artscapeレビュー

2015年03月01日号のレビュー/プレビュー

梅原育子展 SEIBUTSU

会期:2015/01/20~2015/02/01

ギャラリーマロニエ[京都府]

梅原育子の作品といえば、有機的なフォルムと、野焼き特有の焼けムラや煤け具合が特徴の陶オブジェだ。ところが本展では、《SEIBUTSU》と題した器型の新シリーズを発表。器としての実用性は低そうだが、形態は美しく、作品がずらりと並ぶさまはそれこそ静物画のようだ。今後彼女が実用器の制作に乗り出すか否かは不明だが、筆者自身はオブジェと器を並行して制作することに賛成である。芸術と工芸のいい所取りができるのは陶芸の特権なのだから。

2015/01/24(土)(小吹隆文)

京都・島原で少年の冒険心

会期:2015/01/20~2015/02/06

BAMI gallery/COMBINE[京都府]

京都の繁華街である四条河原町の近所(寺町通高辻上ル)で活動していたBAMI gallery/COMBINEが、かつて花街だった島原に移転。築70年以上という古い木造の長屋建築をリフォームした空間で、新たな活動を始めた。本展は活動再開を記念した顔見世的グループ展であり、取り扱い作家8名の作品をずらりと並べている。展示に特段の特徴はないが、本展の場合、見どころは画廊空間そのものである。工事は専門業者でなければ不可能な部分以外は画廊主と作家たちで行なっており、DIY的な手作り感が濃厚。その素朴さがかえって好ましい。2階には作家用の制作スペースも設けられており、画廊と作家がこれまで以上に深い関係性を持って互いの仕事を遂行していこうとする決意が感じられた。画廊と作家たちの今後の活躍が大いに楽しみだ。

2015/01/27(火)(小吹隆文)

生誕100年 小山田二郎

会期:2014/11/08~2015/02/22

府中市美術館[東京都]

小山田二郎(1914-1991)の回顧展。160点あまりの油彩画と水彩画が、時系列に沿って展示された。
小山田をめぐる言説といえば、下唇が腫れ上がった顔面の異形や家族を置いて失踪した波乱に満ちた私生活などに焦点を当てられがちだったが、今回の展観で再確認させられたのは、そうした副次的な情報に手を伸ばすことより、小山田の絵画の力強さをこそ、まず語らなければならないという自明のことだった。
とりわけ50年代に描かれた作品は圧倒的である。生涯のテーマともいえる《鳥女》をはじめ、《ピエタ》《愛》《はりつけ》など、いずれもシンプルな構図と乏しい色彩で描かれているにもかかわらず、見る者の心を鷲掴みにしてやまない。それは、描かれた怪物的なモチーフがおどろおどろしいからだけではない。そのような迫力ある異形が、ある種の貧しさのなかから生み出されていることが、十分に理解できるからだ。
その貧しさとは、むろん小山田の貧窮した暮らしぶりを意味するわけではなく、絵画のうえでの貧しさを指している。画面の表面に視線を走らせると、思いのほか薄塗りであることに驚かされる。要所要所で厚塗りのポイントがないわけではないとはいえ、全体的には非常に薄いのだ。絵画全体が重厚感を醸し出しているだけに、この薄塗りはひときわ強い印象を残す。
しかも、小山田の絵画に特徴的なのが、表面に加えられた無数のスクラッチである。その傷跡は、背景にある場合もあるし、図像の輪郭線をかき消す場合もある。いずれにせよ、そうすることで画面全体の激情性を著しく高めていることは明らかだ。小山田は、量的には乏しい絵の具でも、それをあえて削り取ることによって、逆に質的な豊かさを絵画の中に現出させたのだ。
60年代以後、小山田は色彩をふんだんに取り入れた作品に展開していくが、瑞々しい色彩が目を奪うことは事実だとしても、形態の力強さや緊張感はむしろ後退してしまったように見える。
研ぎ澄まされた形態は色彩に頼ることができなかったという貧しい条件と裏腹だったのであり、だからこそ色彩の多用は形態の弱体化をもたらしてしまったのである。
必要以上に絵の具を盛りつけがちな昨今の若いアーティストは、小山田から学ぶことが少なくないのではないか。

2015/01/27(火)(福住廉)

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石川竜一 okinawan portraits

会期:2015/01/27~2015/02/21

The Third Gallery Aya[大阪府]

昨年11月に赤々舎から2冊の写真集、『okinawan portraits 2010-2012』と『絶景のポリフォニー』を出版した石川竜一。本展では、『okinawan~』から80点近くが展示された。沖縄の島々をバイクで駆け巡り、出会った人々約3000人を撮影した中から選ばれた本作。そこに写っている面々があまりにも個性的であることに驚かされる。また、ヤンキーや右翼も写っており、「沖縄にもいるのか」と驚くと同時に、自分の中にステレオタイプな沖縄像があることにも気付かされた。このシリーズは以前にキヤノンの「写真新世紀」で見たことがあるが、久々の再開で感慨もひとしおだ。なお、『絶景の~』の作品は、同時期に大阪ニコンサロンでの個展で発表された。

2015/01/31(土)(小吹隆文)

WITHOUT THOUGHT Vol.14 スマホ

会期:2015/01/09~2015/02/01

ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]

「WITHOUT THOUGHT」とは「思わず……」の意。人々の無意識の行動をテーマとして、プロダクト・デザイナー深澤直人がディレクションし、さまざまな企業で働く現役のデザイナーたちが参加するワークショップの作品展。14回目のテーマは「スマホ」。薄い四角い板状の物体で、多くの人びとがほぼ同一の形状のものを日常的に身につけ、持ち運ぶプロダクト。そうしたスマートフォン(実際にイメージされているのはiPhoneと言ってよい)のかたち、使用シーンから発想されたさまざまなオブジェやアプリ、実際的な周辺機器からユーモアのある提案まで、今回もとても楽しく見た。例えばトイレの個室で用を足しているときにスマホをいじる人は多い。紙を使ったり水を流すときに手の届くところにちょっとスマホを置く場所があればということは誰でも思うこと。滑り止めが付いたトイレットペーパーホルダのカバーやスマホサイズのトレーの提案はじつに気の利いた説明不要のデザインである。ひっつき虫と呼ばれる植物の種子を模したパーツが付いているイヤホンのコードは、セーターのどんな場所にでもコードをくっつけて保持できる。ワイングラスのような脚が付いたスマートフォンカバーは、持ちやすさという機能を持たせると同時に画面のガラスの割れやすさを皮肉っているようで面白い。黒いiPhone 5とそっくり同じかたちをした薄い羊羹は、思わず手に取ってしまったあとにどうしようか。アプリの提案では作業途中で放置しておくと画面がだんだんぼけながらスリープ状態になる「寝ぼけスマホ」や、バイブレーション機能を利用した紙相撲がナンセンスでよかった。[新川徳彦]

2015/02/01(日)(SYNK)

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