artscapeレビュー

小平雅尋「videre videor Ⅱ」

2023年09月15日号

会期:2023/07/15~2023/08/12

amanaTIGP[東京都]

このところ、小平雅尋の旺盛な作家活動には目を見張るものがある。写真集『同じ時間に同じ場所で度々彼を見かけた』(シンメトリー、2020)、『杉浦荘A号室』(同、2023)では、スナップ写真の要素を取り入れつつ日常の事物に目を向けた。だが今回のamanaTIGPでの展示では、写真を撮影することで出現してくる「われ(コギト)」のあり方を考察するという、哲学的な営みに真っ向から取り組んでいる。とはいえ、堅苦しい印象はまったくなく、被写体の選択、撮影、プリントのプロセスを楽しみつつ、最終的に見事なクオリティに仕上げていく手業の冴えを充分に堪能することができた。

長辺1メートルという大判プリントに引き伸ばされた11点の作品のテーマは、多岐にわたっている。海景、岩、廃墟となった建物、砂浜の足跡などの写真群のなかで、特に目につくのは、眼、乳首、手などの体の一部をクローズアップで、あるいはやや距離を置いて撮影したものである。このような生々しい被写体を選ぶことは、以前の小平には考えられなかった。「見る」ことに徹して、「われ」と対象物とを完全に弁別して撮影することが多かったのだが、『杉浦荘A号室』のあたりから、彼自身や被写体の身体性を強く感じさせる写真が多くなってきているように感じる。そのことで、画面の強度とダイナミズムもより増してきており、大判プリントであることの必然性を納得することができた。写真行為を哲学的に捉えなおそうとする彼の営みは、さらにこの先にまで届いていきそうだ。


公式サイト:https://www.takaishiigallery.com/jp/archives/30174/

関連レビュー

小平雅尋『杉浦荘A号室』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2023年02月15日号)
小平雅尋『同じ時間に同じ場所で度々彼を見かけた/I OFTEN SAW HIM AT THE SAME TIME IN THE SAME PLACE』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2020年12月15日号)

2023/07/26(水)(飯沢耕太郎)

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