2021年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

山形のムカサリ絵馬

会期:2021/09/18~2021/12/12

天童織田の里歴史館[山形県]

山形においてムカサリ絵馬めぐりを行なう。ムカサリ絵馬とは、子供を失った親が、実現しなかった結婚式の絵を奉納する山形の風習であり、明治期から昭和にかけて興隆したものだ。靖国神社の遊就館では、特攻など、戦争で亡くなった息子のために制作された花嫁人形が数多く展示されているが、その絵画バージョンといえる。なお、花嫁人形は青森にある風習らしい。ともあれ、男女の結婚という制度を重視しているという点において、近代的な発想だろう。


永昌寺と久昌寺では、いずれも本堂の一角に掲げられていた。そして黒鳥観音と小松沢観音は、三方の内壁すべてをぎっしりと覆いつくす圧巻の風景だった。巡礼のお札も大量に貼られていたが、特に後者は天井面にもムカサリ絵馬が掲げられている。若松寺の絵馬堂には過去のものが収蔵・展示されている。


《黒鳥観音》



《小松沢観音》



《高松観音》



《若松寺》


地元の絵師によって描かれた絵の構図や内容は、ある程度様式化されているが、ひとつひとつの絵に子供を失った親の強い想いが託され、未来の花嫁/花婿が想像で加えられている。アーティストが表現として描く絵やインスタレーションではない。だが、結果的に絵とは何かを鋭く問いかける空間だった。

かつては戦没した子供のためのムカサリ絵馬が多かったが、いまも継続している場所はほとんどないようだ。若松寺は現在も受け付けており、関東や沖縄など、全国から奉納されている。また令和にもその数は増えている(時代を反映し、同性のカップルも確認できた)。ここでは下手でもいいから、家族が自ら絵を描くことを推奨しているという。もっとも、どうしても無理な場合、やはり絵師にお願いしているようだ。


ここから、天童織田の里歴史館の企画展に貸し出し中のムカサリ絵馬が2点あると知り、足を運ぶ。役所を復元した資料館の2階では、「天童の人々と信仰」展が開催されており、観音信仰、キリスト教の布教とともに、ムカサリ絵馬を紹介していた。そして東北芸術工科大学では、青山夢によるムカサリ絵馬に着想を得た絵画のシリーズと巨大なインスタレーションのプロジェクトを見学する。すなわち、現代美術にも影響を与えているのだ。


《天童織田の里歴史館》


天童の人々と信仰

会期:2021年9月18日(土)~12月12日(金)
会場:天童織田の里歴史館
(山形県天童市五日町2丁目4-8)

2021/09/24(金)(五十嵐太郎)

《秋田市文化創造館》、200年をたがやす、《秋田市立中央図書館明徳館》、ルーヴル美術館の銅版画展

会期:2021/07/01~2021/09/26

秋田市文化創造館[秋田県]

秋田県立美術館が2013年に移転新築し、解体が予定されていた旧県立美術館は、保存を望む市民の声によって、県から市に無償譲渡され、今年、秋田市文化創造館として再生した。2021年に開館した長野県立美術館の旧館は、同じ場所での建て替えなので、消えてしまったが、秋田市の旧館は新しい道を歩みはじめたのである。なお、秋田市と長野市の旧館は、いずれも日建設計が手がけ、1966年に竣工した建築であり、特徴的な屋根をもつ。



《秋田市文化創造館》



《秋田市文化創造館》


そのオープニングとして開催された服部浩之監修「200年をたがやす」の展示期間「みせる」では、生活、食、工芸など、秋田のさまざまな文化資産を掘り起こしつつ、空間設計に建築家の海法圭が入り、空間を自由に使う可能性を提示していた。かつて藤田嗣治の巨大な絵画「秋田の行事」が展示されていた壁には、同じサイズの鏡面を設置し、過去を想起させながらも現在の姿を写しだす。美術の分野で特に印象的だったのは、「農民彫刻家」として活動した皆川嘉左ヱ門である。大きく力強い木彫の作品は、吹き抜けの大空間においても圧倒的な存在感を維持していた。



皆川嘉左ヱ門の作品展示風景



1階のリサーチセンター



工芸の展示


秋田市文化創造館の横は、谷口吉生による美しい階段をもつ《秋田市立中央図書館明徳館》(1983)が建ち、また向かいでは、佐藤総合計画の設計による《あきた芸術劇場ミルハス》が建設中であり、この一帯が文化のエリアとして再編されている。


《秋田市立中央図書館明徳館》



《秋田市立中央図書館明徳館》


道路を挟んだ秋田県立美術館では、「ルーヴル美術館の銅版画展」を開催していた。あまり知られていないグラフィック・アート部門の銅版画のコレクションだが、ルイ14世の時代に始まり、現代作家のものも収集されているという。

ここでは藤田の「秋田の行事」のための展示空間が設けられているが、創造館における不在を示す鏡面を見てからはしごすると興味深い。なお、彼がこの絵を制作した当時の空間の模型に加え、常設展示するための美術館の図面が発見されたことにより、その建築模型も置かれていた。秋田県立大の研究室が制作したものだが、1938年に着工されたものの、戦争で中止になったという。驚かされたのは、そのデザインである、ガラス張りの鉄骨の屋根の展示空間だから、もし実現していれば、当時の日本としては画期的な美術館になったはずだ。

200年をたがやす / CULTIVATING SUCCESSIVE WISDOMS

会期:2021年7月1日(木)~9月26日(日)
会場:秋田市文化創造館
(秋田県秋田市千秋明徳町3-16)ほか

秋田県誕生150年記念 ルーヴル美術館の銅版画展

会期:2021年9月11日(土)~11月7日(日)
会場:秋田県立美術館
(秋田県秋田市中通1-4-2)

2021/09/22(水)(五十嵐太郎)

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石巻《マルホンまきあーとテラス》、アニメージュとジブリ展、《みやぎ東日本大震災津波伝承館》

会期:2021/06/19~2021/09/12

マルホンまきあーとテラス[宮城県]

今年、石巻にオープンした藤本壮介の設計による《マルホンまきあーとテラス》を訪れた。大小の家型が並ぶ、印象的なシルエットの内部に、博物館や大小のホールを備えた複合施設であり、実物は想像していたよりも大きい。とりわけ、壮観なのは、諸室の手前にどーんと展開する、街のストリートのような共有空間である。そのスケール感は、ヨーロッパの現代建築をほうふつさせるだろう。一方で什器、サイン、照明など、小さいスケールの遊びが共存しているのも興味深い。これは被災地における復興建築だが、新しいタイプの公共空間を提示している。



《マルホンまきあーとテラス》



《マルホンまきあーとテラス》



《マルホンまきあーとテラス》



《マルホンまきあーとテラス》



《マルホンまきあーとテラス》


同館における博物館のエリアはまだ整備中だったが、「アニメージュとジブリ展」の企画展は、平日にもかかわらず、さすがの大盛況だった。その内容は、1978年に徳間書店が創刊した月間の専門雑誌の内容を軸としながら、アニメの歴史をたどるものだが、「宇宙戦艦ヤマト」(劇場版、1977)でブームに火がつき、「機動戦士ガンダム」(1979年放映開始)を通じて、作品の内容だけでなく、制作者の側にも注目するようになり、やがて若手を発掘して、宮崎駿の連載「風の谷のナウシカ」や押井守のビデオアニメ「天使のたまご」(1985)、あるいは文庫など、メディアミックスによって独自の作品を世に送るまでを扱う。日本の現代建築が雑誌に育てられたように、日本におけるアニメの進化にとっても「アニメージュ」が重要な役割を果たしたことがうかがえる。もちろん、工夫を凝らした付録、表紙、関連するイベントなど、SNSがない時代におけるアニメのコミュニティやコミュニケーション史としても興味深い。

石巻では、南浜の津波復興祈念公園も立ち寄った。去年の夏はまだ造成中だったが、いまはきれいな公園である。《みやぎ東日本大震災津波伝承館》(2021)は、あいにくコロナ禍で閉館中だったが、円形のガラス建築なので、外からのぞくと、明らかに展示のヴォリュームが少ない。新聞報道によれば、当初、このプログラムは予定されておらず、途中で割り込んだことによって展示がおかしくなったという。ニューヨークの《9/11 MEMORIAL & MUSEUM》は、よくぞここまで徹底的に調べ、収集したという執念を、中国の《四川大地震博物館》(2009)は良くも悪くも国の強いイデオロギーを感じたが、最大級の災害なのに、南相馬の原子力災害伝承館など、日本の施設は中途半端さが気になる。



《石巻南浜津波復興祈念公園》



《みやぎ東日本大震災津波伝承館》


★──「石巻の津波伝承館、評判さんざん 監修者語る「盛大な失敗」の決定打」(朝日新聞、2021年9月6日付)https://www.asahi.com/articles/ASP9575SVP86UNHB00B.html


アニメージュとジブリ展 一冊の雑誌からジブリは始まった みやぎ石巻展

会期:2021年6月19日(土)~9月12日(日)
会場:マルホンまきあーとテラス
(宮城県石巻市開成1-8)
石巻マンガロード:https://www.mangaroad.jp/?page_id=3472

2021/09/08(水)(五十嵐太郎)

丹下健三 戦前からオリンピック・万博まで 1938〜1970

会期:2021/07/21~2021/10/10

文化庁国立近現代建築資料館[東京都]

今年、国の重要文化財に指定された国立代々木競技場。1964年東京オリンピックでは水泳とバスケットボール会場に使用され、東京2020オリンピック・パラリンピックではハンドボールと車いすラグビー、バドミントン会場に使用された。国立競技場は老朽化により建て直しを余儀なくされたが、国立代々木競技場は耐震改修工事などを経て、なお生きることとなった。この両者の運命の違いは、端的に言って、未来に残したい建築かどうかということだろう。もはや言うまでもなく、丹下健三の代表作のひとつである国立代々木競技場は、前例のない「高張力による吊り屋根方式」という構造を駆使した巴形の屋根が特徴である。意匠的にも技術的にももっとも優れた戦後モダニズム建築とされ、いまもその威光は衰えることがない。


国立屋内総合競技場(模型)1/600(1963)秩父宮記念スポーツ博物館蔵


本展はそんな丹下健三の前半生を回顧・検証する展覧会である。今年、東京でオリンピック・パラリンピックが行なわれ、4年後の2025年には大阪で再び万博が行なわれる。その流れは1964年東京オリンピックと1970年大阪万博が開催された高度経済成長期の焼き直しとも言われている。かつて双方で活躍したのが丹下健三であることを踏まえると、いま、彼を見直す良い機会なのかもしれない。

本展は6章からなり、「戦争と平和」から始まる。なぜなら丹下健三は「戦没者といかに向き合うか」を設計上の重要なテーマと見做していたからだ。これも丹下健三の代表作のひとつである広島平和記念公園および記念館の模型や図面、写真を大々的に展示し、戦争を生き延びた人々と戦争で亡くなった人々とを結びつける建築を模索し続けたことが紹介される。また次章の「近代と伝統」では、若かりし頃の丹下健三がル・コルビュジエに傾倒したことが伺える卒業設計「芸術の館」や、ピロティ形式の2階建て木造住宅「成城の自邸」などが紹介される。国立代々木競技場や大阪万博の基幹施設マスタープランは、言わば成熟期の仕事だ。それ以前に丹下健三が何を大切にして建築家を志し、どう模索したのかという部分に触れられたのは貴重な機会だった。おそらく戦中戦後を生きた建築家にしか、「戦没者といかに向き合うか」というテーマに至ることはできないだろう。そこに力強さがあるし、欧州の近代建築の要素を取り入れながらも日本の伝統建築の美を失わなかった所以のようにも思う。国立代々木競技場の圧倒的な美しさは、丹下健三をはじめ建設関係者たちの果敢な挑戦によって実現したものだ。それは戦後復興の象徴であるからこそ、尊く映る。


展示風景 文化庁国立近現代建築資料館


芸術の館(外観透視図)(1938)東京大学大学院工学系研究科建築学専攻蔵




公式サイト:https://tange2021.go.jp/ja/

2021/09/01(水)(杉江あこ)

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しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」、りんご宇宙 ─ Apple Cycle / Cosmic Seed

[青森県]

雪で建築が埋もれる冬に続けて《青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)》(2001)を訪れていたため、久しぶりに全体像がよく見える時期の訪問となった。そして学芸員の慶野結香から、先駆的なレンジデンス施設となった同館のとりくみを説明してもらう。ここも「中崎透×青森市所蔵作品展 シュプールを追いかけて」(2014)などのように、地域の博物館と連携し、収蔵品を借りながら、企画展をときどき開催しているという。ちょうど火と人をめぐる展覧会(しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」)を開催中のしまうちみかも、国際芸術センターの建設時に現場で発掘された縄文土器を会場の導入に用いている。そして大量の土を持ち込む展示や野焼きの焼成など、通常の美術館ではできない作品を展開しており、安藤忠雄が設計した湾曲する空間に対応するインスタレーションを試みていた。なお、ボランティア組織や隣接する公立大の学生が制作を手伝うケースもあるという(同館に向かうタクシーの運転手も)。また洗練された毎回の印刷物が印象的だった。その後、周辺の自然のなかに設置された野外作品を散策した。近年は新作がもう増えていないとはいえ、全部を見るのにはもっと時間が必要だった。なお、創作棟の設備を見学させてもらったが、かなり充実している。


しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」 展示風景



青木野枝の作品



創作棟


青森から弘前に移動し、《弘前れんが倉庫美術館》(2020)を再訪した。そして学芸員の石川達紘と小杉在良の両氏にヒアリングを行なう。しばらく放置されていた倉庫を美術館に転用するプロジェクトは、1990年代に一度挫折していたが、2000年代の奈良美智による倉庫を利用した展示プロジェクトが契機となって、美術館へのリノベーション計画が再起動した。なお、ショップが入る隣の棟は、民間が建設費を出している。

展示は、弘前にちなむ企画を行ない、ある意味でどストレートなタイトルの「りんご宇宙」展も、カッコよく仕上がっていた。見るからに(そして実際に)設営が大変なケリス・ウィン・エヴァンスによるネオン管を用いた作品ほか、和田礼治郎の大作など、さまざまな切り口からりんごをモチーフとした作品やリサーチが展示されていた。こうした企画展を継続し、その作品を収蔵することによって、将来は地域性が強いコレクションが形成されるだろう。


ケリス・ウィン・エヴァンス《....the Illuminating Gas》(2019)



和田礼治郎《VANITAS》(2017)



ジャン=ミシェル・オトニエル《エデンの結び目》(2020)



「りんご宇宙 ─ Apple Cycle / Cosmic Seed」 展リサーチ


しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」

会期:2021年7月31日(土)~9月12日(日)
会場:青森公立大学 国際芸術センター青森
(⻘森市⼤字合⼦沢字⼭崎152-6)

りんご宇宙 ─ Apple Cycle / Cosmic Seed

会期:2021年4月10日(土)~8月29日(日)
会場:弘前れんが倉庫美術館
(青森県弘前市吉野町2-1)

2021/08/28(土)(五十嵐太郎)

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