artscapeレビュー

小沢さかえ 個展「亜熱帯劇場」

2010年06月15日号

会期:2010/04/23~2010/05/29

MORI YU GALLERY TOKYO[東京都]

小沢さかえの東京での個展。1カ月の会期にすっかり油断してしまい、結局夜行バスで最終日に滑り込んだ。入口に展示されたコラージュの作品も含め、大小の作品19点が展示された会場。展覧会のタイトルと同名の《亜熱帯劇場》をはじめ3点の作品に描かれた鮮やかな色彩のトラが、個々の作品世界をつなぎ空間全体の雰囲気をまとめるような存在感だ。妖しげでしなやかな姿が美しいトラと草木の生い茂る光景は、「亜熱帯」特有の蒸し暑さというよりも、ジャングルの木陰やそこに吹いてくる風の心地よさを想起させる。展示作品にはそれぞれ独立したテーマやストーリーがあるようだが、描かれたイメージへと見る者を誘っていくそれぞれのタイトルもまたおもしろい。個人的には舞台の上のマジシャン(?)を描いた《イリュージョン》がとても好きだ。触れることのできない映像かなにかのように全体が霞むイメージ。今回は抽象に近い作品も少しあったが、いずれにしろ、色彩とさまざまな筆致の重なりやリズムが言葉のイメージと結びつく。ぎりぎりだったが見ることができて良かった。

2010/05/29(土)(酒井千穂)

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