artscapeレビュー
前衛下着道─鴨居洋子とその時代
2010年08月01日号
会期:2010/04/17~2010/07/04
川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]
下着デザイナー、鴨居洋子(1925-1991)の展覧会。実用的だが美しくはないメリヤス下着から、実用的であり美しくもあるナイロン製の下着へ。本展は鴨居によって革新された下着を中心に、彼女が描いた絵画、岡本太郎によって撮影された下着ショウの写真や細江英公によって撮影された鴨居の人形《大人のおもちゃ》の写真、下着ショウの舞台美術を手掛けたことのある具体美術協会の《具体美術まつり》の記録映像や鴨居みずから監督した映画『女は下着でつくられる』、劇団唐ゼミによって再構成された舞台装置などが一挙に発表され、盛りだくさんの内容でたいへん見応えがあった。なかでも、際立っていたのが犬や猫など動物と自分を描いた油絵。鴨居と動物の強い結びつきを如実に物語っているが、陰鬱で寂寥感にあふれた画面からは、「死」のイメージとともに、鴨居の厭世的な気分が強く伝わってくる。だが、それは鴨居が動物を擬人化した世界の女王として君臨するというより、むしろ動物の世界に救済を求めて動物に寄り添う心理的な弱さを表わしているような気がした。そうした「弱さ」が、時代の先端を力強く切り開いてきた鴨居の前衛精神のなかに同居していたことがおもしろい。
2010/06/30(水)(福住廉)