artscapeレビュー

『東京計画2019』vol.2 風間サチコ

2019年07月01日号

会期:2019/06/01~2019/07/13

gallery αM[東京都]

東京都現代美術館学芸員の薮前知子氏をゲストキュレーターに迎えたαMプロジェクト2019の第2弾は、いまどき珍しいアナクロ・アナログなモノタイプの巨大木版画を制作する風間サチコ。タイトルの「東京計画2019」は、かつて丹下健三が東京湾に海上都市を建設するという大風呂敷を広げた「東京計画1960」に基づく。というわけで、今回は丹下健三に矛先ならぬ彫刻刀の刃先を向けた作品群。

最大の作品は幅640センチにもおよぶ《ディスリンピック2680》で、2680は皇紀の年号だから西暦に直すと2020年、つまり次の東京オリンピックの開会式を揶揄したものだ。画面はほぼ左右対称で、大げさなつくりものの足下で整然と行進する人々はアリのように小さく、ファシズム臭がプンプン漂う。

ちなみに、皇紀2600年は最初の東京オリンピックが開かれるはずだった年。同じ年には万国博覧会も計画されていたが、どちらも幻に終わった。また、満州平原を走っていた超特急あじあ号を朝鮮半島、対馬海峡を経て東京までつなげようと「弾丸列車」の計画を立てていたのも同じころ。これらの計画は戦後20年ほどを経て、東京オリンピック、大阪万博、新幹線というかたちでゾンビのごとく復活・実現していく。そしてこれらに深く関わり、成功に導いたのが丹下健三だった。丹下はまた戦時中、国威発揚のための大東亜建設記念営造計画で一等を獲得するが、戦後かたちを変えて真逆ともいうべき広島平和記念公園として復活させていく。これらを踏まえて作品を見ると、また格別の味わいがある。

たとえば、青焼き風・絵巻風戯画《青丹記》。土星型UFOの環が外れて中心の球体が海に落下、それを漁師たちが陸に引き上げて、格子状に組んだヤグラの上に載せるというもの。この格子上の球体から、お台場に建つフジテレビ本社を連想してしまうのは、もちろんそれが丹下最晩年の作品のひとつだからだ。歴史を読み直す視線や、ひと味違った風刺精神もさることながら、それを白と黒だけの力強い大作に彫り込んでしまう技量も見事というほかない。

2019/06/08(土)(村田真)

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