artscapeレビュー

片桐飛鳥「光と今──Photon Superposition」

2019年01月15日号

会期:2019/01/19~2019/02/23

KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY[東京都]

片桐飛鳥はこれまで一貫して「光」をテーマとした写真作品を制作・発表してきた。1998年に開始された「Light Navigation」のシリーズは、レンズを介さずに、「光」を直接フィルムに定着した抽象化の極みといえそうな作品だが、2009年頃からより幅広く「光」にかかわる現象を被写体にするようになった。今回東京・西麻布のKANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYで展示された「21_34」シリーズ(7点)もその一環であり、夏の夜空に打ち上げられる花火を撮影している。

とはいえ、よく目にする「花火写真」とは完全に一線を画しており、片桐の関心が、花火そのものの色やフォルムではなく、それらが表出する、より普遍的な「光」のあり方に向けられているのは明らかである。千変万化する光のパターンは、むしろ日常世界から隔絶した数式の図示化のようにも見えてくる。また、タイトルの「21_34」というのは、フィボナッチ数(どの項もその直前の二つの項の和になっている数式)に基づくものであり、それに合わせて今回のプリントは21インチ×34インチの大きさに引き伸ばされているのだという。いかにも片桐らしい厳密な思考の産物なのだが、花火のパターンそのものは、むしろエモーショナルとさえ言えそうな、感覚的な美しさを保っている。

片桐は、今後も写真を媒介としてさまざまな「光」の現象にこだわり続けていくはずだ。そのなかで、どんな認識や思考が導き出されてくるのかが楽しみだ。

2019/01/23(水)(飯沢耕太郎)

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