバブル崩壊を迎えたため、就職氷河期の始まりでもあった。人口過多ゆえに損した世代と私は感じているのだが、本書で説かれているのはそういうお決まりの世代論ではない。1973年生まれの視点を通してこの半世紀を振り返る、社会史やサブカルチャー史のような側面をもつ。私も含めてになるが、彼・彼女らが物心の付いた1980年代からの出来事、事件、社会問題、芸能界、テクノロジーなどを列挙し、著者独自の解釈を加えた内容となっていた。
通読するとなかなか圧巻で、懐かしさや共感を覚えるモノや出来事もあれば、男女差のせいなのか、私があまり関心のなかった話題もいくつかあった。ただあまりに多くの事柄を列挙しているため、一つひとつに対する見解がやや少なく、もう少し深掘りしてほしいと思う面が総じてあるが、きっと本書の狙いはそこにはないのだろう。この半世紀を概観する試み自体が重要だったに違いない。
こうして振り返ると、1980年代はバブル期の始まりとはいえ、ずいぶん牧歌的な時代だったと思える。さまざまな機器がまだデジタル化される前であるし、大人も子どもも一緒にお茶の間でテレビを囲んでいた時代であった。当時、世間を騒がせたグリコ・森永事件や日航機墜落事故、リクルート事件といった事件は、私も子どもながら印象に深く残っていて、大人になってからその真相や詳細を調べたり聞いたりしたものである。1990年代はバブルが弾けたとはいえ、いま思えば、まだ深刻な不景気に差しかかる前で、世の中は比較的明るかった。後半からはパソコンや携帯電話が普及し始め、デジタル化に突入する過渡期となる。そして2000年代からは一気にデジタル化の波が押し寄せ、後半からはスマホの時代に入る。ここがまさに時代の節目だったのかもしれない。本書では、当時の出来事や事件に絡んだ人物、芸能人、スポーツ選手らのそれぞれの生年が逐一記されている点も面白い。1973年生まれとその同世代の人々、また彼・彼女らの親世代が世の中をどうつくってきたのかを知る手掛かりとしても読めるのだ。
2023/09/02(土)(杉江あこ)
カタログ&ブックス | 2023年9月1日号[テーマ:「物語る」表現と、それに触れる人の揺らぎを見つめる5冊]
災害の記憶から紡がれる言葉や、自らの状態を他者に伝える言葉。「物語る」と「話す」はどう異なるのでしょうか。6組の作家の表現から「物語ること」の多面性に触れる展覧会「物語ることも、物語らないことも、物語れないことも」(はじまりの美術館で2023年10月9日まで開催)に関連し、語りと人の関係性を見つめる5冊をご紹介します。
※本記事の選書は「hontoブックツリー」でもご覧いただけます。
※紹介した書籍は在庫切れの場合がございますのでご了承ください。
協力:はじまりの美術館
今月のテーマ:
「物語る」表現と、それに触れる人の揺らぎを見つめる5冊
1冊目:ハンターギャザラー
著者:鴻池朋子
発行:羽鳥書店
発売日:2018年11月7日
サイズ:16×22cm、115+7ページ
Point
2018年に秋田県立近代美術館で開催された展示の図録。同地でその4年前から始まり現在も続く、旅先で出会った人々の話を鴻池が聴き取り、描き起こした絵を語り手と共にランチョンマットにする『物語るテーブルランナー』のシリーズは、市井の人々の記憶への柔らかい目線と手仕事の集積に、静かに心揺さぶられます。
2冊目:やまなみ
写真・文:川内倫子
発行: 信陽堂
発売日:2022年2月17日
サイズ:29cm
Point
「物語ることも〜」展の出展作家でもある井上優が所属する、滋賀県の障害者多機能型事業所・やまなみ工房に川内が長期間通い、撮影した写真集。利用者それぞれが抱く「これをすることが幸せである」という思いから生み出される数々の豊かな表現と、それらを包む空間の光。素朴で端正な造本からも工房の空気が伝わります。
3冊目:10年目の手記 震災体験を書く、よむ、編みなおす
著者:瀬尾夏美、高森順子、佐藤李青、中村大地
発行:生きのびるブックス
発売日:2022年3月11日
サイズ:19cm、205ページ
Point
「時間が経ったいまだからこそ、言葉にできることがある」。東日本大震災の“被災者”という枠組みによってかつてこぼれ落ちてきたものも含め、編者たちの元に寄せられた手記を一つひとつ読み、追体験し、そこで語られなかった言葉にも思いを馳せる。他者の言葉を読む行為のなかにある、原初的な豊かさを実感する一冊。
4冊目:物語としてのケア ナラティヴ・アプローチの世界へ(シリーズケアをひらく)
著者:野口裕二
発行:医学書院
発売日:2002年6月1日
サイズ:21cm、212ページ
Point
誰かに自分の経験を語るうちに記憶が整理され、そこに物語としての輪郭が生まれることで自己理解が高まるという経験に覚えのある人は少なくないはず。精神医学の現場において、病いの経験に関する当事者の語りに着目し、ケアやカウンセリングを捉え直す「ナラティヴ(=語り・物語)・アプローチ」を知るための入門書。
5冊目:わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か(講談社現代新書)
著者:平田オリザ
発行:講談社
発売日:2012年10月18日
サイズ:18cm、230ページ
Point
個々人の間で、世界の捉え方は微妙に異なっている。そのことを認識するところを出発点に、わかりあえる部分を探っていくための「対話」とは何か。現代日本におけるコミュニケーションへの疑問や違和感、そして「物語る」行為と重なり合うところや違いも念頭に置きながら読むことで、より多くの発見がありそうです。
物語ることも、物語らないことも、物語れないことも
会期:2023年7月29日(土)~10月9日(月・祝) ※火曜休館
会場:はじまりの美術館(福島県耶麻郡猪苗代町新町4873)
公式サイト:https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/monogatarukoto/
※展覧会会期終了後、関連イベントの記録なども収録した「記録集」を、はじまりの美術館館内とオンラインショップで販売予定。
2023/09/01(金)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2023年8月1日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます。「honto」は書店と本の通販ストア、電子書籍ストアがひとつになって生まれたまったく新しい本のサービスです。
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ニジンスキー 踊る神と呼ばれた男
著者:鈴木晶
発行:みすず書房
発行日:2023年7月3日
サイズ:A5判、432ページ
〈本書が対象とするのは、見者としてのニジンスキーではなく、ダンサーかつコレオグラファー(振付家)としてのニジンスキーである。 20世紀にはヌレエフ、バリシニコフ、熊川哲也といったスーパースターたちが、バレリーナたちに劣らず、いやバレリーナたちよりも観客を魅了してきた。そうした男性スーパースターたちの系譜の先頭に位置しているのがニジンスキーである。ニジンスキーから男性ダンサーの時代が始まったのである。 その類い稀な跳躍力によって一世を風靡したにもかかわらず、最初の振付作品には小さな跳躍が一つあるだけだ。それだけでなく、その作品『牧神の午後』はバレエの二大原理、すなわち開放性と上昇志向性を否定した。そのニジンスキーの勇気ある一歩から、現代バレエが生まれたのである。〉 さまざまな創作の源泉ともなっている伝説の舞踊家ニジンスキー。その生涯を、豊富なバレエ鑑賞経験に基づき、貴重な資料と写真を駆使して再構成した、バレエ史研究の第一人者による待望のライフワーク。
藤田嗣治 安東コレクションより 猫の本
編者:軽井沢安東美術館
発行:世界文化社
発行日:2023年7月4日
サイズ:B5変形判、144ページ
世界で初めて「藤田嗣治の作品だけを展示する個人美術館」として開館された軽井沢安東美術館。世界屈指のコレクションの中で、蒐集の原点となったのは猫の絵です。愛すべき猫たちのふとした仕草を、巧みにそして緻密に描き出した藤田嗣治。毛並みの一本一本まで繊細に線をひいた藤田の猫たちに出会えば、目も心も幸せに。新収蔵作品まであますところなく収載した本書で至福のひと時を。猫好き、アート好きのみなさま、必見です。
百の太陽/百の鏡 写真と記憶の汀
著者:新井卓
発行:岩波書店
発行日:2023年7月7日
サイズ:四六判、214ページ
最古の実用写真術、銀板写真(ダゲレオタイプ)とともに旅に出る。福島の渚へ、遠野の田園へ、核実験場の砂漠へ、あるいは己の過去、夢と現の境へ――。詩人になりたかった美術家は、絶望と混迷の時代にあってもまた昇る陽を待ちながら、ひとり言葉とイメージを探す。世界と自身を見つめ、未来の先触れに手を伸ばす、文+写真エッセイ。
私たちは何者?ボーダレス・ドールズ
編著:渋谷区立松濤美術館
発行:青幻舎
発行日:2023年7月13日
サイズ:B5判、168ページ
2023年7月1日~8月27日まで、渋谷区立松濤美術館で開催中の展覧会の図録。
愛でたり、憎んだり、宿ったり、働かせたり……呪い人形、雛人形、生人形、マネキン、リカちゃん、村上隆のフィギュアまで、厳選約90点を掲載!「日本人」と「人形(ヒトガタ)」の深くて長い複雑な関わりの1000年の歴史を検証
クリストファー・ノーラン 時間と映像の奇術師
著者:イアン・ネイサン
翻訳:阿部清美
発行:フィルムアート社
発行日:2023年7月20日
サイズ:B5変形、240ページ
フィルム・ノワールの時間を切り刻み、 スーパーヒーロー映画にリアリズムをもち込み、 スパイ・アクションとSFを融合させる…… 長編デビュー作『フォロウィング』から最新作『Oppenheimer』まで、 芸術性と商業性を兼ね揃えた特異点クリストファー・ノーランの歩み。
基礎から学べる現代アート
著者:亀井博司
監修:山本浩貴
発行:晶文社
発行日:2023年7月25日
サイズ:A5判、160ページ
現代アートの始まりは、デュシャンの『泉』といわれています。なぜ既製品の便器をひっくり返したものがアートなのか? 本書を読めば、現代アートが誕生した背景から現代までの歴史的な流れが手に取るようにわかります。現代アートに初めて興味をもった中高生から、現代アートを基礎から学びたいと思っている全ての人への、とっておきの入門書。
つくる人になるために 若き建築家と思想家の往復書簡
著者:光嶋裕介、青木真兵
画:青木海青子
発行:灯光舎
発行日:2023年7月28日
サイズ:B6変型判、260ページ
建築する日々に励みながら、旅先でのスケッチや執筆活動にも精をだす若き建築家と、奈良の山村に私設図書館をつくり、執筆や自主ラジオなど様々な形でメッセージを発信する若き思想家が、些細な日常の出来事や思索をつぶさにみつめて綴った往復書簡。 私たちにとって「つくる」とはなにかを問いかけ、つくる喜びについて対話を重ねながら、生き物として生きやすい社会を模索していく。
2023/07/28(金)(artscape編集部)
成相肇『芸術のわるさ──コピー、パロディ、キッチュ、悪』
発行所:かたばみ書房
発行日:2023/06/10
2010年代、東京でもっとも批評的な展覧会を手がけていたキュレーター/学芸員は誰か──この問いをどのような水準で受け取るかにもよるが、わたしにとってその答えははっきりしている。成相肇(1979-)である。
本書『芸術のわるさ』は、その成相肇による初の著書である。目次を一瞥してみればわかるように、本書の中心をなすのは、かつて成相が企画した「不幸なる芸術」(switch point、2011)、「石子順造的世界」(府中市美術館、2011-2012)、「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン」(東京ステーションギャラリー、2014)、「パロディ、二重の声」(同、2017)といった展示の図録および関連原稿だ。それらに加えて、学生時代からの専門である岡本太郎についての論文や、他館の図録に寄せた原稿が、「コピー」「パロディ」「キッチュ」「悪」の全4章に編成されている。
成相が手がける展覧会はいつも、美術館ではなかなか取り上げられることのない対象を中心に据えてきた。展示物の3分の2が「非ファインアート」(188頁)であったという「石子順造的世界」にしても、かつて白川義員とマッド・アマノのあいだで争われた「パロディ裁判」(1971-1987)を大きく取り上げた「パロディ、二重の声」にしても、鑑賞者が一般的に想定する「現代美術展」とはまったく異なる光景が、そこでは広がっていた。これを小さな自主企画などではなく、公の美術館で堂々とやってのけるところに、成相肇という学芸員の真骨頂がある。
そして──これが重要なことだが──成相は文章がめっぽう巧い。いわゆる「論文」調のものはもちろんのこと、本書の随処に見られる「口上」をはじめ、アイロニーやユーモアを交えた文章を書かせたら、おそらく美術業界で右に出るものはいない(それは本書を読めば一目瞭然である)。本書刊行の詳しい経緯については詳らかでないが、これを創業第一書に定めたかたばみ書房の眼力には、ひとりの読者として唸らざるをえない。
念のため、本書の掲げる「芸術のわるさ」についても一言付言しておこう。あとがきでも明らかにされているように(377頁)、本書タイトルに含まれる「わるさ」とは、単に道徳的な「悪さ(=悪意・悪行)」のみならず、遊戯的な「わるさ(=悪戯)」の謂いでもある。後者の「わるさ」を能くしたものとしては、マルセル・デュシャンから赤瀬川原平まで、さまざまな先達の名前が挙がるだろう。本書が掲げる4つのキーワード(コピー、パロディ、キッチュ、悪)のなかで、この意味での「わるさ」ともっとも縁が深いのが「パロディ」である。げんにこのパートは本書の白眉と言ってよいものであり、前掲の「パロディ裁判」の判例を中心に展開される立論は必読である。
かつての鶴見俊輔による限界芸術論をはじめとして、いわゆるファインアート/非ファインアートの境界を問う試みは過去にもさまざまなされてきた。しかし展覧会という場そのものを、こうした思索のための空間に仕立て上げることはけっして容易ではない。本書は、石子順造をはじめとする先達のさまざまな理論的仕事に棹さしつつも、この問題を美術館という制度のど真ん中で展開してみせた、きわめてユニークなキュレーター/学芸員の活動の軌跡である。
2023/07/24(月)(星野太)