2021年03月01日号
次回3月15日更新予定

artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

川口和之「PROSPECTS Vol.5」

会期:2021/02/05~2021/02/21

photographers’ gallery[東京都]

川口和之はこのところ、photographers’ galleryで「PROSPECTS」と題する連続展を開催している。当初は日本全国を対象としていたが、次第に埼玉県、栃木県、群馬県など北関東の街々に絞って撮影していったストリート・スナップ写真のシリーズだが、その第5回目にあたる今回、初めてテーマらしきものが見えてきた。といっても、始まりは偶然のきっかけだったようで、埼玉県桶川市を撮影中に土砂降りのにわか雨に遭い、そこから「雨の日」の光景にカメラを向けるようになった。今回の展示作品のほとんどは、雨中に撮影されている。結果的にその試みはとてもうまくいっており、半ば忘れられたような街並みが、湿り気を帯び、水に濡れることで鈍色の輝きを発して、どこか既視感を伴う光景に変質しているように感じた。

そのリアル感は、川口の丁寧なプリント・ワークに拠るところが大きい。使っているのは4200万画素のミラーレス一眼レフカメラなのだが、データを処理する時に画像の色味や彩度に細かく気を配っている。あえてシャープネスや透明度を落とすことで、風景の質感をリアルに定着させているのだ。デジタル・プリントも、パソコンやプリンター任せではなく、自分でコントロールすることが可能になってきている。写真の方向性によりフィットしたプリント・ワークが求められているわけで、川口の「PROSPECTS」シリーズはそのよき指針になるのではないかと思う。

なお隣接するKULA PHOTO GALLERYでは、同時期に川口の「PROSPECTS/TOKYO」展が開催された。2020年5月の非常事態宣言下のゴールデン・ウィークに、人気のない東京を撮影した印象深いシリーズである。

2021/02/16(火)(飯沢耕太郎)

ソシエテ・イルフは前進する 福岡の前衛写真と絵画

会期:2021/01/05~2021/03/21

福岡市美術館[福岡県]

ソシエテ・イルフは、高橋渡、久野久、許斐(このみ)儀一郎、田中善徳、吉崎一人、小池岩太郎、伊藤研之らによって、1930年代半ばすぎに福岡で結成され、戦時中まで活動したグループである。高橋、久野、許斐、田中、吉崎は写真愛好家だったが、小池は福岡県庁商工課に勤める工芸家で、伊藤は二科会に属する画家だった。彼らは、喫茶店や小池のアトリエなどを根城に議論を戦わせ、写真雑誌の『フォトタイムス』や『カメラアート』などに作品を発表したり、同人誌『irf 1』(1940)を刊行したりした。ちなみに「イルフ」というグループ名は「フルイ」を逆に読んだもので、そのネーミングには、シュルレアリスムやアブストラクトの理論を取り入れた、新たな写真表現=「前衛写真」に向かおうとしていた彼らの意気込みがよくあらわれている。

ソシエテ・イルフの活動を初めて本格的に紹介したのは、1987年に福岡市美術館で開催された「ソシエテ・イルフ 郷土の前衛写真家たち」だった。それから30年以上の時を経て、同じ美術館で本展が開催された。その後の研究の成果を踏まえて、ソシエテ・イルフの全貌をあらためて跡づけようとする展示は、よく編集された充実した内容のカタログ(編集・忠あゆみ、デザイン・尾中俊介)も含めてとても意義深いものとなった。何よりも見応えがあったのは、彼らが残したヴィンテージ・プリントの展示で、活動期間は短かったものの、ソシエテ・イルフが大阪、名古屋などの「前衛写真」に匹敵する、興味深い動きを展開していたことがよくわかった。中心メンバーの一人で、貝殻や薔薇の研究家でもあった久野久のクオリティの高い作品などは、それだけで一冊の写真集としてまとめることができるのではないだろうか。

ソシエテ・イルフに限らず、戦前の写真家たちの仕事には、まだその全体像が見えてこないものがたくさんある。それぞれの地域の美術館、博物館による、今後の調査・研究の成果を期待したいものだ。

2021/02/13(土)(飯沢耕太郎)

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小松浩子・立川清志楼「網膜反転侵犯」

会期:2021/02/04~2021/02/21

MEM[東京都]

面白い組み合わせの二人展だった。1969年、神奈川県出身の小松浩子は、建築資材置き場を撮影した写真をロールペーパーに大伸ばしし、それらを床や壁に貼り巡らすインスタレーション的な作品を発表して、2017年度の第43回木村伊兵衛写真賞を受賞している。1967年、茨城県生まれの立川清志楼は、やはり物質性の強い被写体を題材にした写真・映像作品をコンスタントに発表してきており、2020年度の写真新世紀展で優秀賞(オノデラユキ選)を受賞した。今回の二人展では、小松が2019年に埼玉県立近代美術館で開催された「DECODE/出来事と記録―ポスト工業化社会の美術」展の出品作「The Place, from 内部浸透現象」を、立川が動物園を撮影した映像作品の新作「第一次三カ年計画 Selected Remix」を展示していた。

資材置き場も動物園も、資本主義社会のグローバル・ネットワークから漏れ落ちたり、取り残されたりした場所といえる。そこでは均質化し、秩序づけられたエリアでは見ることができない、剥き出しのモノや自然の姿が露わになっている。小松も立川も、それらを記号化された画像としてではなく、大サイズの印画紙や映像を投影する紗幕などを使って物質性を強調して提示している。会場に入ると、小松のプリントが発する、定着液の饐えたような匂いが漂ってくるのだが、視覚だけでなく嗅覚や触覚も総動員しなければならない。映像の物質性を強く打ち出すと、ともすればその変換の手つきだけが目につく作品になりがちだが、小松と立川は動機と手法とが無理なく接続している。マンネリ化を避けることができれば、次の展開が期待できそうだ。

2021/02/11(木)(飯沢耕太郎)

鵜川真由子「LAUNDROMAT」

会期:2021/01/29~2021/02/11

富士フイルムフォトサロン東京 スペース2[東京都]

鵜川真由子は10代の最後の年に初めてニューヨークを訪れ、街や人と共存しているアートのあり方に強い印象を受けた。2015年に仕事で再訪したのをきっかけに、マンハッタン島西部からクィーンズに向かう地下鉄7号線の沿線の街に惹かれるようになる。その辺りはアジアやラテンアメリカ諸国からの移民が多く、それぞれの宗教や文化をバックグラウンドにした、独特の雰囲気を醸し出していたからだ。

2018年からはコインランドリーを集中して撮影し始めた。ニューヨークでは洗濯機のない家が多く、コインランドリーを使う習慣が根づいている。カラフルなバッグに洗濯物を入れてランドリーに通い、洗濯が終わるまでの時間をリラックスしてすごす。店に洗濯物を預け、衣服を畳んでバッグに詰めてもらって持ち帰ることもできる。鵜川は、自分も洗濯しながら、店に来る人たちに話しかけて写真を撮影し始めた。そうやって撮りためた写真をまとめたのが、今回富士フイルムフォトサロン東京で開催された「LAUNDROMAT」展である。

洗濯というのはごく日常的な行為で、普通は家の中で行なわれる。コインランドリーを利用することで、その行為が外に開かれることになる。下着などを含む洗濯物を人目に晒すのは恥ずかしいことのはずだが、ランドリーではあまり気にしなくなる。つまりランドリーは、内向きの顔と外向きの顔とが交錯する面白い場所である。さらに、7号線の沿線のように多様な人種が混淆する地域では、普段は出会いにくい人たちにもカメラを向けることができる。着眼点のいい作品と言えるだろう。ただ、コロナ禍で最後の詰めの撮影ができなかったことの影響は、かなり大きかったようだ。ドキュメンタリーに徹するのか、より個人的な体験に比重を置くのかという選択が、やや曖昧になってしまった。逆にこのシリーズは、さらに展開できる可能性を孕んでいるともいえる。

なお同時期に、東京・青山のNine Galleryでは、ランドリー以外のニューヨークのスナップ写真による「WONDERLAUND」展(2月2日〜7日)が開催された。両展覧会の写真をおさめた写真集『WONDERLAUND』(自費出版)も刊行されている。

2021/02/05(金)(飯沢耕太郎)

写真家 ドアノー/音楽/パリ

会期:2021/02/05~2021/03/31

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

ロベール・ドアノーは若い頃、自動車製造のルノー社に雇われていたこともあり、基本的には依頼された仕事をきちんとこなすプロフェッショナルな写真家だった。戦後も雑誌の写真の仕事をずっと続け、有名な《パリ市庁舎前のキス》も『ライフ』誌の注文で撮影した演出写真だった。にもかかわらず、彼の写真には常に自発的、能動的な撮ることの歓びが溢れているように見える。自分の好きな写真を好きなように撮るという、むしろアマチュア的な精神を保ち続けていたという点では、日本でいえば植田正治に近いといえそうだ。

今回の「写真家 ドアノー/音楽/パリ」展には、そんなドアノーの姿勢がよくあらわれた写真が並んでいた。2018年末〜19年にかけて、ドアノーの孫にあたるクレモンティーヌ・ドルディルの企画で、パリ19区のフィルハーモニー・ド・パリ付属の音楽博物館で開催された展覧会を元に、約200点の作品で構成された本展のテーマは、いうまでもなく「音楽」である。「街角」「歌手」「ビストロ、キャバレー」「ジャズとロマ音楽」「スタジオ」「ビュッフェ・クランポンのクラリネット工房」「オペラ」「モーリス・バケ」「1980年代-90年代」の9パートで構成された展示を見ると、ドアノーが「耳の人」でもあったことがよくわかる。写真家だから、当然視覚的な世界に鋭敏に反応するのは当然だが、聴覚も同時に働かせ、いわば全身の感覚を総動員してシャッターを切っていたのではないだろうか。見ることと聞くこととが見事に融合した写真の世界を堪能することができた。

なお小学館から、小ぶりだが目に馴染む、B6変型のカタログ(デザイン・おおうちおさむ/有村菜月)が刊行されている。

2021/02/04(木)(飯沢耕太郎)

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