2017年12月15日号
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artscapeレビュー

2009年12月15日号のレビュー/プレビュー

大谷幸夫+大谷研究室+国建《沖縄コンベンションセンター》

[沖縄県]

竣工:1987年

大谷幸夫による設計。丹下健三研究室にて多くの丹下プロジェクトに関わることからスタートした大谷の作品のなかで、《沖縄コンベンションセンター》はやや異質な雰囲気を帯びている。実家のすぐそばに大谷による《金沢工業大学》(1969-)が建っており、筆者は何度となく足を運んでいたため、大谷の建築デザインはわりと身に染み付いている。モダニスト的であるが、かならず一部に歴史的意匠であったり、独特の造形言語であったり、「遊び」が入っている。しかし本作品においては、自由な曲線群により構成された屋根、その軒先の装飾、池の上に飛び交うパーゴラ的な曲線装飾をもつ柱、アートオブジェのような空調吹き出し口、強調された天井の造形美など、その造形的な「遊び」が全面展開しているかのようだ。全体的な雰囲気は竜宮城のようにも感じた。筆者は《金沢工業大学》、《国立京都国際会館》(1966-)、《東京大学法学部4号館・文学部3号館》(1987)に続いて4つめの大谷の建築体験であったが、他の作品とは明らかな断絶があるところが興味深い。バブルの影響もあるのだろうが、同時期の《東京大学法学部4号館・文学部3号館》は相当にモデストである。
しかしこれは断絶ではないだろう。ル・コルビュジエが《ロンシャンの礼拝堂》でこれまでの彼のイメージを大きく裏切ったかのように見せて、実際には彼の絵画や彫刻との連続性の方が多かったように、むしろこの《沖縄》は、大谷における《ロンシャン》なのではないだろうか。それぞれの大胆な造形言語の片鱗は、過去のプロジェクトの「遊び」に見いだされる。ここまで自由に建築をつくることのできる爽快さを感じた。

2009/10/26(月)(松田達)

象設計集団+アトリエ・モビル《名護市庁舎》

[沖縄県]

竣工:1981年

象設計集団の建築を二つ見た。ひとつは《今帰仁村中央公民館》(1975)であり、もうひとつが《名護市庁舎》(1981)である。名護市庁舎の原型のひとつは《今帰仁村中央公民館》にあるだろう。平屋でコの字型に中庭を囲むプランと回廊を構成する赤い列柱。当時、ブーゲンビリアでおおわれていた屋根と、貝殻が埋め込まれてできた文字。沖縄という風土に触発されてできた建築であるといえよう。しかし《名護市庁舎》では、単に地域主義的というだけではなく、建築としてもうひとつの抽象度を獲得していたように思えた。風の道を取り入れたこと、シーサーやアサギテラス(アサギは沖縄古来の神を招いて祭祀を行なう場所のこと)、パーゴラなど、沖縄的な建築言語を取り入れたことは、当然この建築をこの場所にしかないものにしていたが、そのテラスや内部空間、また吉阪隆正ゆずりであるのかル・コルビュジエ的なスロープを歩いた経験は、空間体験として新しい何かを感じた。それが何であるのかうまく言語化するのは難しいが、内部においても外部においても多孔質で開口率の高い壁や天井のあり方が、独自の空間の質を生み出していたのではないかと思われた。

2009/10/27(火)(松田達)

原久路「バルテュス絵画の考察」

会期:2009/10/27~2009/11/01

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

なんとも不思議な作品。静謐な雰囲気のモノクロームのポートレートが並んでいるのだが、それらは皆どこかで見たような印象を与える。それもそのはず、すべて「20世紀最大の画家」バルテュスの作品の構図をそのままなぞり、モデルを使って活人画風にその場面を再現しているのだ。とはいえ、フランスの豪奢な邸宅は日本家屋に置き換えられ、モデルはセーラー服や学生服を着ていて、背景の家具・調度もそれぞれ別なものになっている。だが全体としてみると、バルテュスの《居間》(1942/47)、《美しい日々》(1944/49)、《本を読むカディア》(1968)などの作品の雰囲気は、とてもよく再現されているといえるだろう。そのエッセンスにかなり深く肉迫しているように感じられるのだ。
作者の原久路がなぜこんな作業を思いついたのかは知らない。どちらにしても、絵画の画面を写真に移し替えていくのには、大変な手間と時間がかかり、繊細な集中力が必要だったことは容易に想像がつく。「絵画の空気遠近法を表現するために」、テレビの撮影などで使う濃縮した液体で霧を発生させる機械を利用しているのだという。また、バルテュスの絵のポーズは実際にやってみると、かなりアクロバティックで無理な体位のものが多いのだそうだ。そんな苦労を楽しみつつ、細かな作業に無償の情熱を傾けている様子が、画面からじわじわと伝わってきた。絵画と写真の独特のハイブリッド様式のスタイルが形をとりつつあるように見える。

2009/11/01(日)(飯沢耕太郎)

ULTra PRTシステム

将来の公共交通システムに、新しい可能性が現われた。イギリスのヒースロー空港ターミナル5にて、2010年から運用を予定している「URTra PRT SYSTEM」(PRT)である。4人乗りの個人型無人高速交通であり、丸みを帯びた「ポッド」と呼ばれる小さな車体に乗って、タッチパネルで目的地を選択すると移動を始める。従来の公共交通といえば大量輸送システムを前提としていたのに対し、PRTは個人を前提とした公共交通である点で画期的である(PRT=Personal Rapid Transit:個人高速交通)。ヒースローでは約3.5kmの距離を移動し、軌道上も軌道のない場所もセンサーで感知して走る。
開発を行っているAdvanced Transport Systems社は、ヒースロー空港のほかにもバース、カーディフ、コルビーなどでのシミュレーションを行なっており、一人当たり移動時間短縮、交通混雑解消、CO2削減などの利益が見込まれるほか、特にコルビーではLRT(Light Rail Transit: 軽量軌道交通)と比較して、PRTがさまざまな点で利点を持つという試算結果が出ている。LRTは特に近年フランスをはじめとして、日本でも都市再生の有効な手段として注目されてきただけに、それ以上の利点をもつ可能性があるPRTの存在は、都市の未来にとって無視できないであろう。
なお筆者は、東芝エレベータ株式会社(http://www.toshiba-elevator.co.jp/)と協働し、今村創平、田中元子、大西正紀各氏とともに、PRTを用いた熱海の都市プランを提案している。日本ではもっとも早いPRT導入提案ではないだろうか(少なくともネットではほかに確認できなかった)。LRTを導入できるほど人口が多くなく、また起伏が激しくタクシーに依存した交通状況をもつ熱海という街に対し、公共交通と個人交通の利点をもつPRTを導入し、開発型ではない形で、冷え切った観光産業とともに街を活性化しようという計画である。

写真:Advanced Transport Systems Ltd.
www.atsltd.co.uk

2009/11/01(日)(松田達)

ムラギしマナヴ「水墨画と武者絵展」

会期:2009/11/01

Id Gallery[京都府]

10年をかけて描き溜めてきた武者絵(!)と、それとは異なる趣きで描いた水墨画を発表。1日だけの個展だったので諦めかけていたけれど、運良く見逃さずにすんだ。空間にところせましと展示されていた武者絵がとにかく凄い。サムライ(?)の表情やその動作の描写、生々しい筆致に目が吸い寄せられる。画面から言葉や音が飛び出てきそうな画力の説得力に感動。水墨画は円山派や狩野派の絵画のイメージと重なるものが多く、記憶をくすぐる。描かれた動物や人物のモチーフがまたチャーミングなのでやたら笑いがこみ上げるのだが、強烈だったのは「お金かしてください」という筆書きとともに描かれた微妙な表情の子犬の絵。何の絵のモチーフだったかとモヤモヤしていたら、その日の晩、一緒に会場を訪れた友人から「これか?!」と円山応挙《朝顔狗子図杉戸》の画像つきのメールが届いて嬉しくなった。史実や、その脈絡を整理したうえで描かれたスケッチも半端な量ではなく圧巻。絵の巧さやウィットに富んだユーモアセンス、それに丁寧な仕事ぶりに裏打ちされたムラギしさんの偏執的な面がうかがえる魅力的な個展だった。

2009/11/01(日)(酒井千穂)

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