artscapeレビュー

2009年11月15日号のレビュー/プレビュー

野島康三──肖像の核心 展

会期:2009/09/29~2009/11/15

渋谷区立松濤美術館[東京都]

京都で見逃した野島康三展を東京で見ることができるのはありがたい。といっても、展示の内容は少し違っていて、今回はポートレートを中心に野島の作品世界を浮かび上がらせようとしている。ただ、未公開作も含めて肖像やヌード以外の作品も充実しており、「生誕120年」記念にふさわしい堂々たる回顧展である。
あらためて感じたのは、写真作家としての真摯な、それこそ肩を怒らせて生真面目に表現の深みを追求しようとする野島とは別に、資産家の息子に生まれ、お金にも気持ちにも余裕がある、「ディレッタント」としての野島がいたということだ。野外で撮影されたピクニックのスナップ、「すいやう会」と称される野島邸でのパーティの記念写真などを見ると、彼が生活や社交を心から楽しみつつ日々を送っていたことがよくわかる。そういうブルジョワ紳士としての野島と、彼のあの激しく力強い肖像やヌードとの落差もまた、興味深い謎といえるのではないだろうか。同時に刊行された『野島康三 作品と資料集』(渋谷区立松濤美術館)は、戦前・戦後の書簡、文章などを網羅した労作。今後の野島研究の進展に大いに貢献するだろう。

2009/10/01(木)(飯沢耕太郎)

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ZAIMフェスタ・フィナーレ

会期:2009/10/02~2009/10/12

ZAIM本館[神奈川県]

2010年3月までに退去しなくてはならない共同スタジオZAIM。……の最後を飾るフェスティバル。……のわりにショボイのは、あいかわらず予算がないのはともかくとして、いつも使っていた別館と本館地下が安全管理上の問題で使えなくなったことが大きい。そのため本館ではギャラリーに加え、玄関、ビルの外周でも作品を展示し、各部屋でもオープンスタジオが行なわれた。……はずなのだが、みんな忙しいのでクローズドのところが多かったため、ふだんとあまり変わりないのであった。そんななかでも健闘していたのが、ビルの下のアスファルトから巨大な手をニュッと突き出した今井紀彰の彫刻(?)と、別館の窓にカラーシートを貼って外からながめる竹本真紀のインスタレーションだ。

2009/10/02(金)(村田真)

神戸ビエンナーレ2009

会期:2009/10/03~2009/11/23

メリケンパークなど神戸市内各所[兵庫県]

今回で2回目の「神戸ビエンナーレ」。メリケンパークでは輸送用コンテナを展示空間にしたコンペ受賞作品を展示。数あるそのなかでも、牛島光太郎のインスタレーション《window》は面白かった。コンテナの内部は、狭い路地にある“よその家”の玄関前の雰囲気。設置された玄関の扉、窓の向こうに灯る照明を背にして薄暗い通路で、タペストリーに刺繍された4つの長いストーリーを読むのだが、できればそっと足早に立ち去りたいイメージの空間では、どうにもそわそわする気分を禁じ得ない。しかし、この居心地の悪さがかえって作品の魅力だ。不思議なストーリー(でも面白い)とともにインパクトを引きずる。今回のビエンナーレはまた「海上アート展」がユニーク。メリケンパークと兵庫県立美術館のあるHAT神戸を結び運行する船に乗ると、航路の途中の防波堤や突堤に設置された塚脇淳、榎忠、植松圭二らの立体作品を船内から鑑賞できる。船の窓越しに突如現われるような作品に興奮するのだが、近づいたと思えば徐々に遠ざかっていくのがもどかしい。作品自体はゆっくり鑑賞というわけにはいかないのだが、しかし海辺の街や山の風景、風の感触などを同時に楽しめるのも神戸ならでは。あいにく雨だったのでできればもう一度乗りたい。

2009/10/02(金)(酒井千穂)

神戸ビエンナーレ招待作家展:LINK──しなやかな逸脱

会期:2009/10/03~2009/11/23

兵庫県立美術館[兵庫県]

神戸ビエンナーレの会場のひとつ、兵庫県立美術館。神戸や関西という独特の芸術環境に注目し、アートを巡るさまざまなつながりを見つめるというテーマで藤本由紀夫、國府理、笠木絵津子、島袋道浩、植松琢磨、山村幸則など、12名の招待作家の展覧会を開催。絵画、彫刻、インスタレーション、写真と、出展作家の世代も作品も幅広いが、展示数も多く思った以上に規模が大きい。特に見応えあるのは、児玉靖枝の《深韻》の連作、岸本吉弘の作品などが展示された絵画の空間。ぜひもう一度見に行きたい。

2009/10/02(金)(酒井千穂)

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Calling 木藤純子 展

会期:2009/09/19~2009/10/18

みのかも文化の森 美濃加茂市民ミュージアム[岐阜県]

木藤純子の個展。半年以上の期間をかけて現地へ通い滞在制作した作品を発表。白熱電球がぼんやりと灯る薄暗い展示室では、展示台の片隅でふわりと木の葉が舞い上がるインスタレーションや、円柱の中に入ると葉が舞い散る光景のような光の残像が浮かび上がる大型の作品、エントランスホールにはグラスの底に青空が見える小さな作品が隠れていた。まずどこに作品があるのか探さなければならないのだが、その存在だけでなく、密やかな変化があちこちにちりばめられた会場は、雑木林で鳥の鳴き声に耳をすましたり、生きものの気配を感じるときのような、気づく喜びをもたらすものだった。晩には特別にミュージアムのシンボルであるタワーに森の映像が投影され、敷地内の「まゆの家」で地域の伝統的な月見のしつらいとともに作品が展示された。グイっと気持ちを持っていかれたのは、訪れた人々が仲秋の名月を楽しむ「まゆの家」の庭の隅に月見草が植えられていたこと。鑑賞者それぞれがいろいろな風景を見つける観月会、今展のどれよりも彼女らしい作品に思えた。見に行けてよかった。

2009/10/03(土)(酒井千穂)

2009年11月15日号の
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