2021年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

富岡の隈研吾建築

[群馬県]

TNAが設計した《上州富岡駅》(2014)で待ち合わせをして、群馬県の建築コンペの仕かけ人として知られる新井久敏氏の案内により、手塚建築研究所の《商工会議所》(2018)、HAGI STUDIOの《富岡まちやど 蔟屋 MABUSHI-YA》、そして隈研吾による建築などをまわった。富岡は駅舎が完成した直後に訪れて以来だったが、いつの間にか、さまざまなタイプの隈作品が増えていたことに驚かされた。まず駅のはす向かいにたつ《群馬県立世界遺産センター》(2020)と《3号倉庫》(2019)は、いずれもリノベーションである。特筆すべきは、CFRPのロープを張りめぐらせることによって、木造小屋組みを補強していることだ。一見弱そうな素材の選択であり、興味深い手法だが、言うまでもなく、近代の製糸場によって世界遺産に登録された街の歴史を意識したものだろう。地域ごとのローカリティへの配慮こそが、結果的に彼をグローバルな建築家に押し上げた。なお、《2号倉庫》も隈研吾建築都市設計事務所が担当し、改修中である。続いて倉庫群と道路を挟んで、隈による《富岡市役所》(2018)がたつ。分棟の形式、アルミニウムと木のルーバー、張り出す庇などを特徴とする、開かれた公共空間だ。


《上州富岡駅》



《商工会議所》



《富岡まちやど 蔟屋 MABUSHI-YA》



《群馬県立世界遺産センター》



《3号倉庫》



富岡市役所


そして圧巻は、新しく公開された富岡製糸場の《西置繭所》(2020)の保存修理プロジェクトである。これは日本空間デザイン賞2021の博物館・文化空間部門において金賞を受賞した。注目すべき手法は、国宝に指定された近代建築の内側に補強を兼ねた大きなガラスの箱を挿入していること。なぜなら、そこがかつての工場の使われ方を紹介する展示施設であると同時に、壁の落書きや改修の履歴なども含めて、建築そのものが重要な展示物であるからだ。つまり、観賞者は展示ケース=ガラスの箱の内側に入って、天井や壁などを見ることになる。また《西置繭所》の展示設計も、カッコいい。例えば、昔使われていた什器などを積極的に再利用している。富岡製糸場はまだ公開されていないエリアが多く、一部を見せてもらったが、現代アートの展示にも使えそうなダイナミックな大空間だった。今後、こうした場所をどのように見せいていくかも楽しみである。


《西置繭所》


2021/10/4(月)(五十嵐太郎)

高岡で考える西洋美術──〈ここ〉と〈遠く〉が触れるとき

会期:2021/09/14~2021/10/31

高岡市美術館[富山県]

今年は「ボイス+パレルモ」展や「ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ」をいずれも三会場で見るなど、巡回展を違う美術館で鑑賞することで、改めて空間の与える影響について考えさせられたが、山形美術館から富山に巡回した「高岡で考える西洋美術──〈ここ〉と〈遠く〉が触れるとき」展は特別な体験だった。キュレーションを担当した国立西洋美術館の学芸員、新藤淳氏に確認すると、これは正式な「巡回」展なのだが、あまりにも異例なのは、およそ2/3の内容が入れ替わることである。すなわち、地元のアーティストを絡めた第一章と第三章は、ほとんど違うものとなり、西洋美術館のコレクション史の形成を紹介する第二章のみが同じだ。もともとカタログは、上下に山形と高岡のテキストを並行させる構成であり、両館で展示される作品も紹介されていたが、高岡市美術館も訪れることで、ようやく完結したという充実感が得られた(両方見た人がどれくらい存在するか謎だが)。また上野ではなく、地方都市で西洋美術館のコレクションがどのように形成されたかを初めて知るというのも興味深い。


高岡市美術館


さて、高岡の第一章では、森鴎外による「西洋美術史」や「美学」の講義ノートのほか、これまであまり活用されていなかった富山県美術館が所蔵する本保義太郎の資料を導入しつつ、彼が憧れのロダンと実際に面会し、その直後ミケランジェロのデッサンを行なったエピソードなどを紹介していた。そして第三章では、パリ万博で通訳として活躍した高岡出身の美術商、林忠正を通じた西洋と日本の美術の邂逅、また彼が「西洋美術館」の構想をもっていたことなどをとりあげる。したがって、これは展覧会史を踏まえつつ、巡回展の枠組を再構築した知的な冒険であり、説明文の入れ方を含めて、今年もっとも大胆な企画展だろう。にもかかわらず、おそらく会場で鑑賞していたほとんどの人は、普通にコレクション展として楽しんでいた。こうした複数の層が共存する、ただならぬ異様な雰囲気をもつ展覧会であると同時に、日本から見た西洋、山形や高岡から見た西洋、もし過去の美術家がその後の未来を見ていたらどう考えるか、逆にわれわれが過去をどう見るかなど、さまざまな視角から空間と時間が隔てられた世界をどう想像するかを問いかけてくる。


関連レビュー

山形で考える西洋美術──〈ここ〉と〈遠く〉が触れるとき|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2021年09月15日号)

2021/10/24(日)(五十嵐太郎)

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庵野秀明展

会期:2021/10/01~2021/12/19

国立新美術館[東京都]

まず第一印象は、出し惜しみがないこと、また意外に撮影可能な展示物が多いことである。じっくり見ると、相当の時間を要する濃密な展覧会だった。全体は五章から構成され、第一章「原点、或いは呪縛」はかつて企画された「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」(2012)のような彼が影響を受けた作品群(ゴジラ、ウルトラマン、宇宙戦艦ヤマト、機動戦士ガンダムなど)、第二章「夢中、或いは我慢」は少年時代からエヴァンゲリオン旧劇版までの作品を豊富な資料で展示している。注目すべきは、やはり学生時代の絵画や映像、そしてプロ初期の作品だろう。すでにこの時点から、あとで開花する庵野の作家性を確認できるからだ。続く第三章「挑戦、或いは逃避」は、実写の映画からエヴァンゲリオン新劇版までを扱い、第三章の巨大な模型が目を引く。第四章「憧憬、そして再生」は今後公開される「シン・仮面ライダー」と「シン・ウルトラマン」の予告であり、第五章「感情、そして報恩」はアニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)などの取り組みを紹介する。いわば、過去(第一章)・現代(第二、三章)・未来(第四、五章)という展開になっており、とてもわかりやすい。




第一章 展示風景



第一章 展示風景



第二章 展示風景



第三章 展示風景



第四章 展示風景



第五章 展示風景


もっとも、膨大な展示物に対する個別の解説はもっと欲しいし、テーマなどの設定がなく、第三者からの視点によるキュレーションはやや物足りない。もちろん、読みとるべきラインは無数に存在し、それは鑑賞者のリテラシーに委ねられる。ともあれ、ものづくりに関連する人にとって刺激的な内容であることは間違いない。個人的に一番感心したのは、最後のATACである。というのは、以前、「館長 庵野秀明 特撮博物館」展を見たとき、これは常設で存在して欲しいと思ったからだ。いずれ、そうした公立や国立の施設が誕生するかもしれないが、待っていては手遅れになるかもしれない。ATACは、アニメや特撮を創造する過程で生ずる中間の制作物や資料を文化として可能な限り後世に残したいという目的で設立され、円谷英二の出身地である福島県須賀川市と連携している。しかも、特撮博物館展の全国巡回が契機になったという。つまり、トップ・クリエイターが自らの原点となった過去の作品群への敬意を示し、その恩返しとしてアーカイブ事業を推進している。

2021/10/20(水)(五十嵐太郎)

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四国の隈研吾建築

[愛媛県、高知県]

四国は、隈研吾にとって重要な地域だろう。ポストモダンとバブル経済が終わったあと、地方で進路転換を探っていた時期の《亀老山展望台》(1994)と、素材として木の使用にも挑戦した梼原町の建築群があるからだ。前者は山頂の展望台の建て替えであり、見るための場としての建築の姿を消去したことで知られている。どういうことか。新しい建築のヴォリュームを積極的に足すというよりは、山頂を削りながら、細い動線や大小の階段、そして小さいデッキを設けている。すなわち、いわゆるファサードはなく、地形と対話する空間体験のシークエンスと、各方角への素晴らしい眺望を提供するデッキのみなのだ。近年の隈建築は、ルーバーによるデザインのバリエーションを展開するファサードが目立つ一方、空間の構成があまり感じられないケースもあるのだが、その真逆といえよう。当時、『SD』の特集において、日本の建築雑誌史上、初のCD付きを実現したように、コンピュータを用いた表現にも積極的にとり組んでいたが、《亀老山展望台》はリアルな体験が豊かな名作だった。


《亀老山展望台》



《亀老山展望台》


高知と愛媛の県境に位置し、いまや隈建築の聖地となった梼原町には、山を越えて向かった。途中で樹木におおわれた山を見ながら、なるほど、この風景を眺めながら現場に通えば、木を積極的に使うことを発案したこともうなづける。小さな町には、以下の作品群がたつ。現在は休業中だが、隈の設計で建て替えをするらしい《雲の上のホテル》(1994)と《雲の上のギャラリー》(旧木橋ミュージアム、2010)、力強い《梼原町総合庁舎》(2006)、マルシェもあって上階では宿泊もできる《まちの駅「ゆすはら」》(2010)、そして美しい本の空間として有名な《ゆすはら雲の上の図書館》と隣接する福祉施設の《YURURIゆすはら》(2018)である。茨城県の境町にも、6つの隈作品が集中するが、明らかに梼原町の方が本格的な建築ばかりだ。また集成材を組んだ構造、丸太の柱、茅の束、繊細な木組みなど、いずれも木の使い方をさまざまな方法で実験しながら、フォトジェニックな特徴も獲得している。なお、図書館は選書もかなり良かった。


《雲の上のホテル》



《雲の上のギャラリー》



《梼原町総合庁舎》



《まちの駅「ゆすはら」》



《ゆすはら雲の上の図書館》



《YURURIゆすはら》


2021/10/09(土)(五十嵐太郎)

中之条ビエンナーレ2021と原美術館ARC

[群馬県]

コロナ禍のため、スタートが遅れていた中之条ビエンナーレを、総合ディレクターの山重徹夫氏の案内により、伊参エリアの山間部を中心に、一足先に見学することができた。実は筆者にとって初めての訪問であり、聞いてはいたが、参加するアーティストのラインナップを含めて、確かにほかの芸術祭とだいぶ雰囲気が違う。必ずしも潤沢な予算ではなく、派手なアイコン的な作品はないが、長めの滞在制作がメインなので、やはり手をかけ、時間をかけた作品群は心を打つ。例えば、西島雄志による宙に浮かぶ鳳凰(旧五反田学校)や中村岳による屋外の大がかりな構築物(親都神社)のほか、鳥越義弘の室内インスタレーション(道の駅「雪山たけやま」)、古建築の瓦を再利用した三梨伸(やませ)、遺跡を制作する宮嵜浩(BOMBRAI WEST)(伊参スタジオ)、トモミトラベルのツアー(旧第三小学校)、CLEMOMOによる粘土群イサマムラ(旧伊参小学校)などが印象に残った。また今回はいつもより長期滞在組が少なかったり、海外組はオンラインの設営になったりしたとはいえ、「PARAPERCEPTION 知覚の向こうから」というコロナ禍を逆手にとったテーマを設定したことも興味深い。


西島雄志 作品展示風景



中村岳 作品展示風景



鳥越義弘 作品展示風景



三梨伸 作品展示風景



宮嵜浩 作品展示風景



旧第三小学校



旧伊参小学校


その後、2021年4月にリニューアルした原美術館ARCを青野和子館長の案内でまわった。ここは久しぶりの再訪だったが、山と自然に囲まれており、晴れた日にとても気持ちが良い建築である。増築された觀海庵へのアプローチから眺める風景も素晴らしい。また分棟型の展示室が、それぞれ外部と直接につながる開放的な空間は、磯崎新にはめずらしいデザインかもしれない。1988年の開館時から存在するピラミッド型屋根をもつギャラリーAは、現代アートの大型の作品も通用する空間である。磯崎新アトリエ出身の吉野弘の設計により、品川の原美術館から部屋ごと移設した奈良美智や森村泰昌のインスタレーションも、ギャラリーBやトイレの横などの新しい場所にぴたっと入っていた。ほかにも館の内外には、草間彌生、束芋、イ・ブル、オラファー・エリアソン、ジャン=ミシェル・オトニエル、鈴木康広などの作品が組み込まれ、常設で彼らの作品を楽しむことができる。また吹き抜けの開架式収蔵庫では、キリンアートアワード2003の展覧会で筆者が担当した名和晃平の初期作品と思いがけず再会した。


原美術館ARC



觀海庵へのアプローチ



ギャラリーA 奈良美智 展示風景


中之条ビエンナーレ2021

会期: 2021年10月15日(金)〜11月14日(日)
会場:群馬県中之条町 町内各所

2021/10/03(日)(五十嵐太郎)

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