2023年03月15日号
次回4月3日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

analogueの建築

[京都府]

研究室OBを含む建築ユニットのanalogueとkiiriが共同で設計した作品を京都で見学した。美術系の大学教員の夫妻が暮らす、《等持院の住宅》の見学は、1月に案内をもらっていたが、都合がつかず、遅れての訪問となったが、おかげで空っぽの部屋ではなく、蔵書や食器などが入ったセンスのある生活感がわかる状態になっていた(今後も正式なポストやカーテンが加わる予定)。木造二階建てだが、上はロフトだけなので、かわいらしいコンパクトな家である。特徴的なのは、塀がなく、正面と背後の二面接道により視線が貫通できることや、全方位に散りばめた開口によって実際のサイズよりも広く感じることだ。また外構には通り抜け可能な細い路地的な余白を設けている。これはanalogueの村越怜が、かつて勤めていたはりゅうウッドスタジオが手がけた《都市計画の家II》を連想させるだろう。住宅地においてあえて外部の人が通り抜けできる道を提供していたからである。そして《等持院の住宅》の内部はほぼワンルームとし、中央を横断するロフトの床やカーテンで、ゆるやかに空間を分節する。このスケール感だと、什器の造形も重要であり、以前のマンションから運んだ家具にあわせたインテリアが設計されている。



《等持院の住宅》




《等持院の住宅》



はりゅうウッドスタジオ《都市計画の家II》


この家に暮らす版画家の出原司による《京都リトグラフ工房》は、歩いて3分ほどの距離だが、やはりanalogue+Kiiriが先に手がけたものである。つまり、先に仕事場としての離れができてから、家が完成した。なお、出原自身によって一度改修が行なわれていたので、鉄骨事務所に対する二度目のリノベーションである。過去の痕跡を残しつつ、開口を増やしたこと、また間仕切りをなくして、長い空間を一体化させることで、工程に沿って機械や作業台を一列に並べるというものだった。線路沿いの敷地ゆえに、開口の真横を電車が通り、正面は開放的な場とし、街に開く。



《京都リトグラフ工房》



《京都リトグラフ工房》


analogueは、名古屋の《UNEVEN HUB STORE》(2021)でもリノベーションを担当している。集合住宅の一階に入っていたスーパーマーケットの空間を改造し、ファッション、雑貨、コーヒーなどの小さな店舗群、イベントスペース、キッチン、広い通路を設けたものだ。通常、こうした施設では、インテリアはばらばらになりがちだが、建築家が街のマスターアーキテクトのように統一感をつくる試みが興味深い。いずれも単体の建築ながら、街とのつながりを強く意識したプロジェクトである。



《UNEVEN HUB STORE》




《UNEVEN HUB STORE》


2023/02/05(日)(五十嵐太郎)

How is Life? ─地球と生きるためのデザイン

会期:2022/10/21~2023/03/19

TOTOギャラリー・間[東京都]

経済思想・社会思想を専門とする斎藤幸平の著書『人新世の「資本論」』を一昨年あたりに読み、相当感化された私にとって、本展は大変に興味深い内容だった。いま、SDGsが叫ばれる世の中だが、本当にこれらの項目を実行するだけで地球環境を劇的に変えられるのだろうか。以前から薄々と感じていたそんな疑問に対し、同書は否と明確に答えを突き付けてくれた。本展もまた然りである。ライブラリーコーナーに「キュレーター会議で取り上げられた」という書籍が何冊か並んでいたのだが、現に、そのなかに同書も入っていたことに頷けた。

近代以降、人類は経済成長のための活動をずっと続けてきたが、さまざまな面で限界に達したいま、これ以上の成長を望むことは正しいのだろうか。そんな根本的な問いに対し、本展は「成長なき繁栄」という言葉で返す。そう、人類をはじめ地球上に棲むすべての生物がこの先も持続的に繁栄していくためには、経済成長を前提とする必要はもうないのだ。生産、消費、廃棄といった従来のサイクルで物事を捉えることを我々はいったん止め、皆が真に豊かになれる方向へ大きく転換しなければならない。そうした考えに基づいた草の根運動やプロジェクトが、いま、世界中で実践され始めているという。塚本由晴、千葉学、田根剛、セン・クアンといった第一線で活躍する建築家・建築史家4人がそれらの運動やプロジェクトを収集し紹介したのが本展だ。


展示風景 TOTOギャラリー・間 © Nacása & Partners Inc.


農業や林業、里山の仕組みを見直すといった類のプロジェクトも多く紹介されていたが、私がむしろ興味を引かれたのは都市のあり方である。特にパリをはじめ、ヨーロッパの都市が積極的に変わろうとしているのには好感を持てた。例えば車や鉄道に代わり、改めて着目されている移動手段は自転車だという。より人間に近いモビリティが求められているというわけだ。そこで問われるのが自転車道を優先した都市計画で、パリやチューリッヒなどではすでにそうした試みが始まっているという。


展示風景 TOTOギャラリー・間 © Nacása & Partners Inc.


結局、既成概念にとらわれていては何も変えられない。この危機的状況を脱するには、より柔軟な発想が必要となる。最後に観た作品「How to Settle on Earth」は、その点で非常に刺激的な内容だった。建築家・都市計画家のヨナ・フリードマンが「地球の再編成」をテーマに軽妙なイラストながらラディカルな提案をしていて、目が釘付けになった。地球および人類の未来のためには、もしかすると国境すらも取っ払う必要が出てくるのかもしれない。


公式サイト:https://jp.toto.com/gallerma/ex221021/

2023/01/21(土)(杉江あこ)

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日常の風景の中に文化財を観る:地域の彫刻と建築を学ぶワークショップ

会期:2023/01/20

慶應義塾大学アート・センター [東京都]

慶應義塾大学アート・センターが企画する「日常の風景の中に文化財を観る:地域の彫刻と建築を学ぶワークショップ」の建築ツアーの講師を担当した。ちなみに、アート・センターでは美術だけでなく、槇文彦による慶応関係のプロジェクトの図面も保管しており、「アート・アーカイヴ資料展ⅩⅩⅢ 槇文彦と慶應義塾Ⅱ 建築のあいだをデザインする」(2022)などの企画展を開催している。さて、ツアーは、午前は三田キャンパスに始まり、岡啓輔による驚異のセルフビルド建築の《蟻鱒鳶ル》(そろそろ完成が近いらしい)とその斜向かいの2つのコアによる丹下健三の《クエート大使館》(1970)、午後は明治学院大学の白金キャンパス(内井昭蔵の個性的な意匠を備えた再開発を含む)、内田祥三の《旧公衆衛生院》(1938)、東京都庭園美術館と「スカイハウス再読」展まで、かなりの強行軍だったが、このエリアに多くの建築があることを再認識する。



明治学院大学の記念館、背後は内井昭蔵による再開発




内田祥三《旧公衆衛生院》



役得としては、なまこ壁の外観に対し、効果的な採光によって室内が想像以上に明るい慶應の《三田演説館》(1875)、移築され、薄い膜によってかつての空間のヴォリュームを想起させる《ノグチ・ルーム》(1951/2005)、明治学院大の《インブリー館》(1889頃)などは、これまで内部に入ったことがなく、貴重な体験だった。また学生のときのインド・ネパール旅行で犬に噛まれ、帰国後の6回目の狂犬病の注射のために、確か足を運んだ旧公衆衛生院も、数年前から郷土歴史館として公開されている。

三田キャンパスの魅力は、近現代の建築群が連携していることだろう。曾禰中條建築事務所による一連の《図書館旧館》(1912)、《塾監局》(1926)、《第一校舎》(1937)は、だんだんゴシック的な意匠を減らし、3番目はバットレスのみが残る。こうした垂直性を強調した建築に対し、槇事務所は水平性のモダニズムを得意とするが、やはり周辺環境を踏まえたデザインを試みている。例えば、《図書館新館》(1981)は、バットレスの高さを意識した垂直の要素をもち、さらにミラノのドゥオモに言及している。この大聖堂は、イタリア北部ということで、ゴシックの垂直性と古典主義の水平性が混在した意匠をもち、実際に《図書館新館》の北面の輪郭はドゥオモと似ている。また《大学院棟》(1985)は、ポストモダンが盛り上がった時代であり、槇の作品であっても、遊びや装飾のデザインが認められる。広場に対する時計塔や面ごとにファサードを変えるなど、細かく場を読み込んでいる。なお、槇事務所は《図書館旧館》の保存、免震化、リノベーションも1982年と2020年に手がけている。



《図書館旧館》




《塾監局》




《図書館新館》のドゥオモ風ファサード




《大学院棟》




「スカイハウス再読」展 展示風景


公式サイト:http://www.art-c.keio.ac.jp/news-events/event-archive/workshop-tour-2023/

特別展示・テーマ展示「ランドスケープをつくる」第2回「スカイハウス再読」

会期:2022年12月10日(土)~2023年1月29日(日)
会場:東京都庭園美術館 正門横スペース
(東京都港区白金台5-21-9)
企画展示 横浜国立大学大学院/建築都市スクール Y-GSA

2023/01/20(金)(五十嵐太郎)

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ハン・ジェリム『非常宣言』、パク・デミン『パーフェクト・ドライバー』ほか韓国映画・ドラマ

あまり日本では話題にならなかったが、航空パニック×バイオテロのジャンルを掛け合わせたハン・ジェリム監督の映画『非常宣言』(2022)は、ハリウッド映画と比べてまったく遜色ない傑作だった。すでに航空パニックものはさまざまな作品が存在するが、ここまで深い絶望を感じさせるのは初めてであり、特に終盤において乗客が下すある決断は前例がなく、衝撃的だろう。難点をあげるとすれば、いまいちとらえどころがない犯人像か(仕かけたテロの行方を見届けない映画『機動警察パトレイバー the Movie』[1989]の帆場暎一みたい?)。だからこそ、その存在はサイコで不気味なのだけど。

同じく1月に封切りされた『パーフェクト・ドライバー」(2020)は、とにかくカッコいい。韓国映画はすでに幾つも女性アクションの傑作を生みだしているが、『ベイビー・ドライバー』(2017)+『グロリア』(1980)的に展開する本作品も仲間入りだろう。個人的にラストは三重に予想を裏切られた。『シュリ』(1999)を鑑賞したとき、韓国でこんなスリリングなスパイ・アクション映画がつくれるのかと驚いたが、もうそれが当たり前になっている。

建築に注目すると、集合住宅は実際に都市風景の中で林立しており、韓国の映像の得意分野だろう。昨年末に日本で公開されたマンション・ディザスター・パニック『奈落のマイホーム』(2021)は、突然、巨大な陥没穴が生じ、マンションが地下500mに転落していく。冒頭は群像紹介でややだれるが、落下が始まった後はありえない事態だけに、特撮技術の迫力が光る。そしてサバイバルのなかに笑いの要素もあり、ラストは感動も起こさせる奇跡の作品だった。韓国のドラマやNetflixのオリジナル映画では、『#生きている』(2020)や『Sweet Home─俺と世界の絶望─』(2020)など、集合住宅を舞台とするゾンビものの名作が続く。



ロッテワールドタワー ソウルスカイ展望台から撮影したマンション群



特筆すべきは、感染対策のために、外部から閉鎖されたロックダウン的な状況下の人間関係を嫌らしく表現した『ハピネス』(2021)である。これは途中で正気に返る近年の傾向を入れつつ(『CURED』[2017]など)、コロナ禍と共有する問題を接続させ、そこにマンション内格差のテーマを加え、極限状況における人間の怪物化を描く。もちろん、ウイルスが引き起こす症状よりも、利己的な人間の心の方が恐ろしい。


『非常宣言』公式サイト:https://klockworx-asia.com/hijyosengen/

『パーフェクト・ドライバー』公式サイト:https://perfectdriver-movie.com

2023/01/15(日)(五十嵐太郎)

富岡町の展示施設

[福島県]

久しぶりに福島県の被災地をまわり、双葉郡富岡町においていくつかの展示施設を訪れた。環境省の《特定廃棄物埋立情報館「リプルンふくしま」》(2018)は褒められたものではない。まず名称は再生・復興への想いを込めて「リプロデュース」をかわいくしたものを公募で選んだ名称だが、シビアな内容の展示と齟齬がある。それは妙に子ども向けにしたロゴや展示デザインも同じだ。おそらく、名称と雰囲気だけなら児童施設に見えるだろう。そして安普請の建築が最悪で、ごく一部に意匠的な操作は認められるが、まったく無意味な加え方だった。一方で、立ち寄ったときは残念ながら閉まっていた、民間の《ふたばいんふぉ》(2018)は、すっきりとした箱の建築である。外からのぞいても、パネル展示は見えなかったが、お酒も飲めそうなカフェが存在していることは興味深い。



《特定廃棄物埋立情報館「リプルンふくしま」》




《特定廃棄物埋立情報館「リプルンふくしま」》




《ふたばいんふぉ》


衝撃的だったのは、事故を記録し、廃炉事業の全容を伝える《東京電力廃炉資料館》(2018)である。いや、あまりに場違いな雰囲気のデザインに腰を抜かした。補修中なのか、足場で包まれていたが、外観がキュリー夫人、エジソン、アインシュタインの生家を合体させたイメージのメルヘン建築だったからだ。もっとも、これはエネルギー館として1988年にオープンしたもので、「原子力発電PR館」として位置づけられた建築である。だが、311の原発事故を受けて、2018年から廃炉資料館として再出発した。なるほど、歴史建築を引用するポストモダンのデザインが華やかなりし時代に建設されたとはいえ、エネルギー館はなんとも能天気である。それが現在の深刻な展示内容に凄まじいズレを生じさせたわけだが、むしろこの外観は事故前の雰囲気も伝えるという意味で保存されなければならないと思う。



《東京電力廃炉資料館》(旧エネルギー館)




《東京電力廃炉資料館》(旧エネルギー館)


2021年にオープンした富岡町震災伝承施設、《とみおかアーカイブ・ミュージアム》は、311の記憶だけでなく、富岡町文化交流センター(学びの森)の歴史民俗資料館のコンテンツを移管したことにより、濃密な内容になっている。外観は玄関のみに意匠を集中させているが、常設展示のデザインはお金をかけていた。また見学窓を備え、ガラス越しに収蔵庫や作業室を見せるエリアもある。企画展示室では、神戸大学の槻橋修らによる「記憶の街ワークショップ」の成果物として、失われた街の模型もどーんと設置されていた。



《とみおかアーカイブミュージアム》




《とみおかアーカイブミュージアム》


2023/01/07(土)(五十嵐太郎)

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