artscapeレビュー

笠間悠貴「Invisibly Yours」

2023年09月15日号

会期:2023/07/29~2023/08/27

Kanzan Gallery[東京都]

笠間悠貴は1980年生まれ、大阪出身。現在は明治大学大学院理工学研究科で学びながら、写真家としての活動を続けている。同時にphotographers’ galleryでの写真展の企画に関わり、東京綜合写真専門学校で講師を務めるなど、写真行為を知的な営みとして探求し続けている。今回のKanzan Galleryでの個展(キュレーション:菊田樹子)では、2016年から2023年にかけてヒマラヤ、アンデスなどの高山で撮影された11点の風景写真(うち4点はモノクローム)」が展示されていた。

普段の暮らしのなかで、風=大気の運動を意識することはほとんどない。だが、標高5000メートルを超える高地の、空と山だけからなるシンプルな空間では、風を直接的に感じとることができる。笠間は、山肌を吹き上がる上昇気流によって雲が生じ、それらが流動的に姿を変えていく様を大判カメラで精密に写しとっていく。そのことによって風という不可視(Invisible)の存在を浮かび上がらせ、見る者にくっきりとした視覚的イメージとして提示するというのが、笠間の本作でのもくろみといえるだろう。

その意図は、適確なカメラワークとプリントワークによって、とてもよく実現していた。あえて「ゆらぎのある被写体を避け」余分なものが写り込まない「森林限界を超えた場所で撮影する」ことで、笠間の高山での経験がより純粋化して伝わるように配慮されている。このやり方は、風だけではなく、他の「気象」現象にも適用できるのではないだろうか。さらに広がりのある作品へと展開していくことを期待したいものだ。


公式サイト:http://www.kanzan-g.jp/yuki_kasama.html

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