artscapeレビュー

対照 佐内正史の写真

2009年11月15日号

会期:2009/10/10~2010/01/11

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

佐内正史が持ち直しているのがわかって、とりあえずほっとした。昨年から立ち上げたネット販売の写真集レーベル「対照」の最初の3冊、『浮浪』『DUST』『trouble in mind』があまりにもひどい出来だったので、これはもう佐内の神通力も失せたのではないかと、内心見限っていたのだ。
ところが、今回の岡本太郎美術館の展示(大きなテーブルの上にプリントを並べるアイディアがすごくよかった)を見る限り、近作の『ARCA』『彩宴』『EVA NOS』『フラワーロードの世界』では、いかにも佐内らしい、スキップしつつ、リズミカルに被写体に弾を撃ち込んでいくような感覚がよみがえってきている。これはつまり、佐内の写真のあり方が、彼自身の精神的、身体的なバイオリズムを忠実に反映していることのあらわれだろう。要するに、彼のアンテナがちょっとでも錆びついてくると、てきめんに写真のボルテージが落ちてくるのだ。「自分」以外に写真を撮り続ける基準を持たない写真家の強みと弱みが、そこにははっきりとあらわれている。その不安定感が、佐内の写真の持ち味でもあるのだが、もう少しなんとかならないかとも思ってしまう。自己完結することなく、他者や社会とも風通しよく繋がっていくようなシステムを写真に導入することができれば、彼は「この時代」を体現し、代表するいい写真家になると思うのだが、それができないのがなんとももどかしい。このままでは、センスのいいインディーズ・バンドで終わってしまうだろう。それでいいのだろうか。

2009/10/29(木)(飯沢耕太郎)

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