2020年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

NHK『私のアニメ語り』第4回『進撃の巨人』

おそらく、以前に雑誌『ブルータス』の『進撃の巨人』特集でコメントをしたからだと思われるが、NHKの番組『私のアニメ語り』に出演し、作品について語ることになった。研究室のゼミの様子も撮影され、放送でも少し紹介されていたが、実際に使われたコメントの部分は短いので(相対的にあらすじの紹介が長かった)、この場を借りていくつか補足しておこう。

おそらく、登場人物に全然言及しなかったのは筆者だけだったが、やはり建築の視点から興味深いのは、壁の物語であるということだ。人類の歴史において壁はさまざまな場面で登場する。例えば、万里の長城や東西ベルリンを分断した壁、イスラエルの分離壁、トランプが建設を提唱したメキシコとの国境の壁。こうしたリアルに存在した壁の意味と、『進撃の巨人』の物語が響きあうことこそが、本作を普遍的なものとし、さまざまな解釈に開かれる古典となりうる強度を与えている。状況によって壁はさまざまなアレゴリーとなりうる。

最初に『進撃の巨人』を読んだとき、筆者は物語の冒頭が戦後日本の自衛隊のような話だと思った。高い壁をつくり、穀潰しと批判される兵団がいるものの、100年の平和が保たれていたからである。が、2011年の東日本大震災が発生した後、この壁は津波が乗り越えるはずがないとされた巨大な防潮堤を連想させるものに変わった。実際、超大型巨人の出現によって、シガンシナ区に巨人の侵入を許してしまうことから、『進撃の巨人』は始まる。やがて物語が進行するにつれて、防御のためだと思われていた壁は、逆にその内部に人々を閉じ込める役割を果たしていることも示唆されるが、これはプラハ近郊のテレジーンという街を想起させる。本来、この街は要塞都市としてつくられたものだが、ナチスによって強制収容所に変えられてしまう。つまり、壁は二重の意味をもつ。

なお、壁の設定は50mだが、実在の建築と比較すると、中世にもっとも高い建築をめざしたボーヴェ大聖堂の壁の高さに匹敵する(壁の内部には巨人が埋め込まれていることが、後に判明するが)。また街並みはヨーロッパ風の外観であり、立体機動装置が効果的に使えるよう、中層くらいの高さをもつ(これはスパイダーマンとマンハッタンの街並みの関係と似ている)。さらにデザインに注目すると、三重の壁の外周部はハーフティンバーのドイツ風、中心部はイタリア風(ピサの鐘塔も描かれている)になっており、ヨーロッパの南北が階層構造に読み替えられている。


公式サイト:https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=25458

22020/10/12(月) (五十嵐太郎)

物語としての建築 若山滋と弟子たち展

会期:2020/09/19~2020/11/23

清須市はるひ美術館[愛知県]

カタログにおいてメール対談をさせていただいたこともあり、名古屋まで出かけた際に《清須市はるひ美術館》の「建築という物語への旅─若山滋と弟子たち展─」を訪れた。若山は、名古屋工業大学で長く教鞭をとり、多くの弟子を輩出したことから、展覧会の内容は、弧を描く空間の展示室1では本人の建築作品や著作、展示室2でOB・OGの手がけた作品、そして吹抜けと上階では大学の歴史を紹介するという構成だった。彼は多くの著作を刊行しており、そのテーマも、構法、風土、物語からアイドルまで、多岐にわたる。またネット上の「THE PAGE」でも、政治や社会に関する時評を執筆し、建築を専門のアカデミーに閉じることなく、積極的に外に開くことを意識してきた建築家だ。



若山滋の建築展示風景



若山滋研究室OB・OGの展示風景



若山滋の著作展示風景


ちなみに会場の《清須市はるひ美術館》(1999)と印象的なヴォールト天井がある正面の広場も、若山が設計に関わった建築である。そうした縁で展覧会がここで開催されることになったようだが(同館では初の建築展らしい)、いわば会場も展示のひとつになっている。筆者の訪問時は、広場の一角において、弟子の北川啓介による、発泡ウレタンを用いて1日で建設できる簡易住宅のインスタント・ハウスが設置されていた。



《清須市はるひ美術館》の模型



《清須市はるひ美術館》正面広場



広場の一角に設置された、北川啓介によるインスタント・ハウス


若山の建築については、今回、ほとんどの作品は新しく模型が制作され、文章にこだわった縦書きのキャプションとともに展示されていた。個人的に興味をもったのは、名古屋駅前や栄周辺に提案した未来的な都市構想、あるいはマハティールに依頼されたというマレーシアの再開発など、あまり知られていなかった大型プロジェクトの存在である。もしもこれらが実現していれば、名古屋の都心部はもっとエキサイティングになっていただろう。ほかに大きなスケールの作品としては、新名古屋火力発電所の外壁に対し、モーツァルトのメロディをもとにしたデザインを手がけていた。OB・OGの作品展示では、北川や近藤哲雄を含む若手が、パネルにとどまらず、力を入れたプレゼンテーションを行なっていた。ちょうどU35にも出品している葛島隆之や1-1 Architectsは、大きな模型を持ち込んでいた。それにしても若山が多くの建築家を育てたことがわかる。まさに彼の研究室の総力戦というべき展覧会だった。


名古屋駅前プロジェクトの展示模型

2020/10/25(日)(五十嵐太郎)

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京都大学総合博物館

京都大学総合博物館[京都府]

現在、コロナ下のため、時間帯ごとに入場者の人数制限をしており、事前にウェブから予約しないといけないのだが、初めて《京都大学総合博物館》(2000)を訪問した。キャンパスの敷地内から入るのではなく、直接道路からアクセスするようになっている。さすがに、自然科学から歴史・考古学まで、幅広いコレクションが揃い、建築もデカい。


京都大学施設部、京都大学宗本研究室、山下設計、新日本設備計画《京都大学総合博物館》(2000)



《京都大学総合博物館》のエントランス


同館の歴史をひもとくと、1914年に京都大学は人文系の資料を扱う文学部陳列館を完成させた後、増改築を繰り返し、1959年に文学部博物館と改称した。1986年に博物館の新館(現在の文化史系展示場)が誕生し、自然史資料(平成の新館)や工学系の実験器具なども加え、2001年に総合博物館がオープンした。開館当時の瀬戸口烈司によれば、日本ではトータルメディアが手がけた《国立民族学博物館》(1977)が展示デザインを大きく変えたが、そうした状況を意識しながら、大学と展示の専門業者が「連携プレー」を行なったという。もっとも、東京大学の《インターメディアテク》において西野嘉章が進めたアート的かつ前衛的な展示手法に比べると、オーソドックスである。

さて、自然史展示室の目玉は、吹き抜けの「ランビルの森」だろう。高さを生かして、熱帯雨林の生態多様性を調査するためにつくられた高い樹木をつなぐ空中回廊を再現している。カキ(柿)の展示に記されていた次の言葉も、現在の社会状況に対するメッセージとしても読むことができ、印象に残った。「進化とは......その場その時に都合のよいものが生き残っていく、方向性のない、行き当たりばったりの過程である」。なるほど、多様性を否定し、全員右にならえで一律化することが「進化」ではない。そもそも変わらない大事なこともある。


自然史展示室内の一角に広がる「ランビルの森」


「ランビルの森」内の巨木と空中回廊


2階の技術史の展示は、貴重な実験器具が並び、それはよかったのだが、展示什器のデザインが凝りすぎていたため(器具と同じ輪郭でフレームを制作)、かえって肝心のモノが見えにくい。文化史のエリアも、吹き抜けの大空間があり、石棺などが設置されていたが、もっと大型の展示が可能だろう。


技術史エリアの展示風景



文化史エリアに展示されていた石棺


そして特別展「iPS細胞、軌跡(キセキ)と未来(ミライ)」は、iPS細胞研究所の10周年を記念し、その活動を紹介するものだった。個人的に感心したのは、研究室の部屋のプレートやノートなどに、ちゃんとデザイナーを入れていたこと。なお、コロナ下のため、博物館の全体において、タッチパネルなどの触れる展示には制限がかかっていた。


特別展「iPS細胞、軌跡(キセキ)と未来(ミライ)」展示風景

京都大学総合博物館2020年度特別展「京都大学iPS細胞研究所(CiRA)設立10周年記念展示「iPS細胞、軌跡(キセキ)と未来(ミライ)」
会期:2020年9月5日(土)~2020年11月8日(日)
公式サイト:http://www.museum.kyoto-u.ac.jp/special/0076-html/

2020/10/18(日)(五十嵐太郎)

Under 35 Architects exhibition 2020 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会

会期:2020/10/16~2020/10/26

大阪駅・中央北口前 うめきたSHIPホール[大阪府]

毎年恒例のU-35シンポジウムへの出演が急きょ可能になった。コロナ下のため、ほとんどがオンラインに移行していたために、これだけ大勢の人の前に登壇するのは久しぶりである。

以下、7組の展示を見ていく。昨年のゴールドメダル賞を受賞し、シード枠で参加した秋吉浩気は、昨年の《まれびとの家》からの新しい展開をロジカルに紹介する大型インスタレーションだった。今年のグッドデザイン賞でも金賞(最後は大賞を争ったので、実質的には2位)を獲得したが、デジタル加工技術を活用した起業家的な活動はさらに注目されるだろう。海外では大学レベルで実験している方向性だが、日本では民間の個人が挑戦している。


秋吉浩気《学ぶ、学び舎》

松井さやかは、谷戸の特殊敷地において、どう家を構えるか。1-1 Architects(神谷勇机+石川翔一)は、かつて貧者のための建築を唱えたハッサン・ファトヒーの実践を想起させる案で、ハイパーインフレのため建材のレンガが貨幣として扱われる「慣習」に基づくアフリカの計画など。ツバメ・アーキテクツ(山道拓人+千葉元生+西川日満里)は、線路の地下化に伴い、新しい下北沢らしさを開発するプロジェクト《BONUS TRACK(ボーナストラック)》である。後で現地を見学したが、現代の集落のような風景が展開していた。


松井さやか《digging》



神谷勇机+石川翔一《HC3 -Harare Child Care Center-》



ツバメ・アーキテクツ(山道拓人+千葉元生+西川日満里)《下北沢線路街 BONUS TRACK》


studio velocityの事務所出身の葛島隆之は、「田舎」の条件を読み解き、固有の建築化をする試み。今年、《daita2019》の自邸によって日本建築設計学会賞大賞と吉岡賞を共に受賞した山田紗子は、文化人類学的なさまざまなもうひとつの知から、異なる世界観の空間をつかみだす。そして和田徹は、スイスと日本の文化圏を往復しながら、「建築」を拡げていく。


葛島隆之《A house》



山田紗子《vernacular》



和田徹《Architects 3.0 - beyond the borders》


今年は、いつも以上にバリエーションのある内容だった。7組の出展者の作品からは、多様・複雑の組み合わせ、田舎、土着、慣習、野生、アフリカ、言語など、重なるキーワードがいくつか挙げられるだろう。藤本壮介、平田晃久らの上の世代の建築家・建築史家との討議の末、山田紗子とツバメ・アーキテクツに絞られ、最後は審査員長である谷尻誠が、新しい言葉を探す建築を提示した前者を今年のゴールドメダル賞に決定した。なお、翌週の伊東豊雄を招いたシンポジウムでは、後者に伊東賞が贈られることになった。


公式サイト:https://u35.aaf.ac/

2020/10/17(土)(五十嵐太郎)

旧閑谷学校と岡山大学構内の建築

[岡山県]

前々から訪れたかった岡山県備前市の《旧閑谷学校》をついに見学した。ここは17世紀に創設され、1701年に現在の建築群が完成している。講堂は本来、禅宗様とともに導入された花頭窓のモチーフを各面においてひたすら反復したことが大きな特徴だ。それゆえ、訪問前は記号的なイメージが強い建築だと思っていたが、実物は清々しい空間である。門や石塀、創始者を祀る閑谷神社、孔子像を設置する聖廟、文庫なども、よく観察すると、ユニークな細部があちこちに散りばめられている。


《旧閑谷学校》の講堂


《旧閑谷学校》講堂内部の様子


《旧閑谷学校》の石塀

また併設の《閑谷学校資料館》は、明治時代の私立中学を転用したものである。沿革を知ると、教育を重視し、多数の手習い所をつくり、学校を創設した当時の岡山藩主・池田光政に感心させられる。つまり、学問を大事にした統治者だった。一方、彼を継いだ息子は勉強嫌いで、親に怒られている文書が残っているのだが、現代の政治家の二世、三世を思わせるエピソードであり、苦笑した。もっとも今の素晴らしい建築群は、財政を立て直した息子の時代に建てられたものである。


《閑谷学校資料館》

岡山市内に戻り、岡山大学の各キャンパスに建てられたSANAA(妹島和世+西沢立衛)の建築をまわった。医学部にある《Junko Fukutakeホール 》(2013)は、ふわっと屋根が浮いた、軽やかな建築だ。入り組んだ7枚の大小の傾いた屋根を細い鋼管群が支え、壁はわずかで、ほとんどはガラスにおおわれ、視線が貫通する。はっきりとした正面をもたず、周囲を歩くと、どこからでも内部が見え、屋根が折り重なる外観の形状は変化していく。内部は全体として大きなワンルームのようにつながる感覚を与えながら、同時にそれぞれの屋根の下、外部の広場、エントランス、ホワイエ、ホール、講義室、会議室など、多様な場をつくりだす。


妹島和世+西澤立衛/SANAA《Junko Fukutakeホール 》(2013)

また津島キャンパスには、交流広場の《パーゴラ》(2013)と正門すぐそばの《Jテラスカフェ》(2014)がある。前者は上下しながら、ぐにゃぐにゃとカーブを描く、薄い屋根を細い柱で支える構築物だ。後者は不定形なフォルムの屋根とガラスの壁によるパヴィリオンであり(訪問時はコロナ下のため休業)、もともと塀がないことによって、道路沿いの開放感を増している。SANAAの2人が教鞭をとる横浜国立大学でさえ彼らの建築がないのに、岡山大学では、こうした地域に開かれた現代建築が3つも存在しているのだ。


妹島和世+西澤立衛/SANAA《パーゴラ》(2013)


妹島和世+西澤立衛/SANAA 《Jテラスカフェ》(2014)

2020/10/04(日)(五十嵐太郎)

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