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開館15周年記念展 混沌と希望

2009年01月01日号

会期:2022/05/14(土)~2023/05/07(日)

中村キース・ヘリング美術館[山梨県]

開館15周年記念展。ここはキース・ヘリングのコレクションを毎年テーマごとに展示替えしているので、大半は見たことがある作品ばかり。それでも見にいくのは、緑あふれる環境とヘンテコな建築、そしてスタッフのすばらしいホスピタリティに触れることができるから。なによりありがたいのは、この日、新宿から送迎バスが出ていたこと。これがなければなかなか腰が上がらない。ところが今回、西新宿から高速に乗る予定が事故のため高井戸ICに変更、そこで大渋滞に巻き込まれて高速に乗るまでに2時間もかかってしまった。ようやく乗った高速ものろのろ運転で、しかも自然の欲求に勝てず府中あたりでいったん高速を降りて、コンビニでトイレ休憩。結局12時到着予定が、着いたのはもう15時近く。中村和男館長のトークには間に合わず、同館顧問の梁瀬薫さんの解説を聞きながら急いで会場を回り、ホテルキーフォレスト北杜の「パトリシア・フィールド アートコレクション展vol.3」を見て、コロナ禍で遠ざかっていた久々のレセプションパーティーでおいしい料理と酒を慌ただしくいただき、1時間遅らせた17時発のバスで帰京した次第。

ま、そんな話は置いといて、今回の「混沌と希望」だ。そもそも北川原温設計の美術館建築は、ロビー横の「闇へのスロープ」を降りて「闇の展示室」に入り、そこからスロープを上りながら「プラットフォーム」を抜けて、明るく広大な「希望の展示室」に出る仕掛け(その後、いちばん奥に「自由の展示室」を増設)。つまり観客は、暗いどん底にいったん降りてから徐々に明るい高所へと上っていく体験をするわけで、これは八ヶ岳の斜面を生かしたプランであると同時に、地下鉄のグラフィティに始まり、やがてアートシーンに浮上してスターになり、世界中の子供たちに希望を与えたキースの人生を象徴する設計でもあるのだ。そして開館初年度の展覧会が「混沌から希望へ」と題されていたのは、まさにキースの生きざまを示すもの。15周年を迎えた今回は、もういちど原点に戻って「混沌と希望」を再考する試みといえる。

「闇の展示室」では、自画像やシルクスクリーンの連作《アポカリプス(黙示録)》(1988)、死の直前に制作した金属製の祭壇画《オルターピース(キリストの生涯)》(1990)が飾られ、「プラットフォーム」では地下鉄構内の黒い紙に書いていた初期のサブウェイ・ドローイングを展示。「希望の展示室」では、デフォルメした人のかたちを組み合わせた彫刻や、記号化された人間が入り乱れる大作絵画が並び、「自由の展示室」では、ペニスの先から人間が飛び出る初公開の絵画《無題》(1984)をはじめ、彼自身の個展や反戦・反核・反エイズのためのポスターなどがずらっと並ぶ。出品点数約150点。キースが去って30年余り、彼の命を奪ったエイズの脅威は近年パンデミックとして甦り、彼が取り組んだ反戦・反核運動はロシアのウクライナ侵攻により危機にさらされている。この「混沌」の時代に彼が生きていたら(それでもまだ64歳)、どんな作品で「希望」を与えてくれただろうか、だれもがそう思わざるをえない。

2022/05/28(土)(村田真)

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