2018年10月15日号
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artscapeレビュー

Chim↑Pom展「広島!!!!!」

2014年01月15日号

会期:2013/12/08~2013/12/17

旧日本銀行広島支店[広島県]

2008年に広島の上空に飛行機雲で「ピカッ」と描き、予定されていた美術館での展覧会の中止を余儀なくされたChim↑Pomが、ついに念願をかなえた。銀行の支店だった会場に、《ヒロシマの空をピカッとさせる》のほか、《リアル千羽鶴》や《Red Card》《気合100連発》《Black of Death》《Super Rat》など、新旧の代表的な作品を網羅的に展示した。広島市民からの支援や援助を受けながら、あの社会騒動にきっちり「落とし前」をつけた意義は大きい。
展示の主要なモチーフとなっていたのは、言うまでもなく広島の原爆と福島の原発の連続性である。展示された作品は、vacantでの「広島!」(2009)や原爆の図丸木美術館での「Level7 feat.広島!!!!」(2011)、岡本太郎記念館での「PAVILION」(2013)と同じものが多かったが、本展では「核」のテーマ性がいつにも増して強力に伝わってきた。それは、おそらく会場の旧日本銀行広島支店が被爆した建造物であり、内部に残された傷跡が当時の破壊的暴力をありありと想像させるからだろう。だが、むろん建築的要因だけに由来しているわけではない。
《平和の日》は、原爆の残り火である「平和の火」によって描写される絵画シリーズ。制作過程を記録した映像作品を見ると、それらが広島平和記念資料館から伸びる直線上にある公園で着火されたことがわかる。よく知られているように、丹下健三は広島平和記念資料館と原爆死没者慰霊碑を原爆ドームと直線で結ぶかたちで設計した。原爆ドームより北に位置する広島県立総合体育館の大屋根の向きがこの直線に沿っているように、戦後の広島はこの直線をもとに復興したと言われている。Chim↑Pomはこの直線を炎でなぞりつつ、直線を受け止めるように《平和の日》を横に立ち並べた。
平和都市・広島を貫く直線。そのはじまりにある広島平和記念資料館が横長のフォルムであることを思い起こすと、Chim↑Pomの《平和の日》はそれと対称性の関係に置かれているように見えた。正確には測定しえないが、あるいはその対称軸は原爆ドームを中心点にして折り返されていたのかもしれない。つまり、想像的に俯瞰してみるとアルファベットの“I”という形になるように、原爆ドームから広島平和記念資料館へ至る直線を、ちょうど正反対の方向に引き伸ばしたのではないか。いずれにせよ都市の構造を正確に読み取ったうえで、過去から未来へ伸びていく時間軸を更新した手並みは、例えば渋谷駅に設置された岡本太郎の壁画《明日の神話》に《LEVEL7 feat.明日の神話》を付け足したように、近年のChim↑Pomの大きな特徴と言えよう。
だがその一方で、一抹の不安を覚えないでもない。それは、展示された作品にボルタンスキーや蔡國強といった先行するアーティストたちの匂いが強く立ち込めていたからだけではない。Chim↑Pomの初期衝動は、非合法のグラフィティや突発的なパフォーマンスのように、都市の論理を撹乱する側にあったはずだが、今回の《平和の日》は、ややもすると都市の既存の論理に回収されかねないからだ。あの「ピカッ」や大空を乱舞するカラスの大群が私たちの眼を鮮やかに奪ったのは、それらが都市を構成する直線や対称性という人為的な秩序を大きく揺るがしたからではなかったか。おびただしい炎を使用しているとはいえ、《平和の日》は広島の平和都市に寄り添いすぎるあまり、Chim↑Pomならではの「刺激」が、直線と対称性に吸収されてしまっているように思えてならないのである。
広島の原爆と福島の原発を接続する「核」を表現する道のりを歩むのであれば、広島が戦後社会のなかで育んできた「平和都市」という人為的な構成物と、いずれどこかの時点で抵触せざるをえないのではないか。

2013/12/13(金)(福住廉)

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