artscapeレビュー

Aokid city vol.4: cosmic scale

2014年08月01日号

会期:2014/07/26

SHIBAURA HOUSE[東京都]

1年前の前作公演でも思ったのだが、「Aokid city」は〈劇場のフォーマット〉では表現することの難しい上演だ。Aokid(青木直介)が作・演出・出演する「Aokid city」は、ある環境に観客が入り込んだという設定で展開する。今回、タイトルにあるようにその場は宇宙。でも、リアルというよりファンタジックな空間で、サメの巨大な背びれが床を走ったり、そうかと思えば、トマトパスタが振る舞われたり、宇宙を表現するのに観客一人一人が構成体になってポーズを決めさせられたりと、ここにはあれこれの出来事が詰め込まれている。Aokidのダンスはヒップホップが基になっている。まるで路上で練習している状態そのままに(実際、そんな映像もありつつ)、ダンサーとシンガーらは円陣を組みながら、時折こちらに顔を向けて、歌いかけ、踊りかける。これを黒い壁に囲まれた劇場という場で上演しても息苦しくなるだけだろう、そんなことをずっと思っていた。前回同様、会場はSHIBAURA HOUSE。ここは壁の二面がガラス張りで、天井が高く、都会で室内なのに開放感があって、野外フェスのような気分になれる。フジロックで見たらさぞかし気分が良いだろう。ストーリーはほとんどなく、伝わってくるのはパフォーマー側が観客と「愛」や「情熱」を交換したいというシンプルな思い。こういうものも〈劇場のフォーマット〉に置いたら、ちぐはぐな感じになるだろう。最後のほうで、入場の際に観客の腕に貼った小さな丸形の絵(星)を客席を回って回収し、ダンサーたちはその星を黒いシートに貼り直して宙に掲げた。観客の星が散らばる宇宙。こういう素朴にも感じられるアイディアをベタに推し進めてでもその場を成立させてしまうのはAokidの真骨頂。Aokidには芸術と評すに値する方法がないなどと言い切るよりも、既存の枠からはみ出してしまう彼のような表現を愛し続ける方法をぼくらが持っているかどうかのほうが重要なのかもしれない。

2014/07/26(土)(木村覚)

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