artscapeレビュー

蜷川実花「ニナガワ・バロック/エクストリーム」

2010年06月15日号

会期:2010/04/28~2010/05/30

NADiff A/P/A/R/T[東京都]

昨年は篠山紀信をフィーチャーしたNADiff A/P/A/R/T(恵比寿)の「春の全館イベント」。今年は蜷川実花が大暴れしている。上海で撮影した映像作品上映(4F MAGIC ROOM??)のほか、「沢尻エリカ×蜷川実花」(3F Special Gallery)、「FLOWER ADDICT」(2F G/P gallery)、「蜷川上海」(2F NADiff gallery/ 2Fニエフ)、「TOKYO UNDERWORLD」(B1F NADiff gallery)といった展覧会がが開催され、�檳では蜷川の写真集を中心としたブックフェアも行なわれるという盛り沢山の企画である。ゴールデン・ウィークの連休中ということもあって、店内には蜷川ファンの若い女性客があふれていた。2009~10年の全国巡回展「地上の花、天上の色」ではのべ18万人を動員したというが、やはりいま一番観客を動かす力がある写真家といえそうだ。
旧作も多く、全体的にはやや散漫な印象だったのだが、その中ではNADiff galleryの「TOKYO UNDERWORLD」が、キャッチコピーの「写真家・蜷川実花の、野心・欲望・新世界」に最もふさわしい面白い展示だった。ヌードあり、ギャルサーあり、極彩色の衣裳を身に着けたニュー・ハーフありのポートレート作品だが、以前にも増して毒々しさ、あくの強さが際立っている。このような歪みのある、悪趣味な作品群を「バロック」と称するのは、とても当を得ているのではないだろうか。いまはまだ詰めの甘さが目立って、あらゆる観客を巻き込んでいく強度にまでは達していないが、このチープ感とゴージャス感とがせめぎあう「バロック」趣味をさらに徹底して、時代の閉塞感を吹き飛ばしてもらいたいものだ。

2010/05/05(水)(飯沢耕太郎)

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