2019年11月01日号
次回11月15日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

シンディ・シャーマン展、タキス展、オラファー・エリアソン展、ドーラ・モウラー展

ナショナル・ポートレイト・ギャラリー、テート・モダン[イギリス、ロンドン]

ロンドンのナショナル・ポートレイト・ギャラリーで開催された「シンディ・シャーマン展」を鑑賞した。実はこの建物の内部に入るのは初めてなのだが、肖像画に特化した美術館ゆえに、なるほど、変装した自画像を撮影し続けたアーティストの個展が企画されたわけである。学生時代の作品も紹介されていたが、すでに彼女のアイデンティティを分裂させるようなさまざまな変装やメイクを施していたことがわかる。そして映画、雑誌の表紙の改竄、ピンクローブ、歴史画、ファッション、ピエロ、セックス、マスク、セレブの婦人など、各時代に展開した仕事のシリーズを総覧できる内容だった。

彼女自身が歳を重ねることで、開拓される新しいシリーズも確認できる。やはりケバケバしい色鮮やかな作品よりも、映画のワンシーンを再現したかのような初期のモノクロ作品が強力だ。単なるポストモダン的な何かの引用ではなく、特定の起源なきコピーという洗練された手法だからである。またさまざまな変装グッズが収集された彼女のスタジオを再現した展示も興味深い。



シンディ・シャーマンの展示風景



シンディ・シャーマンのスタジオを再現したコーナー


テート・モダンでは、幾何学をモチーフにした3人のアーティストをとりあげていた。そもそもオラファー・エリアソンの個展を見るために足を運んだが、思いがけず、同時開催の「タキス展」がとても良かった。彼は、2019年8月に逝去したギリシア出身の彫刻家であり、重力に逆らい、宙に固定された造形など、磁力を生かした緊張感をもつ空間インスタレーションを展開している。単純な仕掛けだが、尖ったオブジェがぴんと張りつめた状態で浮いているのだ。また作品を楽器としてとらえ、音響を放つ幾何学的な作品も、コスモロジーを感じさせて素晴らしい。



タキスの展示風景



タキスの展示風景。音が発生する作品


さて、オラファー・エリアソンの個展は、確かに体験として楽しいのだが、各部屋で手を替え品を替え、いろいろなタイプの仕掛けが連続すると、科学エンターテインメントとの境目に位置して微妙かな、という作品もやはり多い。おそらく、金沢21世紀美術館のように、通路でいったんリセットしてから、それぞれのホワイトキューブに入ると、それほど気にならないのだろうが、あれだけ次々と部屋が続くと、印象がだいぶ変わる。またテート・モダンでは、ブタペスト出身の「ドーラ・モウラー展」も開催中だった。彼女の知的かつ幾何学的なアプローチによって錯視を引き起そうとする態度は、たいへん共感がもてるものだった。



オラファー・エリアソンの展示風景



オラファー・エリアソンの展示風景



ドーラ・モウラーの、錯視を引き起こす展示風景


公式サイト:
ナショナル・ポートレイト・ギャラリー http://www.iwm.org.uk/north/
テート・モダン https://www.tate.org.uk/visit/tate-modern/

2019/09/14(土)(五十嵐太郎)

ロンドン・デザイン・フェスティバル

会期:2019/09/14~2019/09/22

ヴィクトリア&アルバート博物館、デザイン・ミュージアムほか[イギリス、ロンドン]

6月の建築フェスティバルと同様、9月のロンドン・デザイン・フェスティバルも市内の各地で開催されていた。興味深いのは、屋外のインスタレーションがいくつか設置されること。デザインゆえに、ただのオブジェではなく、作品はベンチとしての機能をもつ。ポール・コックセッジは広場において上下にうねるリング状の什器を同心円状に展開し、パターニティはウェストミンスター大聖堂の前に迷路のパターンを模したベンチを置き、子供が遊んでいた。なるほど、大聖堂の床にこうした迷路の模様がよく描かれている。



ポール・コックセッジ《Please Be Seated》



パターニティ《Life Labyrinth》


メイン会場は最も多くの作品が集中するヴィクトリア&アルバート博物館だろう。まず隈研吾による中庭の竹のインスタレーションを鑑賞してから、ス・ドホによるスミッソン夫妻の集合住宅へのオマージュというべき映像など、ガイド・マップを頼りに、あちこちの部屋に点在するプロジェクトを探しながら、巨大な博物館をまわった。おかげで、奥に隠れた舞台美術の部屋など、これまで知らなかった展示室にも気づく。いわゆる歴史的な博物館が、デザインのイヴェントとコラボレートすることで、コレクションの魅力を新しく引きだすような作品も登場しており、日本でもこうした企画が増えてほしい。また建築セクションの部屋では、余暇的な水の空間をテーマとする特集展示が開催されていた。



Rony Plesl Scared Geometry



隈研吾《Bamboo (竹) Ring: Weaving into Lightness》



建築セクションで特集されていた「イントゥ・ザ・ブルー」展より、ザハの設計による水泳競技場の模型

デザイン・ミュージアムでは、いくつか建築に関する展示も企画されていた。2階ではSOMがこれまで手がけてきた高層ビルの構造を説明しながら、数多くの模型を並べていた。また3階ではパネルを用いて、AAスクールが生みだしたラディカルな教育と作品を紹介していた。そして地階では、ビアズリー・デザイン・オブ・ザ・イヤーの展覧会が開催されており、ファッションやプロダクトのほか、建築の部門が含まれていた。選ばれた作品はいずれも短いながら映像で手際よく紹介し、小さい模型だけではわからない情報を効率的に伝えている。なお日本からは、石上純也の水庭が入っていた。



SOMが手がけた高層ビル模型などの展示風景



AAスクールが生みだしてきた教育や作品の展示風景


公式サイト: https://www.londondesignfestival.com/

2019/09/14(土)(五十嵐太郎)

オックスフォードの博物館

[イギリス、オックスフォード]

カレッジが分散する街、オックスフォードに移動し、アシュモレアン博物館へ。外観の意匠はクラシックだが、内部は現代的な展示空間に改造され、特に吹抜けまわりの階段が印象的だ。古今東西の充実したコレクションを揃え、大学の運営とは思えない規模である。日本セクションでは、大英博物館と同様、茶室が再現されていた。もっとも、内部に入ることはできず、茶室の窓が面白いという視点はない。ここも現代アートの企画室があり、美術は同時代の家具や食器などと併せて展示されている。また地階では、コレクションの来歴や博物館の学芸員の仕事も紹介されていた。



アシュモレアン博物館の外観



アシュモレアン博物館の地階では、コレクションの来歴が解説されていた


ジョン・ラスキンが関わった自然史博物館は、ゴシック建築的な骨格をスチールに置き換え、屋根をガラス張りとし、太陽の光が降りそそぐ明るい空間である。興味深いのは、そのデザインが内部で展示された恐竜の骨と呼応していること。大型の陳列ケースも、ゴシック様式を意識したデザインだった。またラスキン生誕200周年ということで、コレクションをもとにしたアート作品の公募結果を発表していた。それにしても自然史博物館は、どこも子供で賑わっている。

背後で直接的に連結されたピット・リバース博物館は、一転して暗い空間である。収蔵庫がそのまま展示になったかのような圧倒的な物量が視界に飛び込む。地域や時代で整理せず、マスク、球技など、アイテムごとに世界各地からの収集物が押し込まれた陳列ケースが膨大に反復されている。おおむね2階は女性と子供(装身具や玩具など)、3階は男性(武器など)に関連した内容だった。



自然史博物館の外観



自然史博物館の内部。ゴシック建築的なスチールの骨格が恐竜の骨と呼応している


やはり大学に所属する科学史博物館は、アッシュモレアン博物館の創設時からあるものらしく、17世紀の建築である。全体はそれほどのヴォリュームではないが、特に2階に陳列された時間や空間の計測、計算、あるいは天体やミクロの観察のための器具の造形に惚れ惚れとする。科学の目的に応じて設計された機能主義のはずだが、独自の美学を備え、実際はそれを超えたデザインになっている。


科学史博物館の展示風景より。計測器具の造形美に惚れ惚れする


公式サイト:
アシュモレアン博物館 https://www.ashmolean.org/
オックスフォード大学自然史博物館 https://www.oumnh.ox.ac.uk/
ピット・リバース博物館 https://www.prm.ox.ac.uk/
オックスフォード科学史博物館 https://www.hsm.ox.ac.uk/

2019/09/13(金)(五十嵐太郎)

ケンブリッジの大学博物館ほか

[イギリス、ケンブリッジ]

およそ四半世紀ぶり、3度目のケンブリッジでは、大学が運営するいくつかのミュージアムに足を運んだ。まずフィッツウィリアム博物館は、狭い通りと対面の小店舗に対し、完全にスケールアウトした古典主義の建築である。しかも、左右のウィングが非対称で、イギリスらしいデザインだ。およそ1/3くらいのエリアが改装中である。日に焼けて亡霊化した壁のかつての作品跡と、現在の展示がズレつつ重なる中世のエリアが味わい深い。韓国の陶芸を収納する什器のほのかな照明が美しい。



フィッツウィリアム博物館の外観



フィッツウィリアム博物館における中世美術の展示風景



フィッツウィリアム博物館における韓国陶芸の展示風景


考古学・人類学博物館は、1階の導入と企画では、異なる時代の遺跡を複数のガラスを重ねることで見せるなど、展示インスタレーションがすぐれている。一方、2、3階は古い什器のままだが、一部に見える収蔵庫(場所が足りなかっただけかもしれないが)や、展示物に触発されたアートのコーナーがあった。印象的な三連の円窓を潰していることから推測すると、この建築は途中で使い方が変化したのだろう。


考古学・人類学博物館の展示風景

ケンブリッジ大学の動物学博物館の天井から吊るされた巨大なクジラ標本はお約束である。学術以外では、アーティストが動物進化に着想を得た作品展も開催されていた。セジウィック地球科学博物館は、展示物や什器が古いタイプのものだったが、サイン計画のデザインはアップデートされており、各セクションが色とアイコンで区分けされ、さらに窓をふさぐカーテンに大きくプリントされることで、空間の視認性を改善していた。



動物学博物館のクジラ標本



セジウィック地球科学博物館の展示風景

素晴らしかったのは、ケトルズ・ヤードである。これは入口からは小さな部屋しか見えないのだが、上階に行くと、思いがけない空間が広がるように、増改築を重ねたアート・コレクターの家を大学に寄贈したもので、建築のデザインだけでは決して到達できない魅力的な空間が出現していた。すなわち、ホワイトキューブではない室内に作品群を見事に配置する施主のセンスに圧倒された。



ケトルズ・ヤードの展示風景


住宅と連結された新しく建設されたギャラリーも、大学のコレクションからアートと工芸を混ぜた企画や、ジェニファー・リーの洗練された陶芸のインスタレーションなどを楽しめる。最後に大学のボタニカル・ガーデンを訪れたが、意外と普通の公園風であり、イギリスに導入された海外の植物を時系列で並べたエリアが印象に残った。



ジェニファー・リーの陶芸インスタレーション



ボタニカル・ガーデンの展示サイン


公式サイト: フィッツウィリアム博物館 http://www.fitzmuseum.cam.ac.uk/
ケンブリッジ大学考古学・人類学博物館 http://maa.cam.ac.uk/
ケンブリッジ大学動物学博物館 https://www.museum.zoo.cam.ac.uk/
セジウィック地球科学博物館 http://www.sedgwickmuseum.org/
ケトルズ・ヤード https://www.kettlesyard.co.uk/
ボタニカル・ガーデン https://www.botanic.cam.ac.uk/

2019/09/12(木)(五十嵐太郎)

北帝国戦争博物館、マンチェスター博物館、ウィットワース美術館

[イギリス、マンチェスター]

博物館を調査するプロジェクトのために、イギリスに渡航した。マンチェスターにて、念願のダニエル・リベスキンドが設計した北帝国戦争博物館を訪問した。ウォーターフロントに位置し、独特の外観ゆえに、水辺のランドマークとして機能している。もっとも、地球を表象する球体を立体的に分割し、それらの断片を再構成するという思弁的な形態操作による外観は張りぼて気味で、内部の空間との関係も薄く、微妙である。とはいえ、展示のデザインは結果的に彼らしいユニークな場となっていた。すなわち、全体的に斜めに傾いた不安定な床、天井は高いがひどく狭い通路、そして大空間に林立する鋭角的なヴォリューム群(それぞれの内部はテーマ展示室)である。おそらく展示として使いづらいという批判もあるだろうが、それがもたらす異様な空間体験は、戦争という展示物との相性もよい。



北帝国戦争博物館の外観



ダニエル・リベスキンド設計、北帝国戦争博物館の展示風景


マンチェスター大学の博物館は、メイン・エントランスのリノベーションにあわせ、アジアのコレクションなどのエリアは閉鎖中だった。したがって、自然史のエリアのみを鑑賞する。それほどコレクションは多くないが、独自のテーマの設定やメタ的な視点が導入されており、興味深い。またイギリスのインド抑圧をテーマにした現代アートの巨大絵画や、パンジャブの虐殺の歴史展示もあった。あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」を電凸と脅迫で閉鎖に追い込むような日本なら、間違いなく自虐的な内容として炎上するだろう。さすがにイギリスは大人の国に成熟している。


マンチェスター大学の博物館



イギリスのインド抑圧に関する歴史展示。マンチェスター大学の博物館より


続いて、マンチェスター大学のウィットワース美術館を訪れた。古典主義の建築を増築したものである。巨匠のセザンヌの企画を除くと、壁紙デザイン、イスラムの女性アーティスト、アンデスのテキスタイルなど、切り口がユニークだった。そしてガーナのイブラヒム・マハマによる二等車の椅子を議会風に並べた大型のインスタレーションが力強い。この美術館は公園に面しており、立地の良さを生かした、緑に包まれたガラス張りのカフェ空間も良かった。


古典主義建築を増築したウィットワース美術館



ガーナのイブラヒム・マハマによるインスタレーション



ウィットワース美術館内にある、緑に包まれたガラス張りのカフェ

公式サイト:
北帝国戦争博物館 http://www.iwm.org.uk/north/
マンチェスター博物館 https://www.museum.manchester.ac.uk/
ウィットワース美術館 https://www.whitworth.manchester.ac.uk/

2019/09/11(水)(五十嵐太郎)

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