artscapeレビュー

林勇気「times」

2018年12月15日号

会期:2018/11/17~2018/12/01

ギャラリーほそかわ[大阪府]

自身で撮影した、あるいはインターネット上で収集した膨大な量の画像を切り貼りしたアニメーション映像を制作し、記憶(の断片化)、デジタル画像の共有と流通、消費について、時に宇宙の誕生から消滅を思わせる壮大な映像世界で言及してきた林勇気。近年は、プロジェクターや再生機の存在自体を作品に取り込む、デジタルデータとしての映像をピクセルの数値に還元するなど、映像メディアの成立条件に対して自己言及する作品に取り組んでいる。



林勇気「times」 ギャラリーほそかわでの展示風景 [撮影:麥生田兵吾]

本展もこの流れに位置するものであり、同時期にFLAG studioで開催された個展「遠くを見る方法と平行する時間の流れ」とともに、「デジタルデータのアーカイブ」に焦点が当てられている。作品の素材として用いられたのは、2005年にYouTubeに初めて投稿された動画「Me at the zoo」である。YouTubeの創設者の1人が投稿した、わずか19秒の映像であり、動物園の象の前でコメントする映像だ。だが林は、この映像をピクセルに分割し、それぞれの色情報を3桁×3段の数字で数値化し、視認不可能な膨大な数値が目まぐるしく移り変わる、暗号の波のような映像に変換して映し出した。また、数値化されたデータは、紙、石、金属という伝統的な記録媒体に刻印された形でも提示された。デジタルデータはどのように保存され、未来へと継承可能なのか。ここには、「ポストメディウム」というよりは、メディウムなき非実体的なデータとなって憑依し続ける状況が差し出されている。さらには、「私たちは何を見ているのか?」という知覚論的な問いも横たわっていた。



林勇気「times」 ギャラリーほそかわでの展示風景 [撮影:麥生田兵吾]

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2018/12/01(土)(高嶋慈)

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