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東京オリンピック1964 デザインプロジェクト

2013年04月01日号

会期:2013/02/13~2013/05/26

東京国立近代美術館[東京都]

亀倉雄策が手がけた東京オリンピックのシンボルマークや公式ポスターは多くの人が知っているだろう。オリンピックの寄付金付切手を覚えている人も多いに違いない。原弘がデザインした入場券も有名である。バッジやワッペンは河野鷹思のデザインである。こうした東京オリンピックに関わるデザインが断片的に紹介されることはこれまでにもあった。しかし、本展覧会のように多様なグラフィックが一堂に会する機会はなかなかないのではないか。
 本展はオリンピックとデザインの関わりを、準備・実施・記録の三つの段階に分け、デザインによる問題解決のプロセスを丁寧に紹介する。「第I章 東京オリンピックの準備」では、シンボルマーク案や決定案の版下、第2号から第4号までのポスターに用いられた写真のポジフィルムが見所であろう。また、募金活動に関わる記念切手やシール、記念たばこのパッケージは、人々のオリンピックに対する関心を高めるためにデザインが重要な役割をはたしたことを示している。「第II章 東京オリンピックの開幕」は、聖火リレーのトーチや入場券、競技や施設を表わすピクトグラムなど、オリンピックの会場で活躍したデザインのみならず、オリンピックと同時に都内の美術館・博物館で開催された「芸術展示」のポスターやチケットも出品されている。「第II章 東京オリンピックの記録」では、映画『東京オリンピック』の映像やポスター、記念グッズが取り上げられている。
 東京オリンピックのデザインがその後に与えた影響はいくつか挙げることができる。ひとつは、シンボルマークの制定である。「僕の功績はシンボルマークをデザインしたことではない。作ろうと提案したことだ」と亀倉雄策が語った通り、それまでの大会では五輪マークはあるものの、大会独自のシンボルはなかった。もうひとつは、ピクトグラムである。世界中の人々が集う場には、特定の言語に依存しないコミュニケーション手段が必要となる。それが具体化されたのが東京オリンピックのピクトグラムである。そしてもうひとつ挙げられるのは、チームワークによるデザインである。シンボルマークをデザインし、ポスターのディレクションを担当したのは亀倉雄策である。そのほかのデザインも、関わった人々は皆その後の活躍で名前を知られるデザイナーばかりである。個々のデザインワークを拾い上げれば、担当したデザイナーの名前がわかるものもある。しかし、実際には東京オリンピックのデザインは、勝見勝をトップに置いたチームワークによる成果であり、誰が何をデザインしたのかよりも、何がどのようにデザインされたのかが、より重要な視点であろう。図録に収録されたデザイン関係者の証言に加え、野地秩嘉『TOKYOオリンピック物語』(小学館、2011)を読むとその実像がよく理解できよう。1964年の国家的イベントにおいてデザインが成し遂げた成功は、1970年の大阪万博、1972年の札幌オリンピックへと引き継がれてゆくのである。[新川徳彦]

2013/03/24(日)(SYNK)

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