artscapeレビュー

吉岡徳仁 FLAME ガラスのトーチとモニュメント

2023年11月01日号

会期:2023/09/14~2023/11/05

21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3[東京都]

去る10月7日の夕刻、21_21 DESIGN SIGHTへ足を運んだ。同施設屋外に設置された、「炎のモニュメント─ガラスの炬火台」への点灯を観るためだ。日が暮れた頃、イベントが始まり、これをデザインした吉岡徳仁がガラスのトーチを持って登場。ランプからトーチへ火が移され、吉岡がその炎を観衆に掲げてみせる。そしてトーチをガラスの炬火台の中央のくぼみにおもむろに近づけると、さらに大きな炎が勢いよく上がった──。それはとても不思議な光景に映った。透明ガラスでできた炬火台は、奥の景色が透けて見え、輪郭はあるものの、その存在自体が儚げだ。その上に大きな炎が高々と揺れているのである。六本木の秋夜に突如現われた、その幻想的な光景にしばらく見入ってしまった。


特別イベント点灯風景 21_21 DESIGN SIGHT屋外


ミラノサローネをはじめ、さまざまな華やかなデザインの舞台で活躍してきた吉岡は、近年、東京2020オリンピックの聖火リレートーチをデザインしたことで知られる。日本の国花である桜をモチーフにしたというトーチは、口の先端が桜の花びらにかたどられた、柔らかで情緒的なデザインだった。実はそのトーチをデザインしている際に、もうひとつ並行してあったアイデアがガラスのトーチと聖火台だったという。タイミング良く、2024年に佐賀県で「SAGA2024国スポ・全障スポ」(旧・国体)が開催されるのに合わせ、実現化が進んだ。通常、ガラスは高温にさらされると、その急激な温度変化によって割れる。炎を灯しても割れないガラスを製作するため、数年を費やして、ガラスの成分をはじめ、トーチや炬火台の構造などを検証し、実験を何度も繰り返したという。そのトーチの製造過程における形状変化を示したサンプルがギャラリー3に展示されている。さらに炎をトルネード状に燃え上がらせるため、周囲の曲面ガラス板の立て方までデザインしたというから感嘆する。そうした驚きや感動を人々に届けるという点で、吉岡はデザインを越えてアートの領域で表現を行なえるデザイナーだとつくづく思う。


展示風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3[Photo: Masaru Furuya]


ちなみに「SAGA2024国スポ・全障スポ」は、「国民体育大会」が「国民スポーツ大会」へと名称を変える第1回目である。当初、佐賀県出身である私のパートナーもアドバイザーとして関わっていたことがあるため、数年前から密かに注目していた大会だった。同じく佐賀県出身の吉岡がそのセレモニーのためのトーチと炬火台をデザインしたとは! この個展で経緯を知り、ますます同大会の開催が楽しみになった。


特別イベント点火風景 21_21 DESIGN SIGHT屋外[Photo: Masaru Furuya]



吉岡徳仁 FLAME ガラスのトーチとモニュメント:https://www.2121designsight.jp/gallery3/tokujin_yoshioka_flame/

2023/10/07(土)(杉江あこ)

artscapeレビュー /relation/e_00067279.json l 10188415

2023年11月01日号の
artscapeレビュー