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康本雅子『絶交わる子、ポンッ』

2012年08月01日号

会期:2012/06/28~2012/07/01

世田谷パブリックシアター/シアタートラム[東京都]

なによりタイトルがユニーク。奇妙に融合した言葉たちを分解すれば「絶交」「交わる」「わる(悪/割る)子」「ポンッ」。「交わる」とはひょっとして「性交」の意? 「絶交」と「性交」の関係は? 「ポンッ」ってなんの音? 会場アナウンスでこのタイトルを係員が読み上げたときの浮いた感じといったらなかった。これはなにか起きそう!と弾んだ期待。しかし結果は、その期待を何倍か凌駕するパワーとアイディアが詰まった、いや、それ以上に彼女個人の強い思いがたっぷり詰まった直球の剛速球(=傑作)と言うべきものだった。テーマはやはり「性」、というより「性交」で、例えば、男と女は不穏な物音のオノマトペを呟き、向き合えば腹に挟んだティッシュ箱から白い紙を飛ばす。そのほか「この角度以上に踏み出すとまずいみたい」といった自己規制を確信犯的に踏み越える表現がちらほら。なんて「わる(悪/割る)子」なんだ!と思っていると、たんに「性交」というより「男と女の生活」が互いの弱さも狡さも嘘も隠さず描写されていることに気づかされ、康本の狙いの深さに感嘆してしまう。それにしても、頭に包丁の刺さったカップルが現われたり、線香が刺さったバースデーケーキが舞台の隅で煙を上げていたりといった場面はさすがに強烈で、笑い飛ばせずシリアスな気持ちにもなる。そう、康本はいつも舞台をアンビバレンスな宙吊り状態に置くのだ。康本が男(遠田誠)をぎゅっと抱きしめた直後「違う」と投げ飛ばし、また抱きしめまた「違う」と絶叫するシーンはその代表例。複雑で曖昧な人間存在の深さにダンスの公演はここまで迫れるものなのかと唸らされる。ピナ・バウシュの作品から受ける感動に近いが、ダンスの面白さは康本独自のものだ。オオルタイチの音楽は康本を上手く刺激したようで、どのジャンルからも自由でユニークな動きが次々繰り出されて、ハッとさせられ続けた。最後に、精子/卵子を想像させる数百個のピンポン球が天井から落下した。そのうえでまた康本は踊った。これもまた、死と生と性という身体の芸術であるダンスならば扱うべきテーマが濃縮された瞬間だった。

2012/06/28(木)(木村覚)

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