2020年07月01日号
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artscapeレビュー

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カタログ&ブックス | 2020年7月1日号[テーマ:庭園]

テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、クレマチスの丘 ヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡県)で2020年8月31日(月)まで開催中の展覧会「センス・オブ・ワンダー もうひとつの庭へ」にちなみ「庭園」。このキーワード関連する、書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
ハイブリッド型総合書店honto調べ。書籍の詳細情報はhontoサイトより転載。
※本ランキングで紹介した書籍は在庫切れの場合がございますのでご了承ください。

「庭園」関連書籍 購買冊数トップ10

1位:ハプスブルク家「美の遺産」

特別編集:家庭画報
発行:世界文化社
発売日:2019年9月28日
定価:1,900円(税抜)
サイズ:26cm、127ページ

神聖ローマ皇帝として、オーストリア皇帝として、645年間君臨したウィーンの名門一家ハプスブルク家。絵画、工芸、建築、庭園、食卓など、宮廷が育んだ美の来歴を、ハプスブルグ家の人々の物語とともに辿る。


2位:鉛筆画マスターBook 質感を描き分ける! すべては鉛筆から始まる

著者:トゥルーディー・フレンド
翻訳:森屋利夫
発行:マール社
発売日:2019年11月22日
定価:1,800円(税抜)
サイズ:25cm、128ページ

英国の有名アーティストである著者が、初心者はもちろん、さらに腕を磨きたい中級者にも向けて、鉛筆画の極意を分かりやすく解説。取り上げるテーマは「樹木と森林」「庭園と草花」「建物」などの風景から、「静物」「人物」「鳥と動物」まで誰もが描きたい人気のものばかり。知っているようで意外と知らなかった「基本的な線の引き方」、使いこなしたら立体感が増す「陰のつけ方」などををベースに、順を追って丁寧に説明。動物のふわふわした毛、堅いレンガ、やわらかい布……描き分けたかった質感も自由自在。そして、学んだテクニックを繰り返し練習し、仕上げていくだけで描画スキルがどんどん向上し、自信が持てるようになります! 何より鉛筆画はすべての絵の基本。鉛筆画が描けるようになれば色鉛筆も水彩も思いのまま。さあ、鉛筆画を描いてみましょう。


3位:日本美術の歴史

著者:辻惟雄
発行:東京大学出版会
発売日:2005年12月
定価:2,800円(税抜)
サイズ:21cm、449+31ページ

「かざり」「あそび」「アニミズム」をキーワードとして、絵画、彫刻、工芸、考古、建築、庭園、書、写真、デザインなどの多分野にまたがる日本美術の流れを、縄文から現代までたどる。



4位:おでかけ美術館&博物館 関西版(LMAGA MOOK おとなのエルマガジン)

編集:京阪神エルマガジン社
発行:京阪神エルマガジン社
発売日:2018年5月31日
定価:880円(税抜)
サイズ:29cm、111ページ

ミュージアムの庭園やカフェで寛いだり、建築やインテリア、常設展示にお気に入りを探したり。関西の美術館&博物館を、周辺のショップやカフェ、レストランとともに紹介します。データ:2018年5月現在。



5位:半分、生きた

著者:豊田利晃
発行:HeHe
発売日:2019年9月25日
定価:1,800円(税抜)
サイズ:19cm、129ページ

1998年に映画『ポルノスター』で監督デビューを果たして以来、『青い春』『空中庭園』『ナイン・ソウルズ』『モンスターズクラブ』『I’M FLASH !』、そして『泣き虫しょったんの奇跡』など、数多くの映画を生み出し、映画界はもちろんのこと、多くの俳優にも影響を与えてきた豊田利晃。(中略)2019年、50歳を迎え、これまでの半生を振り返った本書は、映画作品の製作についてのみならず、その時間の中で出会い、別れ、深く関わってきた人々との物語が、赤裸々に真っ直ぐな言葉で綴られた、未来に向けた声明文ともいうべき内容となりました。



6位:大人の塗り絵 すぐ塗れる、美しいオリジナル原画付き 花咲く美しい庭園編

著者:青木美和
発行:河出書房新社
発売日:2016年4月19日
定価:980円(税抜)
サイズ:27cm

蓼科高原バラクライングリッシュガーデン、軽井沢レイクガーデン、あしかがフラワーパークなど、日本各地の四季折々の庭園風景を集めた塗り絵。書き込み式。



7位:文化遺産と〈復元学〉 遺跡・建築・庭園復元の理論と実践

編集:海野聡
発行:吉川弘文館
発売日:2019年11月25日
定価:4,800円(税抜)
サイズ:22cm、332ページ

失われた歴史遺産を再生する復元。何のため、いつの時点へ、どう戻すのか? 古代から現代における国内外の遺跡や建物、庭園、美術品の復元を検討し、復元の目的や実情、課題に迫る。



8位:日本の芸術史 造形篇1 信仰、自然との関わりの中で(芸術教養シリーズ)

編集:栗本徳子
発行:京都造形芸術大学東北芸術工科大学出版局藝術学舎
発売日:2013年10月2日
定価:2,500円(税抜)
サイズ:21cm、221ページ

縄文時代から鎌倉時代までの造形を中心に、仏教美術、建築、庭園などを取り上げ、基本的な知識や時代について概説し、具体的な作例を通して造形的な特徴を解説。その後の展開にもふれる。



9位:岡上淑子フォトコラージュ沈黙の奇蹟

著者:岡上淑子
監修・執筆:神保京子
発行:青幻舎
発売日:2019年2月1日
定価:3,000円(税抜)
サイズ:30cm、219ページ

国内外で再評価の高まる岡上淑子の代表的なフォトコラージュ約100点をほぼ原寸で収録した作品集。岡上淑子、瀧口修造のエッセイ、神保京子の論考、作品リストも掲載。2019年東京都庭園美術館開催の展覧会公式カタログ。



10位:遠近法がわかれば絵画がわかる(光文社新書)

著者:布施英利
発行:光文社
発売日:2016年3月17日
定価:880円(税抜)
サイズ:18cm、201ページ

物体、色彩、陰影、線…。さまざまな重なりが織りなす「遠近法」を、私たちは目と脳でどう読み解いているのか。名画、建築、庭園、現代アートをとりあげ、その謎に迫る。また、遠近法が確立されるまでの美術史もひもとく。



10位:アジアン・インパクト 日本近代美術の「東洋憧憬」

監修:樋田豊次郎
編集:東京都庭園美術館
発行:東京美術
発売日:2019年10月17日
定価:2,400円(税抜)
サイズ:26cm、151ページ

1910〜60年代の日本近代美術にみられる、アジアの古典を強く意識した傾向を、日本画、洋画、そして工芸の各ジャンルの事例により検証。東京都庭園美術館で開催される展覧会の公式図録兼書籍。





artscape編集部のランキング解説

「庭」や「庭園」と聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょうか。映画やドラマに登場する庭でのワンシーンや、茂った植物、土の香り、丹念に手入れされた日本庭園や西洋庭園の美しい風景など、さまざまなイメージが喚起されると思います。今回「庭園」というキーワードの元となった「センス・オブ・ワンダー もうひとつの庭へ」という展覧会のタイトルは、レイチェル・カーソンの遺作『センス・オブ・ワンダー』から取られたものですが、この本のなかでは、カーソンが姪の息子である幼い男の子とともに別荘の周りの森や海岸を探検する様子が、そこで出会う自然の姿とともに生き生きと描かれています。
今回のランキングに目を移すと、ランクインしている本の多様性にまず驚きますが、そのなかでも「庭園」というものが歴史的・文化的な遺産として、建築や工芸、絵画、彫刻などと並ぶ大きな柱のひとつであることが窺えるタイトルが、複数目に付きます(1位、3位、7位、8位ほか)。美術品のように鑑賞する対象でありつつ、実際に足を踏み入れられる空間でもあり、人の手だけではその景観は完成しないという独特の時間感覚を持ち合わせる庭園というメディアは、国・地域を問わずその時代ごとの資産家や権力者によって計画・整備され、富や権力の象徴とされてきました。
その一方で、絵を描く(あるいは塗る)人にとって、描く対象としての「庭園」への関心の高さもランキングから垣間見えます(2位、6位)。そのつながりで、絵画空間がいかに遠近法を意識してつくられているかが解説されている『遠近法がわかれば絵画がわかる』(10位[1])のなかでは、造園における遠近法についても言及が。庭園を魅力的に描くヒントが見つかるかもしれません。
その空間の中に身を置き、感覚をひらく場所としての「庭園」。ウイルスの影響を受ける場面も引き続き多い昨今ですが、営業を再開する美術館もずいぶん増えてきました。展示や本の力を借りて、心身ともに解き放つことのできる、のびのびとした心の庭が持てるといいですね。


ハイブリッド型総合書店honto(hontoサイトの本の通販ストア・電子書籍ストアと、丸善、ジュンク堂書店、文教堂)でジャンル「芸術・アート」キーワード「庭園」の書籍の全性別・全年齢における購買冊数のランキングを抽出。〈集計期間:2019年6月16日~2020年6月16日〉

2020/07/01(水)(artscape編集部)

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操上和美『April』

発行所:スイッチ・パブリッシング

発行日:2020年4月10日

ロバート・フランクは2019年9月9日に94歳で亡くなった。1959年に刊行された『アメリカ人』(The Americans)をはじめとする彼の写真の仕事は、プライヴェートな眼差しを強調する現代写真の起点となるものであり、多くの写真家たちに強い影響を及ぼした。操上和美もそのひとりで、1960年代初めに東京綜合写真専門学校在学中に彼の『アメリカ人』を見て衝撃を受ける。以来、「どれだけじっくり見ても、奥が深くて飽きない」写真集として大事にしてきたという。その操上は、1992年6月に雑誌の仕事で、はじめてニューヨークでフランクを撮影した。そのときに、カナダのノヴァ・スコシアの仕事場にも足を運んだ。さらに1994年4月には、操上の故郷である北海道・富良野への旅にフランクが同行し、数日間をともに過ごした。その3回の撮影の時の写真を、再編集してまとめたのが本書『April』である。

操上はニューヨークやノヴァ・スコシアで、フランクのことを日本語で「お父さん」と呼ぶようになったという。ちょうど操上の父親と同世代であり、写真の先達でもあった彼のことを、親しみとリスペクトをこめてそう呼んだということだろう。普段は隅々まできっちりと組み上げられ、張りつめた緊張感さえ感じさせる写真を撮る操上には珍しく、どこか柔らかなトーンの、リラックスしたスナップ写真が多いのも、そんな二人の関係が作用しているのではないかと思う。知らず知らずのうちに、あの『アメリカ人』の、クライマックスをちょっとずらす写真の撮り方を取り入れているようでもある。とはいえ、写真集の帯に使われている、物陰から鋭い眼差しでこちらを見つめるフランクの顔のクローズアップのような、いかにも操上らしいフォルマリスティックな写真も含まれている。写真家が写真家を撮るという行為の面白さを、あらためて感じさせてくれた写真集だった。

なお、東京・六本木のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで、出版に合わせた同名の展覧会が開催される予定だったが、コロナ禍で大幅に延期され、会期は2020年6月20日〜7月25日になった。

2020/06/22(月)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス | 2020年6月15日号[近刊編]

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をartscape編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます





「文明」と「野蛮」のアーカイヴ ゴダール『イメージの本』からリヒター《アトラス》へ

編著:飯田高誉
発行:新曜社
発行日:2020年5月20日
定価:6,800円(税抜)
サイズ:A5判、392ページ

「展覧会」のスケールを超えた恐るべき作品群と未曽有の展示空間により、「飼いならされて」いないアートとは何か、その問いと答えをわれわれに突きつけた、内外より多大な評価を得た〈堂島ビエンナーレ2019:シネマの芸術学_東方に導かれて_ジャン=リュック・ゴダール『イメージの本』に誘われて〉。ゲルハルト・リヒター《アトラス》最新版全点(本邦初公開)含めた全記録(カラー280頁)と詳細な書き下ろしテキスト(展覧会概観、作家・作品解説、図版付ゴダール作品詳細解説)を展覧会を超えた驚愕の構成により1冊に。完全バイリンガル版(日英)にて満を持して刊行!

イタリア芸術のプリズム 画家と作家と監督たち

著者:岡田温司
発行:平凡社
発行日:2020年5月
定価:3,000円(税抜)
サイズ:四六判、208ページ

西洋美術史家にして現代思想のよき道案内である著者の小さな総括。黄金期70年代までの映画を真ん中に、美術、文学、思想、宗教を縦横無尽に語り尽くす快著。

建築の東京

著者:五十嵐太郎
発行:みすず書房
発行日:2020年4月20日
定価:3,000円(税抜)
サイズ:四六判、232ページ

平成から令和へ。オリンピックを前にして東京はいかに変貌したか? 一貫して都市の「メタボリズム」を重視し、「すぐれた建築が壊されるとしても、その後に志のある建築がつくられるなら必ずしも反対しない立場」をとる著者が近過去に登場した建築=景観、丹下健三・岡本太郎以後の建築家・アーティスト双方による東京計画・未来都市の系譜、各種メディアのなかの東京を検証する。

現代アートをたのしむ 人生を豊かに変える5つの扉

著者:原田マハ、高橋瑞木
発行:祥伝社
発行日:2020年4月30日
定価:1,200円(税抜)
サイズ:新書判、296ページ

「わからない」が「面白い」に変わる、現代アートの入門書! 《「なんだか難しそう」「よくわからない」といわれがちな現代アートについても、あなたがほんの一ミリでも関心をもっているのだとすれば、あなたとアートは、ぐっと距離を縮められる。》(原田マハ「ドアを開く前に──まえがきにかえて」から) アンディ・ウォーホル、シンディ・シャーマン、エルネスト・ネト、ハンス・ハーケ、ビル・ヴィオラ、大竹伸朗、高嶺格など、著者がお薦めする作家の作品群をカラーで掲載するとともに、美術館や展覧会の楽しみ方を女子トークでご案内。 単行本『すべてのドアは、入り口である。』を大幅に加筆・修正。こんなときだからこそ、おうちでじっくり美術鑑賞をしてみては。

DECODE/出来事と記録──ポスト工業化社会の美術

図録執筆編集:梅津元、石井富久、平野到、鏑木あづさ、小泉俊己、田川莉那
デザイン:川村格夫、河原弘太郎
発行:多摩美術大学
発行日:2020年2月29日
定価:2,400円(税込)
サイズ:184x261mm、95+47ページ

2019年9月14日〜11月4日に埼玉県立近代美術館で開催された「DECODE/出来事と記録──ポスト工業化社会の美術」のカタログ。近年国際的に評価が高まっている「もの派」の記録写真や資料との関係から検証した展覧会。

U-35 展覧会 オペレーションブック 2020-21

執筆:秋吉活気、神谷勇机+石川翔一、葛島隆之、山道拓人+千葉元生+西川日満里、松井さやか、山田紗子、和田徹
発行:アートアンドアーキテクトフェスタ
発行日:2020年5月30日
定価:909円(税別)
サイズ:A5判、192ページ

2020年10月16日~26日に大阪駅前・うめきたシップホールにて開催された35歳以下の若手建築家による展覧会「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会2020」のカタログ。倉方俊輔×藤本壮介×平沼孝啓の緊急座談会などを収録。

新写真論 スマホと顔

著者:大山顕
発行:ゲンロン
発行日:2020年3月24日
定価:2,400円(税抜)
サイズ:四六判、320ページ

スマートフォンは写真を変えた。
だれもがカメラを持ち歩き、写真家は要らなくなった。
すべての写真がクラウドにアップされ、写真家も要らなくなった。
写真の増殖にひとの手は要らなくなり、ひとは顔ばかりをシェアするようになった。

自撮りからドローン、ウェアラブルから顔認証、ラスベガスのテロから香港のデモまで、写真を変えるあらゆる話題を横断し、工場写真の第一人者がたどり着いた圧倒的にスリリングな人間=顔=写真論!





※「honto」は書店と本の通販ストア、電子書籍ストアがひとつになって生まれたまったく新しい本のサービスです
https://honto.jp/

2020/06/15(月)(artscape編集部)

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佐々木敦『小さな演劇の大きさについて』

発行所:Pヴァイン
発行日:2020/06/20

批評家・佐々木敦による初の演劇論集『小さな演劇の大きさについて』がPヴァインから刊行された。これまで、テン年代以降(2000年代以降と言ってもいいかもしれない)の小劇場演劇を広く扱った書籍は徳永京子・藤原ちから『演劇最強論』くらいしかなく、それも2013年と7年も前の出版であることを考えると(ユリイカの「この小劇場を観よ!」特集も2005年と2013年に発行されたきりである)、本書は現在の小劇場で何が起きているかを知るためのいまのところ唯一の手段であり、演劇関係者必携の書となるだろう。

『小さな演劇の大きさについて』は三部構成。「『現代口語演劇』のアップデート」と題された第一部の目次に並ぶのは岡田利規/チェルフィッチュ、平田オリザ/青年団、松田正隆/マレビトの会、三浦基/地点といった名前だ。佐々木は『即興の解体/懐胎』(青土社、2011)の第二部でチェルフィッチュと青年団の演劇について論じており、章題の「アップデート」が示す通り、まずは彼らのその後の展開が論じられる。「即興」の問題系を論じるのに演劇が召喚されたのは、それが「現前性/一回性」と「再現性/反復性」の双方を本質とする芸術だからだった。いかにして相矛盾するそれらは可能となっているのか。マレビトの会や地点もまたそのような演劇の原理との関わりのなかで論じられ、読者は演劇作家たちの、そして佐々木の思考を通して複数の方向から演劇の原理へアプローチすることになる。

第二部は「アングラ・不条理・笑い」。第一部が原理論だとするならば対をなす第二部は存在論とでも呼ぶべきだろうか。ケラリーノ・サンドロヴィッチ/ナイロン100℃、松井周/サンプル、宮沢章夫/遊園地再生事業団、飴屋法水、古川日出男。彼らの作品の分析を通じ、人間と世界とがどのように存在しているか/し得るか、それをいかに語り得るか/語り得ぬかが論じられる。一般的に、不条理といえばアングラ演劇、アングラ演劇といえば60年代だが、不条理は決して過去のものとなったわけではない。それは通奏低音のようにいまもそこにあるのだ。

第三部には前二部とは異なり一貫したテーマはなく、また、コアな舞台ファン以外には名前も知られていないであろう作家/劇団も多数登場する。多くが30代以下の若手作家だ。

佐々木は前書きにあたる「小さな演劇の小ささについて」で「小さな演劇」の「『小ささ』には、大きなものをも含む、さまざまなことを考えさせてくれる、たくさんのヒントが潜んでいる」と書いている。だが、ほとんどの演劇はモノとしては残らない。ほかの多くの芸術と比べて、それらの演劇の「大きさ」が事後的に「発見」される機会と可能性は圧倒的に少ない。だからこそ、リアルタイムでそこにある「大きさ」を、その可能性を読み取り記述する伴走者が(おそらくほかのジャンル以上に)必要となる。第三部には伴走者としての佐々木の仕事が結実している。

一部二部で取り上げられた作家/劇団たちはすでに一定以上の評価を得ている。優れた作品に触発され書かれた優れた批評には当然読み応えがある。だが、佐々木はそれらの作品に向けるのと同じ、あるいはそれ以上の熱量をまだ若い作家/劇団の可能性を見出し記述することにも振り分けている。佐々木は半ば自虐的に自らを「生まれつきの、無類のマイナー好き、マージナル好きなのだ」と書いてみせたりもするが、私はここにこそ批評家の誠実と見識を見る。批評家とは未知に可能性と悦びを見出す者だ。第三部のタイトルは「新しい演劇はどこにあるのか?」。本書は小劇場演劇のシーンを網羅的に取り上げたものでは決してないが、多くの「新しい演劇」の可能性が記されている。本書を読み、ぜひとも「新しい演劇」のある場所に足を運んでいただきたい。


公式サイト:http://www.ele-king.net/books/007589/

2020/06/08(月)(山﨑健太)

藤原辰史『分解の哲学──腐敗と発酵をめぐる思考』

発行所:青土社

発行日:2019/07/10

新型コロナウィルスの感染拡大とともにあったこの数カ月間、国内外を問わず、さまざまな人々がこのウィルスと、それがわれわれの社会におよぼす政治的・経済的・文化的影響について言葉を発してきた。むろん、それはいまだ過去形で記述されうるようなものではなく、現在もまたその只中にあることは確かだろう。とはいえ目下のところ、そのうちもっとも広く読まれた日本語の文章のひとつが、藤原辰史「パンデミックを生きる指針──歴史研究のアプローチ」であることは断言してよいと思われる。今年の4月2日に発表されたこの学術的エセーは、「B面の岩波新書」というウェブ媒体で公開され、先行きの見えない現状を前に戸惑う人々に、文字通り一定の「指針」を与えることとなった。

ちょうどこのエセーの公表と前後して、著者・藤原辰史(1976-)のこれまでの著書を読み返していた。前掲の「パンデミックを生きる指針」は、農業史を専門とする著者が、約100年前のスパニッシュ・インフルエンザをおもな比較対象として、コロナウィルス感染拡大の渦中にある現在、および未来についての見通しを平易かつ求心的な言葉により示した名文であった。ここで著者は「虚心坦懐に史料を読む技術を徹底的に叩き込まれてきた」ひとりの歴史家として、パンデミックに直面した人々の「楽観主義」に警鐘を鳴らそうとしている。

他方、わたしの関心は、こうした「歴史研究のアプローチ」の見本とも呼べるようなエセーにではなく──もちろんそれはそれで興味深く読んだが──この著者が一貫した執念とともに取り組んできたひとつのテーマにあった。すなわち「食べること」である。

ここしばらく、気づけばいつも「食べること」について考えていた。むろん、わたし一人のみならず、自由な外出を大幅に制限されたこの約2カ月は、ふだんの日常においてその感覚を摩耗させていた人々にとっても、多かれ少なかれ「食べること」に意識的にならざるをえない期間であったはずだ。毎日の食事はひとり、もしくは同居する家族に限られ、友人や同僚といつものようにテーブルを囲むことは叶わない。食事のメニューは自炊かテイクアウトに限られ、自宅以外の空間で日常の息抜きをすることも難しい。道行く人々の減少と反比例して、Uber Eatsの黒いバッグを背負った自転車は日増しに目立つようになる。かたやスーパーマーケットはいつも以上に盛況で、リモートワークに切り替えることもできず、食べ物の流通を維持するために外で働いている人たちへの敬意は増すばかりである──等々。

さて、農業史家としての藤原辰史の仕事には、トラクターと戦車、化学肥料と火薬、毒ガスと農薬をはじめとする、いわゆる「デュアルユース」の問題がつねに中心にあった(『トラクターの世界史』中公新書、2017年など)。くわえてここ数年は、そうした狭義の歴史学の仕事にとどまらず、「食べること」から人間存在を──ひいては世界そのものを──根本的に捉えなおそうとする刺激的な試みが目立つようになった。「人間は、生物が行き交う世界を冒険する主体というよりは、生きものの死骸が通過し、たくさんの微生物が棲んでいる一本の弱いチューブである」(『戦争と農業』集英社インターナショナル新書、2017年、190頁)という達観したヴィジョンからさらに進んで、「分解」を鍵概念とする壮大なコスモロジーを開陳したのが本書『分解の哲学』である。

雑誌『現代思想』における連載を核とする本書の目次には、ネグリ=ハート、フリードリヒ・フレーベル、カレル・チャペックをはじめとする、一見すると接点を見いだすことが困難な名前がならぶ。あるいはまた、壊れたものに愛着を示す「ナポリ人」をめぐるゾーン=レーテルの見識、「糞虫」を活写するファーブル、あるいはそれを翻訳する大杉栄の筆の冴え、さらにはここ数年小さくないブームを巻き起こしている「金繕い」(金継ぎ)についての考察にいたるまで、本書が博捜するフィールドはきわめて広大だ。

終章「分解の饗宴」でまとめられているとおり、こうした多彩なトポスの先には、「食を通じた人間と非人間の関係の統合的分析」や「生と死という二項対立から漏れ出る生物および非生物の形態の分析」といった壮大な問題系が控えている。いずれにせよこうした「分解」論が、「脱領域的かつ拡張的に『食現象』を再考する」(318頁)ことに結びつけられている点に、個人的には何より興味をひかれる。それに「哲学」という言葉を冠することに、著者は「正直いまでもためらいがある」(324頁)という。だが、本書が投げかける問い、たとえば「なぜ、食べる方が『上位』で食べられる方が『下位』なのか」(239頁)という根本的な問いがひとつの「哲学」であることを疑う理由は、少なくともわたしには見当たらない。


★──藤原辰史「パンデミックを生きる指針——歴史研究のアプローチ」(「岩波新書編集部 B面の岩波新書」)https://www.iwanamishinsho80.com/post/pandemic

2020/06/05(金)(星野太)

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