2018年12月01日号
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artscapeレビュー

今井智己「遠近」

2011年06月15日号

会期:2011/05/10~2011/05/21

Broiler Space[東京都]

東京・下高井戸で榎本千賀子、小松浩子によって運営されてきたギャラリーBroiler Space。最寄り駅が京王線の桜上水という微妙な立地条件もあって、なかなか足を運べずにいたら、いつのまにか一年間という当初から予告されていた期限が迫ってきていた。次回の金村修展で活動終了というぎりぎりの時期に、なんとか間に合ったのはよかった。どこか養鶏場を思わせる細長い2階建ての建物は、たしかに写真展の会場としてユニークな造りだった。
今井智己の展示は1Fに新作7点、2Fには昨年刊行された写真集『A TREE OF NIGHT』(MATCH and Company)のシリーズから抜粋された作品が並んでいる。大判カメラによる新作は風景、室内の場面が混在しているが、全体にどこか張りつめた緊張感が感じられる。入口近くの作品の遠景に福島第一原子力発電所が写っていると聞いて納得するものがあった。水面とも地面ともつかない薄緑の苔(海藻?)に覆われた場所に、木片やペットボトルが散乱している写真も、見方によっては津波の後の光景に見えなくもない。今井のような、一般的な「報道写真」から距離を置いている写真家が、「震災後の写真」にきちんと目を向けているのはとてもいいことだと思う。
2Fの展示もよかった。白い紙に刻印された点字のクローズアップ(トルーマン・カポーティの短編集『夜の樹』だそうだ)と、街のスナップの組み合わせである。盲人以外には「読めない」点字が付されると、「読めそうな」風景やオブジェも謎めいたものに見えてしまうのが面白い、こちらは今井には珍しく小型カメラによる撮影なので、偶発的な出会いのひらめきがより強調されている。新境地といえるのではないだろうか。

2011/05/13(金)(飯沢耕太郎)

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