2018年10月15日号
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artscapeレビュー

フィンランドのくらしとデザイン──ムーミンが住む森の生活

2012年10月01日号

会期:2012.09.01~2012.10.08

静岡市美術館[静岡県]

スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、アイスランドのいわゆる北欧諸国のデザインは、戦後共同して戦略的に売り出されたこともあり、各国の独自性よりも共通性をもって語られることが多い。『世界デザイン史』(美術出版社、1994)ではその共通性を「ヨーロッパ中央部の早くから高度に工業化した大量生産の国々と違って、伝統的な民族の手工芸を重んじ、あたたかい人間味のある、豊かな自然の恩恵によるクラフト的な製品を生産してきている」と解説する(149頁)。こうした共通項を生み出しているのは、気候や地理的条件と、バルト海を中心とする商業的な繋がりであろう。他方で当然のことながら各国には独自の歴史がある。北欧諸国のデザインのなかに違いを見出そうとするならば、それぞれの歴史を振り返る必要がある。
 「森と湖の国」と呼ばれるフィンランドは、1155年から1809年まではスウェーデンの、1809年から1917年まではロシアの支配下にあり、独立国家としての歴史はまだ100年に満たない。スウェーデンから分離したあと、19世紀のフィンランドでは国家のアイデンティティを求める動きが盛んになり、そうしたなかで見出されたのが民族叙事詩といわれる『カレワラ』である。医師エリアス・リョンロート(1802-1884)がフィンランド各地を巡って蒐集した神話や詩歌、民話で構成される『カレワラ』が19世紀半ばに出版されると、画家や建築家、作曲家たちがこれを題材に多くの作品を生み出した。フィンランドのデザインを主題とするこの展覧会が19世紀にまで遡り、デザインばかりではなくアートや建築まで紹介しているのは、フィンランドの芸術やデザインの背景には地理的条件によって生み出された生活スタイルと同時に、民族的アイデンティティが存在することを示そうという試みゆえである。ただ戦後のフィンランドデザインが世界に受け入れられた理由は、国家のアイデンティティからは理解しづらく、外側から見たフィンランドデザインという視点も欲しいところである。
 展示は国民的画家といわれるガレン=カレラ(1865-1931)らが描いたフィンランドの風景からはじまり、『カレワラ』の世界とそれに着想を得た芸術作品が紹介される。会場中央にはトーベ・ヤンソンとムーミンのコーナーがあり、カレワラとフィンランドの生活との関係を示す。戦後のデザインとしては、アルヴァ・アアルト、カイ・フランク、マリメッコ社が生み出した食器や家具、照明器具、テキスタイルデザインが展示される。フィンランドの戦後デザインに特徴的なことは、半世紀も前のデザインが改良されながらもつくられ続けている点にあろう。もともとの企業は合併吸収されて現存しなくても、ブランドやデザインがそのまま継承されている例が多い。こうしたブランドのあり方には私たちも学ぶ点が多くあると思う。オリジナルデザインと現行品とを対比した展示も興味深く、また会場にはアアルトがデザインした照明器具が実際に用いられ、座り心地を試すことができる椅子も置かれている。展覧会の案内役も務めるムーミンの集客効果もあろうが、デザインをタイトルに冠した展覧会にもかかわらず、年配の方から若い家族連れまで、世代を超えた多くの人々が訪れていた点はフィンランドデザインの普遍的な人気を物語っているようで、とても印象的であった。
本展は長崎県美術館(2012/10/19~12/24)、兵庫県立美術館(2013/1/10~3/10)に巡回する。[新川徳彦]

2012/09/16(金)(SYNK)

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