artscapeレビュー
ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展──パリの夢 モラヴィアの祈り
2013年05月01日号
会期:2013/03/09~2013/05/19
森アーツセンターギャラリー[東京都]
日本でミュシャの回顧展が最初に開催されたのは1978年だという。それ以来、数多くのミュシャ展が開かれてきた。今年は森アーツセンターギャラリーから始まるこの巡回展のほか、美術館「えき」KYOTOからは、チェコのチマル・コレクションの巡回展が始まっている。また堺市立文化館アルフォンス・ミュシャ館ではミュシャのデザイン集である『装飾資料集』の全図版が公開されている。
サラ・ベルナールの公演のためのポスター《ジスモンダ》(1895)以来描かれたアール・ヌーボー様式のポスター、グラフィックを欠かしてはミュシャの人気はあり得ないだろう。しかし、近年は彼が描き続けていた油彩画や、祖国チェコに帰国してからの作品を紹介し、その祖国愛に満ちた人間像を描き出す試みが行なわれるようになってきた。チマル・コレクションの展覧会タイトル「知られざるミュシャ展」にも、本展のキャッチコピー「あなたが知らない本当のミュシャ」にも、そのような背景が現われている。展示は六つの章に分かれている。第1章は、ミュシャのチェコ人としてのアイデンティティを自画像や家族の肖像画から探る。第2章は、良く知られたサラ・ベルナールのポスターを中心とした仕事。第3章は、アール・ヌーボー様式の広告など。第4章は装飾パネル画。第5章は、1900年のパリ万博前後の作品。オーストリア政府の依頼でボスニア=ヘルツェゴヴィナ館の内装を担当したことによってスラブ民族のおかれた複雑な政治状況を再認識した時代にあたる。そして第6章は、《スラブ叙事詩》への道。ここでは、パリを離れて祖国に戻ったミュシャの思想をたどる。
良く知られたポスターはもちろん、ポスターや装飾画の下絵、《スラブ叙事詩》の習作、そして30点にのぼる油彩画が出品されている。また、友人たちや作品のためにポーズをとるモデルを写した写真もあり、思想から制作のプロセスまで、ミュシャの作品と人間を包括的に知ることができる展覧会である。[新川徳彦]
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2013/04/23(火)(SYNK)