artscapeレビュー

ハイバイ『て』

2009年11月1日号

会期:2009/09/25~2009/10/12

東京芸術劇場小ホール1[東京都]

認知症の祖母が死ぬ。その出来事を軸に、精神的かつ肉体的な暴力を家族に与え続けた父親とその父に苦しめられ続けた家族(二人の息子、二人の娘、母)、それぞれの心の事情が描写されてゆく。
死がテーマの芝居を最近よく見るなあ。父というテーマもよく見るなあ。いまアゴラ劇場周辺の〈小さな物語を扱う演劇〉では、しばしば小さなグループのあり方が描かれる。すると、家族の関係とくにその中心となる(はずの)父親がどんな存在であるかが、重要なテーマとなることが多い。父の不在、父の非不在、いろいろなパターンがある、けれどもそれらは一貫して中心をめぐる演劇であり、その意味で『ゴドーを待ちながら』以後の演劇と言ってもいいのかも知れない。珍しく家族が全員集まった。その宴の場で井上陽水を歌う父のなんとも言えないイヤーな感じは、絶妙だった。全員の心を傷つけなおも居座る父の内に中心がない。なのにいばる、ふて腐る、ひょうひょうとしている。こんな父が描ける岩井秀人の力量に圧倒させられた。

2009/10/05(月)(木村覚)

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