2019年09月01日号
次回9月17日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

美ら島からの染と織─色と文様のマジック

会期:2019/08/10~2019/09/23

渋谷区立松濤美術館[東京都]

数年前、沖縄に出張した際、紅型作家の工房を訪ねたことがあった。紅型とは、沖縄に伝わる型染めのことである。私は個人的に紅型が好きで、着物や帯、風呂敷などを持っている。艶やかな友禅などとは違い、どこかほっこりと愛らしい点に魅かれるからだ。その愛らしさの秘訣は、紅型独特の隈取りという技法にある。つまり色と色とを重ねる際に、境目にぼかしを施すことで、全体に柔らかい印象を与えるのだ。という一般的な知識はあったが、実際に紅型作家に話を聞くと、この隈取りにもルールがあり、流派によってどの色と色とを重ねるのかが決まっているのだという。何事も様式美があってこそと思い知った。

さて、本展ではこの紅型に始まり、沖縄の織物や染織の道具、人間国宝や名工らの作品が紹介されていた。ここでは沖縄というより、琉球王国という方が正しいのだろう。紅型に使われる黄や赤などの鮮やかな色彩感覚は琉球王国らしいが、文様は松竹梅や牡丹、鳳凰など、日本本土とそれほど変わらないことは発見だった。一方、織物はもっと独特である。絹や木綿、麻の織物も一部あるが、それ以外の織物も多い。麻の一種である苧麻で織られた上布、糸芭蕉で織られた芭蕉布(ばしょうふ)、そして中国からの輸入糸で織られた桐板などである。いずれも軽くて薄く、ハリのあるサラリとした風通しの良い織物で、高温多湿な琉球王国では重宝された。織物の文様もまた独特だ。幾何学文様や絣(かすり)が多いのだが、植物や動物を表わしていたり、織り方に特別な意味が込められていたりする。

《白地流水菖蒲蝶燕文様紅型苧麻衣裳》(国宝)18-19世紀 那覇市歴史博物館蔵
※9月10日〜23日展示

もっとも印象的だったのは、本展の最後に流れていた、重要無形文化財芭蕉布保持者(人間国宝)の平良敏子を追ったドキュメント映像だ。平良は、戦後、滅亡の危機にさらされた芭蕉布を復興させた功労者で、「喜如嘉の芭蕉布保存会」代表を務めている。ドキュメント映像を観ると、芭蕉布の製作には気が遠くなるほどの手間と時間がかかることがわかった。まず芭蕉の木を刈り、茎を剥ぐところから始まる。灰汁で煮出して軟らかくし、糸を紡ぎ、染めて……と一反の織物にするまでにいくつもの工程を経なければならない。染織物に限らず、結局、工芸品を伝えることは、その土地の歴史や文化を伝えることでもある。工業製品一辺倒となった現代においても、いまだに工芸品がわずかながら人々に求められているのは、そうした根っこに触れられるからではないか。かつては別の国として栄えた琉球王国の文化を垣間見られる展覧会である。

展示風景 2階展示室

公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/184okinawa/

2019/09/01(杉江あこ)

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柚木沙弥郎の「鳥獣戯画」

会期:2019/07/13~2019/09/08

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

柚木沙弥郎というと、民藝運動に影響を受けた染色家のひとりという概念しかなかったが、本展を観て、版画や絵本、立体作品といった分野でも活躍していたことを知った。むしろこれらの作品の方が、作家としての力量を感じた。創作活動の原点に、工芸と美術、西洋と東洋、作家と職人といった二者の間での葛藤があったというから、民藝運動が提唱した「用の美」の枠に当てはまらない創作意欲が、きっと内心からあふれていたのだろう。まず、本展の最初に展示されていた一連の版画作品「ひまわり」に目を奪われた。これらはアルシュ紙に墨一色でひまわりの一生を力強く描いた作品群で、特に《老いたひまわり》は柚木自身の姿でもあると評され、枯れてなお孤高の美しさがあることを表現した点には心動かされた。



柚木沙弥郎《老いたひまわり》(2014)
モノタイプ、アルシュ紙 公益財団法人泉美術館蔵

圧巻は、2019年の最新作「鳥獣戯画」である。鳥獣戯画で思い浮かぶ京都の高山寺所蔵の絵巻物は、いまもなお多くの日本人に愛される漫画の原点として知られるが、柚木は森山亜土の舞踊劇『鳥獣戯画』に着想を得て、全長12メートルに及ぶ大作に仕上げた。主に第一巻(甲巻)に準拠した内容で、兎、猿、蛙、狐らを登場させ、射的、相撲、田楽、仏の供養など18の場面を描いた。柚木は鳥獣戯画の魅力について「そこには、生き物の生きる喜びや躍動する生命観が、閉鎖的で憂鬱な社会の潮流に流されないで描かれていると思うのだ」と語っている。柚木が描いた「鳥獣戯画」は、原書と比べると巧さには欠けるが、味わい深く、愛らしい筆致に映った。まさに「生き物の生きる喜びや躍動する生命観」が強調された形のようである。

本展の最後を締めくくったのは型染布のほか、絵本である。柚木はさまざまな絵本の原画を手がけているが、宮沢賢治の名作『雨ニモマケズ』に寄せた原画に、私は注目した。同作で語られる、勤勉で、健康で、無欲で、身の丈に合った暮らしのなかで、他人のために率先して行動する理想の農民像が、なんとなく柚木の作風と相通じるものを感じたからだ。ひと言で言えば、素朴ゆえの力強さだろうか。先の「鳥獣戯画」にもつながるが、生きる力強さかもしれない。『雨ニモマケズ』が書かれた昭和初期に比べると、いまの世の中にはそうした力強さが足りないように思う。だからこそ、いま、柚木の作品が見直されているのだろう。



柚木沙弥郎《いのちの樹》(2018)
型染、紬 作家蔵
[撮影:阿部健]

絵本『雨ニモマケズ』原画
(作:宮沢賢治 絵:柚木沙弥郎)(2016)
水彩、紙 公益財団法人泉美術館蔵

公式サイト:http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2019_yunoki

2019/08/20(杉江あこ)

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太田喜二郎と藤井厚二 日本の光を追い求めた画家と建築家

会期:2019/07/13~2019/09/08

目黒区美術館[東京都]

洋画家の太田喜二郎と建築家の藤井厚二の交流に焦点を当てた展覧会である。交流が生まれた場所は、大正時代の京都帝国大学。二人とも欧米滞在の経験を持つことや、自然光を自作に積極的に採り入れたことなどの共通点が語られているが、二人の接点として注目すべきは、太田邸の設計を藤井が手がけたことだろう。この太田邸をはじめ、藤井は初期を除けば住宅建築に力を注いだ建築家であった。何しろ、「其の国を代表するものは住宅建築である」という名言を残したとまで言われている。太田邸の設計では、アトリエに北側採光をうまく取り入れたとのことで、非常に納得した。私の取材経験からすると、画家は北向きのアトリエを好む傾向にある。北側からの光は優しく、安定しているからだ。強い光から絵画を保護するという意味もあるのだろう。

《太田邸模型》(2019)
[制作:二星大暉/協力:松隈洋研究室、京都工芸繊維大学/撮影:市川靖史]


藤井厚二《太田邸新画室(アトリエ)》(1924竣工、1931増改築)
[写真:古川泰造/写真提供:竹中工務店]

もともと、藤井は、竹中工務店に勤務していた経歴を持つ。その際に朝日新聞大阪本社などの設計を担当し、同社設計部の基礎を築いた。同社を退社後、欧米視察を経て、京都帝国大学工学部建築学科で教鞭を執る。同時に日本の住宅建築を環境工学の視点から考察し、依頼があれば設計を手がけた。太田邸はそのひとつというわけだ。何より藤井の集大成と言うべき研究が、5回にわたり建てた実験住宅(自邸)である。

第5回目の実験住宅は《聴竹居》と呼ばれ、後に建築家の自邸として初めて重要文化財にもなった。本展では、《聴竹居》が写真や模型、図面などでつまびらかにされている。これが見事に計算し尽くされ、細部に至るまで凝っていて驚いた。例えば居室(リビング)にはテーブルと椅子、ソファが設えられているのだが、その奥には小上がり的に床の間も設えられている。床の間を「簡素な装飾」ととらえたのだ。しかも椅子座の人と、床座の人との目線の高さを合わせている。欧米視察の際に見聞きした西洋様式を取り入れながらも、日本の気候風土や日本人の身体感覚に適した住宅のあり方を追求した、藤井らしい斬新な発想である。また玄関扉の装飾から、造り付け家具、照明器具、時計など、ありとあらゆる室内装飾の設計までも手がけており、これはまさしく工芸的な住宅と言えた。もちろん財力があり、自邸だからこそ実現できたことだろうが、現代の住宅建築でこれほど手を尽くせるだろうか。ある意味、究極の贅沢を見たような気がした。

藤井厚二《聴竹居》重要文化財(1928)
[写真:古川泰造/写真提供:竹中工務店]


公式サイト:https://mmat.jp/exhibition/archive/2019/20190713-64.html

2019/08/08(杉江あこ)

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原田治展 「かわいい」の発見

会期:2019/07/13~2019/09/23

世田谷文学館[東京都]

中学生のころ、ご多分に洩れず、私も持っていたなぁ。と、思わず懐かしい気持ちに駆られた「OSAMU GOODS(オサムグッズ)」。ミスタードーナツの景品に至っては、オサムグッズ欲しさに、私はドーナツを購入した口である。しかし本展を観て、原田治のイラストレーションの実力はそれだけに留まらないことを痛感した。1970〜1980年代の初期の仕事を見ると、特に雑誌の表紙や挿絵では、同じ人が描いたとは思えないほど、実に多彩なタッチのイラストレーションを描いていたからだ。もともと、米国のコミックやTVアニメ、ポップアートなどから影響を受けたという面も頷けるし、表現力の幅が広い器用なイラストレーターだったのだろう。

とはいえ、それだけでは一世を風靡するイラストレーターにはなれない。原田はその後すぐに「かわいい」という要素を武器に、大きく舵を切っていく。その理由とでもいうべき、原田の言葉がとても印象的だ。「イラストレーションが愛されるためには、どこか普遍的な要素、だれでもがわかり、共有することができうる感情を主体にすることです」。それが「かわいい」だったのだ。しかもそれは巧妙に計算し尽くされた「かわいい」だった。「終始一貫してぼくが考えた『可愛い』の表現方法は、明るく、屈託が無く、健康的な表情であること。そこに5%ほどの淋しさや切なさを隠し味のように加味するというものでした」。ちょっと驚いたような表情や考えるような表情、眠い表情などを浮かべるオサムグッズの少年少女、動物たちには、そんな仕掛けがあったのだ。

© Osamu Harada / Koji Honpo

1970〜1980年代は、グラフィックデザイン業界においてイラストレーション全盛の時代でもあった。原田とも親交があった安西水丸やペーター佐藤をはじめ、田名網敬一、横尾忠則、宇野亜喜良、大橋歩らが活躍した。彼らのなかでも、原田は特にビジネス的に成功したイラストレーターと言える。例えばカルビー「ポテトチップス」のキャラクター、日立「ルームエアコン 白くまくん」のキャラクター、ECCジュニアのキャラクター、東急電鉄の注意喚起ドアステッカー、崎陽軒「シウマイ」の醤油入れ(ひょうちゃん)など、企業広告や各種グッズの展示を観て、あれもこれも、原田の仕事だったことを思い知らされる。「かわいい」は子どもや女子中高生だけが感受する要素ではない。大人も心惹かれ、共感しうる要素であることを改めて実感した。

会場風景 世田谷文学館

会場風景 世田谷文学館


公式サイト:https://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html

2019/08/08(杉江あこ)

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マイセン動物園展

会期:2019/07/06~2019/09/23

パナソニック汐留美術館[東京都]

マイセンといえば、欧州で初めて磁器を焼いた窯として知られる。17世紀当時、欧州では中国の景徳鎮や日本の伊万里が大流行。なかでもドイツのザクセン選帝侯アウグスト強王は屈指の収集家で、あの白く、薄く、硬く、艶やかな磁器を自ら治める領内でなんとか焼けないかと躍起になり、錬金術師のヨハン・フリードリッヒ・ベットガーを監禁し、磁器製造を命じた。およそ8年かけてベットガーは硬質磁器の焼成に成功。アウグスト強王は外部に製造技術が漏れることを懸念し、1710年にマイセン地区のアルブレヒト城内に磁器製作所を設立した。これがマイセンの始まりである。

当初、マイセンでは中国の染付や日本の柿右衛門様式の絵を真似して描いていたが、1731年にヨハン・ヨアヒム・ケンドラーを成型師として招き入れると、彫像をたくさん製造するようになった。本展はなかでも動物彫像にスポットを当てた展覧会である。「動物園展」と題したのは大げさでも何でもなく、当時、アウグスト強王はドレスデンに建てたツヴィンガー宮殿の「日本宮殿」に、莫大な日本の磁器コレクションを収蔵すると同時に、100体以上の動物彫像を焼かせて飾ったという。宮殿に磁器の動物園をつくろうとしたのだ。磁器で何でもつくれると夢見た、アウグスト強王のある種のロマンを見るようである。

どこの国でも、こうした時の権力者によって、産業は守られ発展する。現に彫像づくりによって、マイセンは製造技術が飛躍的に上がった。本展では《猿の楽団》をはじめ、神話や寓話をモチーフにした美術工芸品、器の装飾として取り入れられた鳥や虫、さらにアール・ヌーヴォー様式の動物彫像、アール・デコ様式の動物彫像が展示されている。その動物たちの隆々とした姿形や、生き生きとした表情の見事なこと。日本でも磁器で壺などの美術工芸品をつくることはあるが、装飾は絵付けや釉薬の工夫に留まり、あくまで壺という用途を成す形態を崩すことはない。しかし欧州では磁器で器もつくるが、絵画や彫刻に並ぶファインアートとしての彫像にも積極的に取り組む傾向がある。そこが大きな違いだろう。欧州の名窯の歴史を、動物彫像を通して知れる貴重な機会である。

《猿の楽団》ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー、ペーター・ライニッケ 1820~1920頃 個人蔵

《二匹のフレンチブルドッグ》エーリッヒ・オスカー・ヘーゼル 1924~1934年頃 J’s collection

《カワウソ》マックス・エッサー 1927 個人蔵


公式サイト:https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/19/190706/

2019/08/04(杉江あこ)

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