artscapeレビュー

オリンピック公園と郊外のリノベーション

2023年11月01日号

[オーストラリア、シドニー]

2000年に開催されたシドニー・オリンピックの会場を見るために、郊外に出かけた。まず軽やかな鉄骨のアーチ天井をもつ《オリンピックパーク駅》(1998)に到着し、光が差し込む地下レベルのプラットホームから地上に上がると、目の前にオリンピック公園が広がる。土曜日ということもあり、サッカーや水泳などのスポーツ、イベント、恐竜の展覧会を楽しむ大勢の人で賑わっていた。オリンピックから20年以上経ても、十分に使われているのを見ると、市民にとってちゃんと都市のレガシーとして親しまれているのだろう。なお、ロシア構成主義風の小さい構築物が点在する風景は、パリのラ・ヴィレット公園を想起させる。ブライ・ロブが設計した《メイン・スタジアム》(1999)は、巨大なアーチによって湾曲した屋根を吊り、見る角度によって大きく形が変わるのが興味深い。オリンピックのときにあった南北に飛び出すウィング席を外すなどして、3万席を減らし、現在は8万席に改修されている。


《オリンピックパーク駅》(1998)


ブライ・ロブが設計した《メイン・スタジアム》(1999)


オリンピック公園の案内図


広大なエリアにおいて、フィリップ・コックスによる《シドニー国際水泳センター》(1994)など、各種の運動施設が点在し、コンピュータを設計に用いた有機的な造形かつカラフルなトイレのシリーズ(1999)がつくられていた。やはり、テンション構造の施設が多く、スポーツにふさわしい躍動感にあふれるが、個人的には小ぶりながら、《ホッケー・センター》(1998)のデザインが気に入った。また王立農業協会のロイヤル・イースター・ショーのために建設された《エキビジョン・センター》(1997)は、木を構造材に用いた高さ42メートルの大きなドーム空間が直方体のホール群と直結する。さらに北端では、モエレ沼公園のような緑のピラミッドがあり、豊かなランドスケープが展開していた。もっとも、さすがに広すぎて、かつてオリンピック村だった集合住宅のエリアまでは足を運ぶことができなかった。


《シドニー国際水泳センター》(1994)


ニール・ダーバックほかによる、トイレのシリーズ《オリンピック・アメニティ・ビルディング》(1999)


《ホッケー・センター》(1998)


北端のランドスケープと緑のピラミッド


一時的な祝祭であるオリンピックの施設を、その後にどう活用するかは重要な問題である。都心に戻る途中、二つのリノベーションのプロジェクトに立ち寄った。ひとつは使わなくなったサイロを集合住宅に組み込んだ《ニュータウン・サイロス》である。鉄道車両の工場をファーマーズ・マーケットや展覧会の施設に転用した《キャリッジワークス》は、コンクリートのボリュームを挿入した巨大な空間だった。


《キャリッジワークス》


2023/10/07(土)(五十嵐太郎)

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