2018年11月01日号
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artscapeレビュー

2010年06月15日号のレビュー/プレビュー

長谷川等伯

会期:2010/04/10~2010/05/09

京都国立博物館[京都府]

「信春」を名乗っていた時代の精緻な描写の仏画から、京都上洛後、「等伯」となってから晩年までの代表作をほぼ網羅した没後400年の大規模回顧展。入館の待ち時間と館内の混雑を思うと億劫で、もたもたしている間に後期展示が始まり、慌てて出かけた。本展の調査過程で発見され、信春時代の現存唯一とされる金碧画《花鳥図屏風》も話題になっていたが、やはりそれよりも国宝の《松に秋草図屏風》や《楓図壁貼付》がすごい。壮麗な色彩と装飾的なモチーフ、構図のバランスなどさまざまな要素に目を奪われる。そして水墨画の数々、《枯木猿猴図》の猿のいきいきとした描線、なによりも《松林図屏風》の佇まい。空気や光の表現の圧倒的な感動。じつに同一人物なのかと驚くほどイメージが異なる「信春」と「等伯」の画風の変遷を、その背景の解説とともに紹介する会場は、どの展示作品の前も人集り。なので襖にしろ屏風にしろ全体を見ることは叶わず、とてもじっくり鑑賞するという状況ではなかったのが残念だが、それでも100分待ちの看板に怯まず並んだ甲斐はあった。

2010/04/28(水)(酒井千穂)

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京芸Transmit Program#1 「きょう・せい」展第二期

会期:2010/05/01~2010/05/30

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

京都市立芸術大学のギャラリーのオープニング企画、第二期。芦田尚美、今村遼佑、岡田真希人、西上翔平、東明、藤井良子、前川紘士、水田寛、芳木麻里絵ら9名の作品を紹介する。会場は、混とんとしたイメージの第一期展とは異なる作家ごとの個別展示。映像インスタレーション、陶芸、染織、絵画など、作品形態はさまざまだが、素材や技法にも注目したい作家が多く、奇異をてらわないシンプルな展示はとても良かった。この日は『ジャパンタイムズ』学芸部記者イーデン・コーキル氏をゲストに招いたアーティスト・トークも開催。コーキル氏からは、日本のアートシーンを海外に発信する立場から見た京都と東京の違いや、伝統や歴史的文化といった、表現の背景にあるその土地独自の文脈、それを伝える難しさなどが語られた。さらに興味深かったのはカンボジアやラオスなどアジアの国々の美術と教育を例に挙げての、伝統技術と芸大の教育のあり方とその現状、実際のアートマーケットと作家自身の関係性へのアプローチ。議論に発展するほどには至らなかったが、伝統産業や工芸との関わりの深い京都で、表現活動に関わる者にとってはたいへん有意義な内容だったと思う。

2010/05/02(日)(酒井千穂)

オープンキャンパス

会期:2010/05/03~2010/05/05

京都芸術センター[京都府]

センター開設10周年記念事業の一貫として開催された特別イベント。日頃、館内の制作室で創作活動に取り組んでいるアーティストが制作現場や稽古風景を公開するオープンスタジオをはじめ、ゲスト・アーティストによるワークショップ、パフォーマンス、コンサート、レクチャーなど、期間中、「時間割」にあわせてさまざまな催しが行なわれた。センター玄関前のアプローチには、美術作家のみやじけいこや瓜生祐子もメンバーであるケータリングチーム「イクラ食堂」のピロシキスタンドも登場。派手ではないが、いつもとは違う町内のお祭りのような雰囲気が漂っていた。各プログラムの合間に、太鼓や鉦を鳴らしながら「ちんどん通信社」が練り歩いていたり、講堂からガムランの演奏が聞こえてきたり、会場のあちこちから次々と楽しそうな声や音が響いてくるので、ついつい私も長居してしまう。小さな子どもから老人まで、じつにさまざまな年齢層の人たちが訪れ、アーティストや同センターのスタッフと和気あいあいとおしゃべりする場面を館のあちこちで目にした。アートの情報発信地であるとともにコミュニティとして馴染みある場所となっているセンターの10年の活動のひとつの結実を見せてもらった気分。

2010/05/04(火),05/05(水)(酒井千穂)

蜷川実花「ニナガワ・バロック/エクストリーム」

会期:2010/04/28~2010/05/30

NADiff A/P/A/R/T[東京都]

昨年は篠山紀信をフィーチャーしたNADiff A/P/A/R/T(恵比寿)の「春の全館イベント」。今年は蜷川実花が大暴れしている。上海で撮影した映像作品上映(4F MAGIC ROOM??)のほか、「沢尻エリカ×蜷川実花」(3F Special Gallery)、「FLOWER ADDICT」(2F G/P gallery)、「蜷川上海」(2F NADiff gallery/ 2Fニエフ)、「TOKYO UNDERWORLD」(B1F NADiff gallery)といった展覧会がが開催され、�檳では蜷川の写真集を中心としたブックフェアも行なわれるという盛り沢山の企画である。ゴールデン・ウィークの連休中ということもあって、店内には蜷川ファンの若い女性客があふれていた。2009~10年の全国巡回展「地上の花、天上の色」ではのべ18万人を動員したというが、やはりいま一番観客を動かす力がある写真家といえそうだ。
旧作も多く、全体的にはやや散漫な印象だったのだが、その中ではNADiff galleryの「TOKYO UNDERWORLD」が、キャッチコピーの「写真家・蜷川実花の、野心・欲望・新世界」に最もふさわしい面白い展示だった。ヌードあり、ギャルサーあり、極彩色の衣裳を身に着けたニュー・ハーフありのポートレート作品だが、以前にも増して毒々しさ、あくの強さが際立っている。このような歪みのある、悪趣味な作品群を「バロック」と称するのは、とても当を得ているのではないだろうか。いまはまだ詰めの甘さが目立って、あらゆる観客を巻き込んでいく強度にまでは達していないが、このチープ感とゴージャス感とがせめぎあう「バロック」趣味をさらに徹底して、時代の閉塞感を吹き飛ばしてもらいたいものだ。

2010/05/05(水)(飯沢耕太郎)

鷹野隆大「それでも、ワールドカップ」

会期:2010/05/03~?

東塔堂[東京都]

展覧会を見て帰ったら、鷹野隆大から以下のメールが来ていた。
「せっかくお越し頂いたのに、鳥カゴのような小部屋の展示ですいません。僕は子供の頃、ミシンの下を囲ってそこで過ごすのが好きだったので(笑)、そのときのことを思い出しながら、この小部屋でくつろいでもらえたらいいなあと思ってあんな風にしてみたのですが、普通は落ち着かないですよね。」
たしかに、美術、建築関係の書籍を主に扱う古書店の一角を、「鳥カゴ」のように囲った小さな部屋に、カラーコピーを綴じ合わせた写真が無造作にピンナップされ、映像作品を流すTVモニターが置かれている展示は、あまり落着きはよくない。また、写真に写っているのは中東やアジアの国を含む世界各地の街頭のスナップで、直接「ワールドカップ」に関係する画像というわけではない。だが、サッカーというゲームが世界中の人々をひとつの地平に結びつけるツールとして機能している以上、どこを撮ってもあぶり出しのように「ワールドカップ的なるもの」が浮かび上がってくるともいえる。そのあたりの政治性を孕んだ構造が、チープなコピーの束から浮かび上がってくるのが逆に面白かった。
映像作品もとても楽しませていただいた。「ある日のワールドカップ」(2005年)という48分25秒のモノクローム作品だが、ワールドカップの最終予選の試合とおぼしき日本対某国の試合を、鷹野が一喜一憂しながら見続けるという構成である。カメラのセッティングの位置の関係で、TVの画面は直接見えないので、観客は鷹野の身振りや視線の動きだけで試合の経過を想像するのだが、これが実に面白い。僕は日本チームの現状にかなりの絶望感を抱いている。鷹野もおそらくそうだろう。そのあたりのファン心理を含めて、観客としてしか試合に関われない者のジレンマが見事に表現されている。あまりにも身につまされ過ぎて、思わず笑ってしまった。

2010/05/05(水)(飯沢耕太郎)

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