artscapeレビュー
中村 趫「メランコリアの楽園」
2011年04月15日号
会期:2011/03/19~2011/04/09
parabolica-bis[東京都]
中村 は1970年代にサイケデリック・ロックバンドに参加し、その後写真家に転身したという変わり種。フェティッシュな美意識に裏打ちされた、装飾過剰のゴシック・ロマン風のイメージに徹底してこだわり続ける姿勢も、日本ではかなり珍しい。主に『夜想』や『TH(トーキングヘッズ)』などの耽美系の雑誌で作品を発表してきたが、今回の東京・浅草橋parabolica-bisでの個展は、彼の作品世界の全貌を見渡すことができる貴重な機会となった。
1Fと2Fの3つの部屋を使って「interference 」「ruinous flowers」「elysian fields」の3部作が展示されていた。異形の人物たちの畸形的なポートレート「ruinous flowers」、寺島真理が監督した映画『アリスが落ちた穴の中』(中村が写真と照明デザインを担当)のスチル写真として制作された「elysian fields」もなかなか見応えがあったが、なんといっても圧巻なのはこれまでの彼の作品の集大成というべき「interference」のパートである。人体、物質、風景が有機的に絡みあい、全体に湿り気を帯びたイメージのタピストリーを織り上げている。その眺めは、たしかに日常世界の秩序から逸脱するものだが、どこか懐かしい見世物小屋を思わせるところもある。甲斐庄楠音とヤン・シュヴァンクマイエルを合体させたような幻想空間の強度の高まりを、しっかりと確認することができた。
なお、1Fのショー・ウィンドーには人形作家の清水真理とコラボレーションした作品が展示してあるのだが、そこに津波の写真が大きく使われていた。彼のイマジネーションを触媒として、何か予感のようなものがひらめいたのだろうか。
2011/03/23(水)(飯沢耕太郎)