artscapeレビュー
堀内誠一──旅と絵本とデザインと
2011年08月01日号
会期:2011/04/23~2011/06/26
うらわ美術館[埼玉県]
『アンアン』『ポパイ』『ブルータス』などのエディトリアル・デザインを手掛けた堀内誠一(1932-1987)の多彩な仕事を、アートディレクター、絵本作家、旅行家という三つの側面から紹介する展覧会。2009年7月に世田谷文学館からスタートして各地を巡回し、今回うらわ美術館で2年間の旅を終えた。世田谷文学館を訪れたときは彼のデザインの仕事の幅の広さとヴォリュームとに圧倒されたが、今回は絵本作品に見られる多様な画風が印象に残った。多くの絵本作家は──少なくとも短期には──画風を変えないし、絵本の編集者も読者も作家独自のタッチを期待していることと思う。なぜ、堀内はかくも多彩な表現で絵本を制作したのであろうか。
絵本作家マーシャ・ブラウンは、作品ごとに画風を変える理由を問われて、「物語が違うから」と答えたという。木村帆乃氏は、この話を堀内もたびたび指摘していたとし、「この姿勢はそのまま堀内誠一自身にも当てはまるだろう」とする(木村帆乃「パロディの美学」[『堀内誠一 旅と絵本とデザインと』平凡社、2009、88頁])。もちろん、それは絵本作家としてのひとつの方法論なのかもしれないが、編集者の立場からすれば別の作家に頼むという選択肢もある。そう、「編集者・堀内誠一」が彼の仕事すべてに共通するキーワードなのだ。堀内は最初から多様な画風を目指していたのではない。しかし、「こんな絵が欲しいと思っても、なかなかぴったりした絵を描いてくれる人がいない。それならっていうんで自分で描くようになった」(堀内誠一『父の時代私の時代』、マガジンハウス、2007、163頁)のである。彼の画風が多様であるのは、絵本作家・堀内が編集者・堀内の依頼に応えた結果と言えないだろうか。
堀内の多彩な仕事の背景には、全体を俯瞰し、内容に合わせて最適な素材、人材の組み合わせを考える編集者としての視点がつねにあり、編集者としての堀内の要求に、デザイナーとしての堀内、絵本作家としての堀内、紀行作家としての堀内が応えていく構図が見える。そのようにしてでき上がった作品は、一つひとつを比べてみるとその違いに目が行くものの、全体を通してみると間違いなく堀内誠一の仕事である。「どんな仕事でも、その注文に合わせながら、どこか自分の分も表現しているんだろうってのが僕のやり方だったのかもしれませんね」(同、163頁)という言葉に、多様な表現の背景にある堀内の一貫した精神が見て取れるのである。[新川徳彦]
2011/06/16(木)(SYNK)