2023年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

宇都宮駅東口地区再開発、「これからの時間についての夢」「印象派との出会い─フランス絵画の100年 ひろしま美術館コレクション」

宇都宮美術館、栃木県立美術館[栃木県]

半年ぶりに宇都宮駅を訪れたら、工事中だった東口地区の整備が完成していた。これはさまざまな交流施設を組み合わせたものである。JR駅からブリッジで直結する隈研吾建築都市設計事務所のデザイン監修による《ライトキューブ宇都宮》(2022)(最大2000人収容のホールを含む、17室をもつ)、《宮みらいライトヒル》(2022)(水のプラザがあり、大階段を登ると緑のテラス、3階レベルに風のホワイエ=芝生の広場)、そしてホテル、飲食店、駐車場が入る《宇都宮テラス》(2022)などだ。目玉のLRTは来年8月の開通のため、駅の全容がわかるのはもう少し先である。《ライトキューブ宇都宮》は、やはり大谷石張りのファサードによって地域性を表現しているが、建築的な空間はあまりない。おいしい水を供給する2階の宮の泉も、大谷石によるオリジナルデザインが売りだが、実物は小さくて、しかも自販機の横だった。コスパを求める現代の最適解なのだろうが、ノンデザインに近い隣の商業施設に同化しそうなくらいである。ただし、外構には可能性をもち、今後、いかに3つの広場を生かすのかが重要になるだろう。



《ライトキューブ宇都宮》と《宮みらいライトヒル》芝生の広場、奥にカンデオホテルズ宇都宮




《宮みらいライトヒル》水のプラザ、右に《ライトキューブ宇都宮》、奥に《宇都宮テラス》




《ライトキューブ宇都宮》宮の泉


宇都宮美術館では、7章から構成された「開館25周年記念 全館コレクション展 これからの時間についての夢」展を開催していた。企画展ポスターの年譜に続き、第1回コレクション展の再現展示や3名の作家の新作、「1919-1943 日本とドイツ」などのテーマ展示が続く。改めて、同館がいち早くデザイン分野の収集に力を入れていたことがよくわかる。大巻伸嗣は、岡田新一による丸い空間と共鳴する円の作品だった。ちなみに、展示エリアは一層のY字プランという実に明快な建築であり、その結節点に円形の吹き抜けが位置する。髙橋銑の特別展示も、修復という視点から同館のバリー・フラナガンの彫刻《ホスピタリティー》(1990)と、群馬県立館林美術館にある同じ作家の《鐘の上の野兎》を比較する興味深い試みだった。



宇都宮美術館「これからの時間についての夢」展 25年の歴史を振り返るポスター群




宇都宮美術館「これからの時間についての夢」展 会場図




大巻伸嗣《Echoes-Infinity /2022》展示風景、宇都宮美術館


一方、50周年を迎えた栃木県立美術館の「開館50周年記念展 印象派との出会い —フランス絵画の100年 ひろしま美術館コレクション」展では、ひろしま美術館のコレクションをもとにフランスの近代絵画、ならびに同時代の日本人作家の絵を紹介している。常設エリアでも、所蔵品を使い、関連する展示が行なわれた。さすがに日本で人気のテーマなので、来場者が多い。ところで、最近、美術館を移転し、図書館と合体させて、体育館の跡地に新しく建てる計画が持ち上がっている。川崎清が設計した建築は、内外に独特の空間をもつ力作なので、もったいない気がするのだが、今後の行方が気になる。もし建て替えるなら、前よりも素晴らしい建築にして欲しいが、現代は安ければいいという風潮なので、はたして可能だろうか。



建築雑誌で紹介された栃木県立美術館「題名のない展覧会」


開館25周年記念 全館コレクション展「これらの時間についての夢」

会期:2022年9月25日(日)~ 2023年1月15日(日)
会場:宇都宮美術館
(栃木県宇都宮市長岡町1077)

栃木県立美術館 開館50周年記念「印象派との出会い──フランス絵画の100年 ひろしま美術館コレクション」

会期:2022年10月22日(土)〜12月25日(日)
会場:栃木県立美術館
(栃木県宇都宮市桜4-2-7)

関連レビュー

題名のない展覧会─栃木県立美術館 50年のキセキ|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2022年07月15日号)

2022/12/04(日)(五十嵐太郎)

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アンドレ・レリス『ランディ・ローズ』

筆者がハードロックを聴きはじめたとき、ランディ・ローズはツアー中の不幸な小型飛行機の事故で亡くなった直後であり、すでに伝説的な美形のギター・ヒーローになっていた。25歳にして早逝したため、オジー・オズボーンのバンドではわずか二枚のアルバムしか参加していない。しかし、「ブリザード・オブ・オズ」(1980)と「ダイアリー・オブ・マッドマン」(1981)で披露した憂いを帯びたソロ、クラシカルなフレーズ、そして印象的なリフによって、圧倒的な影響を残すことになった。今なお、ロック系のイベントでは、「クレイジー・トレイン」(1980)などの代表作が演奏されている。したがって、死後40年もしてから公開されたドキュメンタリー映画を見ないわけにはいかない。もっとも、制作プロセスに問題があるせいか、内容は粗く、不備を感じるものだった。例えば、劇場の大画面と音響で、ランディ・ローズのライブ演奏を見られるのかと思いきや、ほとんどない。例えば、エンディングでは、素人がランディのギターをコピーした映像のリレーが流れる。実はこの映画は、ランディの家族やオジーから正式に認証を受けていないという。ゆえに、キーパーソンとなる後者への新しいインタビューがまったくない。悪魔と天使とでもいうべき、オジーとランディのコンビは、驚くべき作品を生みだしたのだから。

もちろん、非公式であろうとも、工夫すれば、おもしろいドキュメンタリーはつくれるはずだ。ただ、インタビューの人選が偏っていたり、ランディのプレイに対する音楽・技術的な解説が少ないなど、やはり不満が残る。一方で尺としても長いクワイエット・ライオット時代のエピソードの数々はあまり知らなかったので興味深い。ランディはクワイエット・ライオットの創設メンバーであり、オジーに引き抜かれるまで、このバンドでくすぶっていた。実際、今回の映画は、才能が開花し、輝いたオジーの時代ではなく、初期クワイエット・ライオットのドキュメンタリーというべき内容だろう。とすれば、盟友だったヴォーカルのケヴィン・ダブロウの貴重な証言を期待したいところだが、彼もすでに鬼籍に入り、新しいインタビューはない。ちなみに、このバンドは、ランディが亡くなった後の1983年、「カモン・フィールズ・ザ・ノイズ」が大ヒットし、これを収録したアルバム「メタル・ヘルス」がヘヴィ・メタルとして初の全米1位を獲得している。もはやランディよりも速く、巧く弾けるギタリストはめずらしくなくなった。だが、表情豊かなフレーズ、歌をひきたてるオブリガード、激しく歪んだ低音のリフ、ドラマティックな構成力を総合的に兼ね備えた、記憶に残る存在として今後も語り継がれていくだろう。


公式サイト:https://randy-rhoads.jp

2022/11/28(月)(五十嵐太郎)

レオナルド・ダ・ヴィンチ理想都市模型展──感染症に立ち向かう 500年前の理想都市

会期:2022/11/17~2022/12/11

静岡文化芸術大学 ギャラリー[静岡県]

昨年末に静岡文化芸術大学を訪問した際、ミラノ時代のレオナルド・ダ・ヴィンチが構想した理想都市の大きな木造模型(3m×1.7m)があると聞いて、梱包を解いて見せてもらい、これはもっと広く知られるべきものだと感想を述べたのだが、およそ一年たって、同大学の松田達の企画によって展覧会が実現されることになった。

会場では、模型の3DCG映像、VRの体験、模型のARやプロジェクション、関連資料としてパネルや書籍などを紹介している。ちなみに、理想都市といっても、全体の輪郭が円形といった概念的なものではなく、ダ・ヴィンチのそれはかなり実践的なアイデアで、当時のペストの流行を踏まえて、疫病対策も意識したものだった。ゆえに、コロナ禍を体験した現代の視点から見ても興味深い。また人間と馬車が通る道路を上下で分離し(いまのペデストリアンデッキ)、運河を含む交通のネットワークを立体的に組み立てたり、水はけの良さなど細かく検討している。古典的なパラッツォ風の意匠を剥ぎとると、近現代の都市デザインにも通じるだろう。



2021年の訪問時に見たダ・ヴィンチの理想都市の木造模型



模型の3DCG映像



VR体験ができるコーナー



模型に投影されるプロジェクション・マッピング



解説パネル



今回の展示



ポスターコンペ


ちなみに、あくまでもダ・ヴィンチは15世紀末にいくつかの断片的なスケッチを残しており、模型は当時のものではない。今回展示されたのは、ダ・ヴィンチの科学技術博物館の設立に尽力したにイタリア人の航空技師、マリオ・ソルダティーニが1956年に制作したものである。そして池袋の西武百貨店が1984年のイタリアン・フェアに際して、これを入手した後、解説を執筆したルネサンスの建築史家、長尾重武を通じて、武蔵野美術大学に移管されていたが、さらに静岡文化芸術大学に寄贈されていた。ともあれ、模型だけを見ると、ダ・ヴィンチがまるで全体像を構想していたような錯覚に陥るが、実際はソルダティーニが独自の解釈によってつなぎあわせている。ゆえに、モダニズム的な感覚によって再配置されたかもしれない。また詳細に観察すると、スケッチとの微妙な差異(意匠や装飾)、あるいは表現の違い(上部の壁をなくしたり、追加)などにも気づく。したがって、約半世紀以前につくられた都市模型も、別の歴史的な価値をもつ。改めて、模型が木造ゆえに、ほとんど劣化していないことにも驚かされる。実際、ルネサンス時代につくられた木造の建築模型は、今なお文化財として残っているくらいだから、相当の耐久性があるはずだ。おそらく、都市模型そのものも研究のテーマになるだろう。



パルマノヴァの模型


2022/11/27(日)(五十嵐太郎)

オペラの舞台美術『ランメルモールのルチア』『ボリス・ゴドゥノフ』

日生劇場、新国立劇場[東京都]

田尾下哲が演出したオペラ『ランメルモールのルチア』を観劇した。すでに2020年にコロナ禍の影響を受けて、舞台上に多くの人をだせないという制限を逆手にとって、主人公(歌手)と亡霊(=歌わない黙役の俳優)のみが透視図法的な奥行きを与えられた部屋の中にいる形式をとり、音楽の構成(曲や場面をカットしたり、金管が使えないなど)も変えた『ルチア あるいはある花嫁の悲劇』を上演している。言い方を変えれば、非常時だからこそ可能な方法を実験的に試したのかもしれない。ともあれ、今回はそうした縮減はなく、フルバージョンでオリジナルの楽曲と台本をもとに上演された。

これまでもオペラの『蝶々夫人』(2013)や『金閣寺』(2015)など、田尾下は空間の演出がおもしろいのだが、『ランメルモールのルチア』では、2020年バージョンにおける部屋のデザインや光の効果を継承しつつ、主にその手前で繰り広げられるもう一つのメインの舞台を加えている。すなわち、入れ子状の舞台内舞台であり、手前と奥の部屋はさまざまな関係を結ぶ。例えば、手前で歌が進行する途中、背後では後で重要になる別の出来事が起きていたり、ルチアの部屋に男たちがズカズカと侵入する(この物語は男性社会がもたらす女性の悲劇だ)。冒頭では、手前の葬礼の場面に対し、奥の部屋にリアリティがなく、スクリーン上の映像のようにも感じられ、両者は別世界のようだった。いったん低く下げたシャンデリアのろうそくに順番に火を灯したり、終盤におけるレンブラントの絵画のようなシーンも印象深い。そして血だらけになった白い花嫁衣装は、ほかの出演者の服の色とかぶらず、鮮やかに赤が映える。オペラが進行すると、ルチアの部屋は向きを変えたり、階段が貫通するなど、空間も劇的に変容していく。

こうした演出・美術(松生紘子)・衣装(萩野緑)・照明(稲葉直人)の工夫については、日生劇場舞台フォーラムで詳細に説明されており、あわせて見ると大変に興味深い。田尾下のコンセプトを実現すべく、それぞれがただの背景ではなく、物語の効果を意識して制作しており、まさに総合芸術としてのオペラである。

もちろん、舞台美術だけではない。政略結婚の悲劇の果てに狂乱した花嫁の長い独唱(森谷真里)と、後を追う恋人役の宮里直樹の歌が凄まじく、とんでもない作品に化けていた。花嫁が寝室で新郎を刺殺したあと、精神がおかしくなった状態で歌う場面では、グラスハーモニカも演奏され、ソプラノと絡むことで、幻想的な雰囲気を高めている。ちなみに、この楽器は、近世の幽霊ショーでよく使われていたらしい。



NISSAY OPERA 2022『ランメルモールのルチア』[提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団(日生劇場) 撮影:三枝近志]



NISSAY OPERA 2022『ランメルモールのルチア』[提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団(日生劇場) 撮影:三枝近志]


11月は最後に男性が狂乱するムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』(新国立劇場)も鑑賞した。ポーランドのマリウシュ・トレリンスキが演出しており、ロシアのウクライナ侵攻によって、ワルシャワの公演が中止となり、結果的に東京初演となったものである。皇帝の息子を障がい者=黙役にしたこと(これをポーランドの女優、ユスティナ・ヴァシレフスカが演じるのだが、歌わない重要な配役は、オリジナルの楽曲に縛られないので、演出の腕の見せ所だろう)、光るキューブのめまぐるしい移動、映像の多用、合唱隊の効果的な配置、ガスマスク・大きな顔・狼のかぶり物など、インパクトのある演出が続き、圧巻は終盤の暴徒による集団殺戮が血みどろのシーンになることだ。これだけ暗くて凄惨なオペラはめずらしい(大人数のカーテンコールで、なんと1/3以上は血がついたまま)。かくして記憶に残るドラマとなった。すなわち、罪の意識に苛まれるロシアの皇帝が絶望の挙句、息子を殺した後、自らは処刑され、民衆が熱狂するなか、もっと悪どい僭称者=獣が新しい皇帝に君臨する。幕が降りても、すぐに拍手とはならず、しばし呆然とする悪夢のような終幕に現代の世界が重なってしまう。



新国立劇場「ボリス・ゴドゥノフ」[撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場]



新国立劇場「ボリス・ゴドゥノフ」[撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場]


★──「日生劇場舞台フォーラム 2022『ランメルモールのルチア』―演出・美術・照明・衣裳―」https://www.youtube.com/watch?v=3Beetkirt_A&t=5134s

ランメルモールのルチア

会期:2022年11月12日(土)、13日(日)
会場:日生劇場(東京都千代田区有楽町1-1-1)

ボリス・ゴドゥノフ

会期:2022年11月15日(火)〜11月26日(土)
会場:新国立劇場(東京都渋谷区本町1-1-1)

2022/11/13(日)(五十嵐太郎)

横浜市公共建築100周年事業

[神奈川県]

横浜市役所に建築課が設立されてから100周年を記念し、槇文彦の事務所が設計した8代目の新庁舎(2020)において、公共建築に関するさまざまなイベントが行なわれた。日本建築家協会 JIA神奈川を含む各種の建築関連の団体による、折り紙建築や角材とジャンボ輪ゴムで家をつくるワークショップ、ポップアップの建築への色ぬり、延長コード作り、建設重機の体験会、富士山をのぞむ最上階である31階のレセプションルームの開放などである。特筆すべきは、今回制作された100年の歴史を振り返る年表だった。市営住宅の供給や関東大震災後の復興小学校にはじまり、戦後につくられた各種の公共建築、1990年代の地区センター・地域ケアプラザ(この事業は、伊東豊雄や妹島和世など、当時はまだ公共の仕事が少なかった建築家に多くのチャンスをもたらしたことで評価できる)、そして近年の施設の長寿命化、木材利用、脱炭素社会を意識したプロジェクトまでを網羅している。改めて公共建築は、時代の変化や社会の要請を強く反映するビルディングタイプであることがよくわかるだろう。



ワークショップ会場



重機体験の展示



31階のレセプションルーム



公共建築年表


根岸森林公園のトイレ・コンペ表彰式(張昊と甘粕敦彦が受賞)の後、筆者は山家京子、小泉雅生、乾久美子、肥田雄三らと、パネルディスカッション「これまでも、これからも、横浜らしく」に登壇した。それぞれのプレゼンテーションの後、討議では、施設の複合、プロセス重視の可能性とその限界、冗長性、居場所などがトピックになった。個人的には国際コンペによってFoaが選ばれた《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》(2002)のような衝撃的に新しいデザインの公共建築が、再び登場することを期待したい。これはせんだいメディアテークと同じ1995年にコンペの審査が行なわれ、いずれの最優秀案もコンピュータが設計に導入される新しい時代を告げるデザインが注目を集めた。が、その後、横浜では、こうした大がかりなコンペが実施されていない。むしろ、横浜の友好都市である上海の方が、新しい建築に貪欲であると同時に近代建築もよく保存し、なおかつアートが活性化しており、いまの上海の方が横浜らしいのではと思う。ところで、今年の春にも、1971年に市役所内に「都市デザイン」を担当する部署をつくったことを受け、その50周年を記念すべく、Bankart KAIKOにおいて「『都市デザイン横浜』展~個性と魅力あるまちをつくる~」が開催された。全国でもいち早く都市デザイン室が設立され、大きな成果をおさめてきたが、林市長になってから存在感が弱くなった印象を受ける。ここにもがんばって欲しい。



根岸森林公園コンペ



横浜港大さん橋国際客船ターミナル



新市役所の模型



横浜市公共建築100周年:https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/kokyokenchiku/kokyokenchiku100th/

『都市デザイン横浜』展~個性と魅力あるまちをつくる~

会期:2022年3⽉5⽇(⼟)〜4⽉24日(日)
会場:BankART KAIKO(神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2 1階)

2022/11/12(土)(五十嵐太郎)

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