2019年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

山内道雄「LONDON」

会期:2019/08/09~2019/08/31

Zen Foto Gallery[東京都]

Zen Foto Galleryでの個展にあわせて刊行された同名の写真集の「後記」に、山内道雄がギャラリーのオーナーのマーク・ピアソンから「ロンドンの写真がない」と言われたと書いている。たしかに、ロンドンを撮影した現代写真はあまり見たことがない気がする。ロンドンはあまりにも「人工的で成熟した都市」であり過ぎて、写真家たちの写欲をそそらないのではないだろうか。

そう考えると、わずか3カ月あまりの滞在で、これだけ多様な、しかもクオリティの高い写真を撮影できた、山内のスナップシューターとしての底力に驚かされる。午前中は宿に近いキングス・クロス駅近くを、午後からは中心部のピカデリー・サーカスやテムズ川周辺を、そして夕方にはオックスフォード・ストリートというコースを、ほぼ毎日行き来して撮影した写真をまとめたシリーズだが、そこには確実に2010年代後半のロンドンの空気感が写り込んでいる。

機材をデジタルカメラに変えてから、山内の撮影のスタイルはより軽やかなものになった。それでも、いきなり目に飛び込んでくるような「ヤバい」写真がたくさんある。滞在途中で盗難にあったこともあって、本人は質、量ともにやや物足りないと思っているようだ。だが、展示にも写真集にも、路上スナップの王道とでもいうべき活気と熱量を感じる。山内は1950年生まれだから、もう70歳近いのだが、健脚はまだまだ衰えていないようだ。

2019/08/23(金)(飯沢耕太郎)

長島有里枝×竹村京 まえ と いま

会期:2019/07/13~2019/09/01

群馬県立近代美術館[群馬県]

長島有里枝の祖父母は群馬県高崎市の出身で、彼女も幼い頃から市内の親戚の家などをよく訪ねていたという。東京出身の長島にとって、高崎は第二の故郷だったということだ。そんな縁もあって、高崎の群馬県立現代美術館で、刺繍を作品に使う当地在住のアーティスト、竹村京との二人展が実現した。

長島は、祖母が撮影した庭の花の写真をモチーフに、滞在していたスイスで撮影した「SWISS」、祖母が買い揃えた衣服が、姪に「おさがり」として受け継がれる状況に目を向けた「Hand Me DOWN」、18歳から現在まで群馬県で撮った写真を集成した「Home Sweet Home」、祖母が遺した押し花用のドライフラワーをフォトグラムの技法で再生した「past,perfect,progressive/ 過去完了進行形」などのシリーズを、細やかな手つきでインスタレーションし、祖父母と高崎の記憶を再構築している。それらは竹村が制作し続けている、日常のモノや写真と刺繍された布とのコンビネーションの試みと、とてもうまく対応しており、二人のアーティストの作品世界が滑らかに接続していた。このところの長島の写真を使うアーティストとしての表現力は格段に上がってきており、どんな枠組にも対応できるようになってきている。今回は日本人のアーティストとの二人展だったが、もし機会があれば海外作家とのコラボレーションも考えられそうだ。

ちょうど夏休み中の企画だったということもあって、アーティストトークや小学生を対象とするワークショップも開催された。さまざまな観客に向けて広く開かれた、風通しのいい展覧会だ。

2019/08/20(火)(飯沢耕太郎)

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TOPコレクション イメージを読む 写真の時間

会期:2019/08/10~2019/11/04

東京都写真美術館 3階展示室[東京都]

東京都写真美術館所蔵の写真コレクションによる企画も、だいぶ回を重ねてきた。常設展にあたるこのような展覧会は、繰り返すうちに同工異曲のものになりがちだ。3万5千点を超えるという東京都写真美術館の収蔵作品をどういう切り口で紹介していくのか、新たな展覧会のアイディアを考えること自体が徐々にきつくなってくる。今回の「写真の時間」にしても、何度か同じような趣向の展示を見た記憶がある。というより、「写真」と「時間」はいわば同義語反復のようなものであり、担当学芸員の枡田言葉が同展カタログの序文に書いているように、「制作の時間」、「イメージの時間」、「鑑賞の時間」という「今回取り上げた3つのキーワードは相互に重なり合うため、各章における作品の選択は恣意的にならざるを得ない」のだ。

とはいえ、コレクション展においては、新奇性のみにこだわる必要はないだろう。要するに、いい作品をきちんと選び、作品相互の関係に気を配りつつ、丁寧な解説を付して展示すればそれでいいのではないだろうか。今回の展覧会でいえば、アウグスト・ザンダーと鬼海弘雄のポートレートの対比、田口和奈の「あなたを待っている細長い私」や畠山直哉「Slow Glass/Tokyo」といったあまり見る機会のない作品、川内倫子の「Illuminance」と「Iridescence」の両シリーズのまとまった展示などを見ることができたのは大きな収穫だった。開館以来30年近くを経て、東京都写真美術館の写真コレクションがかなり充実してきたことが、出品作品からも伝わってくる。写真を「見る」ことの歓びを、多くの人たちに知ってもらうためにも、コレクション展の役割は、今後より重要なものになっていくだろう。

2019/08/14(水)(飯沢耕太郎)

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七菜乃 写真展「My Aesthetic Feeling 2019」

会期:2019/08/09~2019/08/25

神保町画廊[東京都]

2016年以来続いている 七菜乃の「集団ヌード」撮影の試みにも厚みが出てきた。2017年から年1回のペースで、「My Aesthetic Feeling」と題する個展を神保町画廊で開催してきたが、今回は『七菜乃写真作品集 My Aesthetic Feeling』(芸術新聞社)の刊行にあわせて、日本家屋で撮影された新作の2シリーズ、23点が出品されていた。

やなぎみわは、写真集の巻末の対談「自分が見たい美のために」で、七菜乃の「集団ヌード」は、「いい意味でちょっとゆるくて、解放感がある」と指摘している。SNSでモデルを募集し、手袋、ベール、白靴下といった最小限の小道具を使う以外は、なるべくリラックスした雰囲気で撮影するというやり方がとてもうまくいっていて、男性目線で商品化されがちな女性ヌードから、気持ちのよい「解放感」を引き出しているのだ。ひとりのモデルを撮影すると、どうしても性的な関係性を連想させがちになるが、「集団」ではそれが薄れて、むしろ体と体の絡み合い、重なり合いの多様なヴァリエーションが引き出されてくるのも興味深い。

今のところ、各セッションの「乗り」が適度に保たれていて、作品としての完成度も上がってきた。ただ、そろそろ撮影のパターンが固定してきているようにも見える。七菜乃はやなぎとの対談で、60歳代のモデルの人も「来てほしい」と語っているが、それはぜひ実現してほしい。異質な体の持ち主が入ってくると、だいぶ違った印象になるのではないだろうか。また、これまでは最大30人ほどのモデルを撮影してきたのだが、その数がもっと増えると、撮り方──撮られ方もかなり違ってきそうだ。モデルのコントロールがより難しくなることで、逆に思いがけない場面が出現してくるかもしれない。

2019/08/12(月)(飯沢耕太郎)

『小檜山賢二写真集 TOBIKERA』

発行所:クレヴィス

発行日:2019年7月19日

小檜山賢二の新作写真集も、デジタル化によって成立した表現の開花といえる。本業は通信システムの研究者である小檜山は、2000年以降、「焦点合成」という技法で昆虫を撮影してきた。昆虫の体の各部分にピントを合わせて撮影した画像を合成して、恐るべき精度の写真を作りあげていく。だが、今回はこれまで彼が発表してきた『象虫』(出版芸術社、2009)、『葉虫』(同、2011)、『兜虫』(同、2014)といった写真集とはやや趣が違う。昆虫たちのフォルムを、超絶的な画像で定着した旧作とは違って、『TOBIKERA』には昆虫の姿は写っていない。本書の主題は、蝶や蛾のような生きものであるトビケラの幼虫が、水中に作る巣なのである。

写真集のデザインを担当した佐藤卓が、「デザインのお手本」と題した解説の文章で書いているように、それらは「正に現代アートにしか見えない」。トビケラの幼虫は、自分の周囲にある葉や木片や石粒などを、体から分泌される粘着性の物質で接合し、精妙な構築物を作り上げる。小檜山はそれらを黒バックで小さな家のように撮影している。ひとつとして同じものがないその造形は奇跡としかいいようがない。ここでも「焦点合成」が駆使されているのだが、やや非現実的な効果を生みがちなその手法が、今回は被写体のあり方と無理なく結びついていた。

自然のなかに潜む「センス・オブ・ワンダー」を引き出してくる自然写真は、デジタル化によって大きく変わりつつある。これから先もさまざまな分野で、新たな視覚的世界が切り拓かれていくのではないだろうか。なお、本書に掲載された写真の一部は、佐藤卓がディレクションした「虫展—デザインのお手本—」(21_21 DESIGN SIGHT、7月19日〜11月4日)にも展示されている。

2019/08/10(土)(飯沢耕太郎)

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