2018年10月15日号
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artscapeレビュー

2014年02月01日号のレビュー/プレビュー

北澤憲昭『美術のポリティクス──「工芸」の成り立ちを焦点として』

発行日:2013年7月25日
発行所:ゆまに書房
価格:1,800円(税別)
サイズ:19 x 13 x 2cm、198ページ


美術の「政治/政治学」と書名にある通り、〈文化の政治学〉を視角として、近代日本における芸術ジャンルの形成・成立とそこに存在したヒエラルキーをめぐる思索が展開された書。同書は北澤が述べるように、自身の「工芸論の決定版」という構想のもと構成された。第1章「『美術』の形成と諸ジャンルの成り立ち」は『境界の美術史』(2000)から、第2章「美術とナショナリズム/ナショナリズムの美術」と第3章「工芸とアヴァンギャルド」も既刊テキストからの再出である。明治期のウィーン万国博覧会を契機として、「美術」という言葉が日本にもたらされる。以来、当初は諸芸術を意味していたものが視覚芸術(なかでも絵画)に限定されていく経過が、「工芸」等の類語の概念と形成、美術制度の検討を絡めて記されている。旧来の「美術」概念を現代的視野から問い直す、工芸・デザインを学ぶ人には必読の書。[竹内有子]

2013/01/11(土)(SYNK)

家庭遺産

会期:2013/12/07~2013/12/28

静岡市クリエーター支援センター(CCC)2Fギャラリー[静岡県]

「家庭遺産」とは、どんな家庭にもある、家族の思い出が詰まった宝物のこと。捨てるに捨てられないまま、いつのまにか歴史的遺物のように保存してしまっているものと言えば、誰もが思い当たる節があるはずだ。そんな家庭遺産の数々を、漫画家の天久聖一の呼びかけによって全国から集め、一挙に展示したのが本展である。
限界ぎりぎりまで削り取られた鉛筆のコレクションや、ロゴを母が縫い合わせたナイキの(ような)手袋、オードリー・ヘップバーンの直筆サイン、ボーイ・ジョージの描き方などなど。一見するとどこにどんな価値があるのかわかりにくいが、作品と併せて掲示された応募者による解説文を読むと、一つひとつの作品にはそれぞれエピソードが随伴していることがわかる。
《サザエさんの新聞切り抜き》は、文字どおり切り抜いたサザエさんの4コマ漫画をホッチキスでまとめたもの。これらは、40年以上前に社宅の子どもたちのなかでボス的存在だった応募者の姉が、ある日突然朝のラジオ体操を始め、ラジオ体操が終わると子どもたちに配っていたものだという。ある種の「褒美」として与えられていたのか、それとも「貨幣」のように流通していたのか。家庭遺産の背後からそれぞれの物語が立ち上がってくるのだ。
なかでも傑出していたのが、《父の足跡》である。展示されたのは、ピカピカの床についた足跡を写しただけの、いかにも凡庸な写真。だが、これは4年前に亡くなった応募者の父親が生前にかけたワックスの上に残した足跡だという。決して見えるわけではないせにせよ、掃除に熱を入れる父親の姿が目に浮かぶ。応募者である娘の無精のおかげで、これが奇蹟的に現存しているという対比も面白い。
たしかに家庭遺産はおおむね個人的であり、普遍的な価値が認められにくいものも多い。けれども、それらが私たちの想像力を刺激しながら、それぞれの「家庭」というフレームを超えて私たちのもとに届いていることは事実である。個人的な表現に普遍的な価値を与えてきた近代芸術が隘路に陥ったとすれば、家庭遺産はその白紙還元から新たな芸術を探り出す画期的な試みとして評価できると思う。その萌芽は、美術館や画廊にではなく、あまつさえアーティストの手のなかにですらなく、私たち自身のそれぞれの家庭のなかに眠っているのかもしれない。

2013/12/27(金)(福住廉)

大阪府20世紀美術コレクション 上前智祐 展─時を刻む─点描・マッチ・縫い・版画

会期:2014/01/09~2014/01/25

大阪府立江之子島文化芸術創造センター[大阪府]

大阪府が所蔵する上前智祐の作品から、各年代の油彩画と立体36点、版画23点を展覧。また、彼が所属していた具体美術協会の、吉原治良、嶋本昭三、元永定正、松谷武判、今井祝雄の作品も同時に展示された。上前の作品は、初期の点描画、その後のオガクズやマッチ棒を塗り固めた作品、後期の針と糸による縫いの作品など、時期により素材と手法が異なる。しかし、緻密な作業の積み重ね、膨大な時間の集積という点では一貫しており、さらに後期になればなるほどアール・ブリュット的無為の境地に達する。本展は、決して大規模ではないが、上前の世界を過不足なく知ることができる見応えある展覧会だった。大阪府はほかにも優れた美術作品を所蔵しているが、自前の美術館を持たないので十分な展覧会が行なわれていない。展覧会活動の活発化を望む。

2014/01/09(木)(小吹隆文)

野井成正 作品集出版記念作品展「あそびごころ」

会期:2014/01/08~2014/01/19

iTohen[大阪府]

大阪を拠点に、長年にわたり空間デザインの仕事を行なってきた野井成正。彼の作品集出版を記念した本展では、大量のドローイングを中心に彼の仕事の一端を垣間見ることができた。展覧会を見るまでは、設計のエッセンスを示したラフや抽象的なもの、あるいは図面が多いのではないかと予想していたが、実際には俯瞰のアングルでディテールまで具体的に描かれたスケッチが多く、素人でも完成形を容易に想像できる丁寧な仕事ばかりだった。それだけにどの作品も情報量が多く、観覧には思いのほか時間がかかったが、会場の小ささがよい方向に作用したのだろう。凝縮感のある個展に仕上がっていた。

2014/01/09(木)(小吹隆文)

ターナー展

会期:2014/01/11~2014/04/06

神戸市立博物館[兵庫県]

英国を代表する風景画の巨匠ターナー。その名は知っていたが、日本国内で彼の作品を見る機会は乏しく、それだけに本展には大きな期待を抱いていた。いざ会場に出かけると、壮大な情景を描いた油彩画の大作が数多くあり、これまで小品や水彩画しか見たことがなかった筆者は驚くばかり。晩年の作品のなかには時代を100年近く先取りした抽象画や、当時の画家とは明らかに画風が異なる作品もある。抽象画の多くは未完成品らしいが、仔細に眺めると意図的に描いたと思しきものもあり、ターナーと20世紀美術の関係に好奇心が刺激された。こういうとき、美術史を体系的に学んでいない自分を残念に思う。いつか自習の時間を持ちたいと思う。

2014/01/10(金)(小吹隆文)

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