artscapeレビュー

新国立競技場白紙撤回

2015年08月15日号

安保が強行採決された直後、ザハ・ハディドによる新国立競技場のデザインの白紙撤回が発表された。コンペをしたプロジェクトのキャンセルはめずらしくないが、建設自体の中止でないにもかかわらず、ここまで図面を描き、着工直前まできて、つぶれた事例はまれだろう。その際、一方的に建築家とデザインが悪者にされたのは、きわめて残念である。本当は過剰なスペックとプログラムを押し込んだ発注者側の考え方を改めないと、根本的な問題解決にならない。ともあれ、数十年経って、後から日本の歴史を振り返ったとき、2015年はどう記述されるだろうか。近代的な法の概念が壊れ、「我が軍」の経費は増強する一方、大学の人文系は役立たないと切り捨てられる。建築も、90年代以降、バブル崩壊、2つの震災など、大きな事件はあったけれど、今回の決定はその後の展開によってはかなり大きなダメージを受けるかもしれない。愛知万博でも、当初、隈研吾・竹山聖・團紀彦らが共同で会場計画に関わっていたが、分断された挙句、最後は全員が外された。大阪万博と比べて、建築とアートの後退ぶりは凄まじかったが、2020年の東京オリンピックでも国家プロジェクトにおける「建築」の困難さが繰り返されている。もっとも、どれくらいのレベルで白紙撤回をするのかが実ははっきりしていない。

2015/07/17(金)(五十嵐太郎)

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