artscapeレビュー

ゴッホと静物画 伝統から革新へ

2023年11月01日号

会期:2023/10/17~2024/01/21

SOMPO美術館[東京都]

アーツ前橋の「ニューホライズン」のサブタイトルが「歴史から未来へ」。「ゴッホと静物画」のサブタイトルが「伝統から革新へ」。ぜんぜん違う展覧会だけど、サブタイトルを入れ替えても気がつかないんじゃない? つまりだれでも思いつきそうなサブタイトルだってこと。それにもまして凡庸なのが「ゴッホと静物画」というそのまんまのタイトル。しかも絵画のジャンルのなかでもっとも地位が低く、人気も薄い「静物画」だし。それでもある程度動員が見込まれるのは「ゴッホ」のネームバリューのおかげだろう。

展覧会はタイトルのごとく明快で、タイトルから想像するよりはるかにおもしろかった。展示は「伝統」「花の静物画」「革新」の3章立てだが、出品作品をざっくり分けると、17世紀オランダの静物画、19世紀の静物画、印象派の静物画、ゴッホの静物画、それ以降となっていて、見事に18世紀が抜けている。そもそも静物画は16世紀ごろから描かれ始め、絵画の黄金時代といわれた17世紀のオランダで1ジャンルとして独立。19世紀の(印象派以前の)静物画を見ると、17世紀からほとんど進歩していないことがわかり、18世紀が抜けているのもうなずける。静物画が大きく変わるのは印象派以降だが、その先駆がドラクロワであったことは出品作の《花瓶の花》(1833)を見れば納得。原色を用いたスケッチのような素早いタッチの描写は、印象派誕生の40年も前に描かれたものだが、すでに印象派のお手本を示しているからだ。

ゴッホの静物画を見ていくと、初期のころは17世紀の静物画より暗かったが、パリに出て印象派に出会うやパッと明るくなり、やがて「ひまわり」の連作を手がけるようになる。ここではもちろん同館所蔵の《ひまわり》(c. 1888-1889)がドーンと展覧会の中心を占め、隣にファン・ゴッホ美術館から借りた《アイリス》(1890)を従えている。つまり17世紀オランダに始まる静物画は、19世紀の印象派によって大きく様変わりし、ゴッホの《ひまわり》によって大輪の花を咲かせたというストーリーが完結するのだ。

以後しばらくひまわりをモチーフにした作品が続く。おっ? と思ったのは、イサーク・イスラエルスの《「ひまわり」の横で本を読む女性》(1915-1920)。ゴッホの《ひまわり》が画中画として描かれているのだが、これはゴッホの死後、弟テオの未亡人ヨハンナから《ひまわり》を借りて制作したそうだ。当時は気軽に貸していたんだね。もうひとつ興味深いのは、フレデリック・ウィリアム・フロホーク、ケイト・ヘイラー、ジョージ・ダンロップ・レスリーといった日本ではほとんど知られていないイギリスの唯美主義の画家たちが、ジャポニスムよろしく日本風の花瓶に挿したひまわりを描いていること。日本と「ひまわり」との関係を示唆しているようだ。

余談だが、ヨーロッパの美術館所蔵のゴッホ作品はおおむね額縁がシンプル(とりわけクレラー・ミュラー美術館の額縁は色彩も形態も統一されている)なのに、SOMPOの《ひまわり》だけがゴージャスな装飾の額縁に入っていて、ちょっと恥ずかしいぜ。


ゴッホと静物画 伝統から革新へ:https://gogh2023.exhn.jp

2023/10/16(月)(内覧会)(村田真)

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