フォーカス
アーティストに教わる 簡単おいしい「アトリエ飯」
artscape編集部
2022年12月15日号
artscapeでは、毎年、年の瀬が来るたびにさまざまなテーマでアーティスト自身の声を紹介してきました。今年はスタジオでつくっている料理のレシピを教えていただきました。
展覧会の搬入まであと何日! と追い込まれた孤独な闘いのなかでつくる料理はまさに生命線であり、ストレス解消法。さて、あのアーティストはどんな食事で危機を乗り越えているのでしょうか。今回は、家の冷蔵庫にありそうな、どこの街のスーパーでも売っていそうな食材で、簡単かつインスピレーションに富んだ料理を教えていただきました。真似してつくってみることで、アーティストの制作背景に意外な発見があるかもしれません。
Twitterでのハッシュタグ「#artscapeアトリエ飯」でつくってみたレポートの投稿もお待ちしています。(artscape編集部)
教えていただいたアーティストとお品書き
風間サチコさんの「蟄居用レンズ豆スープ」
国松希根太さんの「タコのペペロンチーノ」
新井卓さんの「ふだんの麻婆豆腐(ベジタリアン仕様)」
土谷享さんの「魚ブロックのステーキ」
会田誠さんの「牛スジの基本スープ」
高嶺格さんの「おじゃこサワーオイル」
手塚愛子さんの「痩せる!(かもしれない)お豆腐とネギのお鍋」
風間サチコさんの「蟄居用レンズ豆スープ」
材料
・ニンニク:2片
・セロリ:5cm
・玉ネギ:1/2個
・にんじん:1/3本
・大根:3cm
・ズッキーニ:1/3本
・茄子:1本
・パプリカ:1/4個
・白菜 or キャベツ:1〜2枚
・好みのキノコ:たっぷり(今回はマッシュルーム、椎茸、しめじ、エリンギ)
・レンズ豆水煮缶:1缶
・オリーブ油:大さじ1
・水:500〜600ccぐらい
・コンソメ:1個
・塩、胡椒、イタリア系ハーブ
手順
1. ニンニクは輪切り、野菜は賽の目切り、キノコは可愛らしさを残しながら細かくカット。
2. ニンニクをオリーブ油で炒めて、香りが立ってきたら玉ネギ、にんじん、セロリを加え、しんなりしてきたら火が通りにくい野菜から順に中火で炒める(塩、胡椒、ハーブを振ってよく炒める)。
3. 野菜が水っぽくなってきたら水を加え、煮立ったらコンソメを溶かし、レンズ豆水煮を缶汁ごと投入。塩を追加し味を整えて30~40分ほど煮込む(塩加減はお好みで)。
4. 保存容器6個ほどに分けて冷凍! これで安心!
料理にまつわるエピソード
どんな大きさの木版画も自刻自刷で私ひとりの作業なので、うっかり風邪などひいて時間をロスし展覧会に間に合わない……なんてことはあってはならない。一番腕力の要る刷り作業まで、気力体力をキープしながら完走(完成)を目指すマラソンランナーのごとき過酷な制作期間中は、外出する暇もなくほぼ蟄居状態……。買い物および料理する手間も省けて、免疫力低下の予防、栄養補給のできるこの冷凍豆スープは最適です。大好きなキノコたっぷりで気分も上々!(かざまランド台所に山積みの空容器を見た友人が「何アレ?」と驚いていたが、あれは陣中食スープを食べ尽くした死闘の痕跡なのだよ、と説明)
かざま・さちこ
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国松希根太さんの「タコのペペロンチーノ」
材料
・スパゲッティ:100g
・茹でタコ(今回は白老町の佐々木水産):100g
・オリーブオイル:大さじ2
・ニンニク:1かけ
・鷹の爪(蘭越町のrural farm):1本
・パセリ:適量
・塩、胡椒:適量
手順
1. オリーブオイルにニンニクと鷹の爪を入れて火にかけます。
2. 食べやすい大きさにそぎ切りした茹でタコとパセリを加えて軽く火を通します。その際にゆで汁も加えます。
3. 茹であがったスパゲッティをフライパンに入れて、塩、胡椒で味を整えます。
4. 大きな皿に盛り付け、パセリを散らして出来上がりです。
料理にまつわるエピソード
制作時はほとんどひとりなので、簡単にできるパスタに好きなシーフードを入れてつくることが多いです。アトリエ周辺にはスーパーはないけど漁師の人が直売しているお店が近く(といっても車で10分)にあり、そこでタコやツブ、エビなどを買います。朝に行くと獲れたてのタコが手に入ることもあります。塩茹でや下処理をしてあるので買ってきてすぐに使えるのが嬉しいです。鷹の爪は友人夫婦のrural farm(蘭越町)のが激辛で美味しいです。海水くらい多めの塩でスパゲッティを茹でるのと、タコは火を通しすぎると硬くなってしまうので、麺を具材と絡める前に入れるのがポイント。パセリを入れると香りや彩りも良くなるのでオススメです。
くにまつ・きねた
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新井卓さんの「ふだんの麻婆豆腐(ベジタリアン仕様)」
材料
・豆腐:1丁
・片栗粉または小麦粉:少々
・香菜、ニラなど(あれば)
[A]
・長ネギまたはタマネギ(みじん切り):茶碗1杯
・シイタケまたは手近なキノコ類(みじん切り):茶碗1杯
・根ショウガ(みじん切り):1片
・ニンニク(みじん切り):3〜4片
・豆豉(トウチ):半つかみ
・鷹の爪(細かく輪切り):好みで
・花椒(中国山椒/みじん切り):大さじ2/3くらい
・黒胡椒:好みで(筆者は大さじ1弱を使用)
[B]
・ベジタリアン用スープの素:適宜(水1.5カップ分)
・甜麺醤:大さじ1
・酒(紹興酒がいいが省略も可):大さじ1
・醤油:大さじ1/2
・砂糖:小さじ1
・ピーナッツバター:大さじ2
・ごま油または辣油:大さじ1
手順
1. 豆腐を好みの大きさのサイコロに切り、沸騰したお湯に塩をひとつかみ入れてゆでこぼしておく(沸騰してから2分くらい)。これは日本のやわらかい豆腐を煮崩さないためのポイント。沖縄、東北、海外の岩みたいな豆腐には必要ない。
2. 中華鍋かフライパンに油を多めに熱し、強火で[A]を炒める(もし挽き肉を入れたい場合は同時に加えてカリカリになるまで加熱する)。
3. スープ、豆腐を加えて4〜5分煮込むあいだに[B]で味付けする。調味料は何度か味見しながら少しずつ調整する。塩味が足りなければ塩を少し加える。
4. 鍋がグツグツしてきたら、ごま油または辣油をまわしかけ、さらに30秒ほど煮立たせる。こうするととろみが出て、味がまとまる(とろみが足りない場合は煮立った状態で水溶き片栗粉を回し入れ、豆腐を崩さないようお玉の裏側で素早くかき混ぜる)。
5. 完成。香菜、ニラなどを散らすと色味がよい。
料理にまつわるエピソード
一年を通してみると、旅に出ている時間の方が長いようだ。国内なら移動アトリエに改造したマイクロ・バスの中で──よその国ならAirbnbか知り合いの家にやっかいになって、さっそく料理をはじめる。勝手知ったる他人のキッチン。旅の料理は「リセット」が出発地点である。滞在先に塩胡椒があればまだいい方で、料理道具がないこともあるので創意工夫が試される。ちなみに今滞在中のラップランドの宿にはサウナ用のストーブしかないが、サウナの窯の熾火で冷凍ピザを焼いたらうまかった(北欧は物価が高すぎて外食など論外である)。
迷い込んだ町にアジア食材店があったら幸い、まずはオイスターソースと魚醤を買う。この二つがあれば何を炒めてもうまい。
今回の記事、風間サチコさんに教えてもらった「肉なし餃子」にしようと思ったが、時間も材料もなかったので麻婆豆腐にした。わが家は肉を滅多に食べないので豆腐料理はレパートリー豊富。以前、東京の武蔵小山かどこかで麻婆茄子を食べたとき、痺れる辛さを引き立たせるクリーミーな味が美味しくて、たどりついたのがピーナッツバター。2さじ、3さじ、ぜひ入れてみてください。
あらい・たかし
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土谷享さんの「魚ブロックのステーキ」
材料
・スーパーで売っている魚刺身用ブロックなんでも(今回はシイラ)
・ニンニクスライス:2片分
・オリーブオイル:大さじ5
・ハーブソルト:少々
・刻みネギ:1本分
・すだち:1〜2個(レモンや柚子などでも可)
手順
1. 魚の中骨を取る(中骨のないブロックもあります)。
2. フライパンにオリーブオイル大さじ5を入れ、ニンニクスライスを炒める。
3. ニンニクが少しキツネ色になったらカップに移す。少しオリーブオイルは残しておく。
4. 魚を3のフライパンで中火で焼く。
両面それぞれ1分30秒程度。表面だけ焼いて中はレアのままにする。
5. 焼いた魚を厚切りにカット。
6. 皿にカットした魚を並べ、ハーブソルトを少々振りかける。その上に刻みネギを豪快にかけて、3で取り分けたニンニク入りオリーブオイルを全体にかける。最後にすだちをたっぷりかけて完成。
料理にまつわるエピソード
高知に移住して7年目。スーパーには地元で捕れた季節の魚がずらりと並んでいます。しかも安い。我が家には育ち盛りの子供が2人いて、制作が忙しいときの夕飯はついつい手間を省いて刺身を選びがちに。
しかし同じ素材でも、時にほんの少し手間を加えることで、満足度もアップしますよね。そこでカツオのタタキとレアステーキを組み合わせたイメージでつくったのが最初です。
今回は写真を取りながら調理していたので魚に火を通しすぎましたが、それは好みの問題なので失敗はありません。雑な人でも繊細な人でもぜひつくってみてください。この料理は10分はかからないし、味も量も満足できるのでオススメです。
つちや・たかし
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会田誠さんの「牛スジの基本スープ」
材料
・牛スジ
・塩、あるいはさらにコショウ:適量
・日本酒、あるいは白ワイン:適量
手順
1. 圧力鍋は便利。老いて噛む力がなくなる日まできっと良い相棒。
2. 牛スジは安くて、なんなら普通の肉より美味しいが、長時間の加熱が必要。なので圧力鍋向き(牛スネ肉、手羽元、モツ、鶏皮なども圧力鍋と相性が良い)。
3. 後々おでんなど和食にも使うつもりなら、下味は塩と日本酒のみ。最初から洋風と決めてるなら塩胡椒で炒め、白ワインと生姜。アクはしっかり取る(今回は臭い消しにネギの青いところを入れたが、必須ではない。ついでにジャガイモも皮のまま入れた)。
4. 加圧が始まったら弱火で20分。蓋開けず冷めるまで放置。
5. 牛スジを切るのは圧力鍋で加熱したあとが良い。文房具のハサミでも簡単に切れるようになる。
6. 透明な基本スープは質素なポトフみたいな感じ。ここからクリーム、トマト、デミグラスソースなど入れてご随意に。そして往々にして終着駅はカレー。
料理にまつわるエピソード
牛スジを最初に買ったのは上京して自炊を始めた頃で、理由はおおかた安かったからでしょう。母親の料理で出てきたことはないし、外食で食べたこともないので、未知の食材でした。で、少し煮てみて「まだ硬い」、もっと煮てみて「まだ硬い」……を繰り返し、いつかスジの部分がトロンと柔らかくなったときに「なんて美味いものなんだ!」と感動したんだと思います。以来自分にとって定番の食材です。
あいだ・まこと
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高嶺格さんの「おじゃこサワーオイル」
材料
・酢:200cc
・オリーブオイル:100cc(酢の半分量)
・煮干し(そのまま食べられるタイプの方がおいしい):適量
・胡麻:適量
手順
1. 平たい容器に酢を入れる。
2. オリーブオイルを加える。
3. 混ぜる。
4. 煮干しを投入。
5. 胡麻を投入。
6. 軽く混ぜる。煮干しが柔かくなったら完成。
料理にまつわるエピソード
妻がどこからか聞いてきたメニューです。4つの材料を混ぜるだけ。カルシウム・ミネラルが豊富です。ビールから日本酒、焼酎、ワインもいけます。最初は「こんなにドボドボオイルを入れて大丈夫か!」と思いますが、意外や意外、油っこさはありません。酢とオリーブオイルを混ぜるとき「乳化させる」そうですが、そんなに必死に混ぜなくても大丈夫です。余ったら冷蔵庫で保存。冷蔵庫から出したときオイルが固まっていますが、5分も経てば液体に戻ります。うちでは、なくなったらまた継ぎ足して食べ続けているので、もう何年も容器を洗っていません(今回の撮影のために久しぶりに洗った)。
たかみね・ただす
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手塚愛子さんの「痩せる!(かもしれない)お豆腐とネギのお鍋」
材料
・胡麻油:大さじ2~3
・生姜のみじん切り:小さじ2
・ニンニクのみじん切り:2片分
・長ネギ(斜めに切る):たっぷりと好きなだけ
・お豆腐(食べやすい大きさに切る/絹が好ましい):200gくらい
・お水:600~700ml
・日本酒または白ワイン:1/2~1カップ
・味覇やシャンタンなどの調味料:小さじ2くらい
・お醤油:ちょろっとお好みで
・片栗粉(お好きなとろみで/水に溶いておく):大さじ2~3
手順
1. お鍋に胡麻油を引き、刻んだ生姜とニンニクを炒める。
2. 良い感じで香りが出てきたら長ネギを入れ、ごく軽くサッと炒める。
3. お水とお酒とお豆腐を入れ、お醤油と、味覇やシャンタンなどの調味料も入れる。
4. 沸騰させている間に片栗粉を水に溶いておく。
5. 水溶き片栗粉を入れ、さらに火を通してとろみをつける。ボウルに盛り、あれば白胡麻を飾る。
料理にまつわるエピソード
私が暮らすベルリンでは、日本とは異なり「手軽で美味しい店屋物」にあまり恵まれません。ケバブもソーセージもピザもポテトも美味しいけれど、そのぐらいしか選択肢がありません。ですので、いかに簡単に日本食・アジア食をつくるか? さらに、たくさん食べても太らなそうなもの……が日々の料理テーマです。今回ご紹介するのは、寒い冬と忙しい日々にぴったりの、お豆腐とネギのお鍋です。片栗粉でとろみをつけるので満足感あり。このような「とろっ」としたスープのことを英語では thick soup(ドイツ語では dicke Suppeでしょうか)と言うそうです。料理のポイントは最初に生姜とニンニクを胡麻油で炒めることと、長ネギを炒めすぎないことです。多めにつくっておいて、次の日はスライスしたキノコなどを入れると食物繊維がアップ。ちょっと主食感を出したい時は春雨を入れても良い感じです!
寒い夜にぜひお試しください^^
てづか・あいこ
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