2024年03月01日号
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artscapeレビュー

川口隆夫『大野一雄について』(「ダンスがみたい! 15」)

2013年09月01日号

会期:2013/08/08~2013/08/09

d-倉庫[東京都]

タイトルの通り、川口隆夫が「大野一雄」について踊る作品であった。休憩を挟んで90分、大野の代表作のタイトルがスクリーンに掲げられ、そのたびに川口は衣裳を替えた。音響は大野の上演の際に録音したものをそのまま流しているようだった。ひたすら踊り続ける大野のような川口。とはいえ、これはダンス公演ではない、あくまでも大野一雄についてのパフォーマンスだった。聞いたところによると、川口の動きは大野の映像を踏襲したものであったようだ、しかし、それは「プライべートトレース」でかつて手塚夏子が試みたような、徹底した映像のコピーというものではないし、あからさまな物真似(大野を真似た誇張表現)ともみなしがたい、その意味では中途半端なところがあった。なにがしたかったのだろう。恐らく、レクチャーを模したパフォーマンスも行なう川口のことだから、「大野一雄についての研究」というモチーフがベースにあったのではと推測する。もっとその意図を明確にして、意図や研究方法を本人が自ら語るようなパートがあってもよかったのではないか。それがカットされている分、川口の動きの曖昧さが気になってしようがない。大野のダンスを研究してその方法論を反映しているとわかれば、見る側もともに研究する姿勢で見ることができるのに。その方法論が見えない。終幕にいたり、川口が拍手のなかおじぎをしたあとで、まるで大野がかつてそうしていたように、川口はアンコールで一曲踊った。そのときにはっとしたのだが、観客の何人かは川口のなかに大野の影を見ていたらしい。音楽にあわせての手拍子の「ノリ」がその思いを伝えていた。先述した動きの曖昧さにも原因があるのだが、美男子の川口に大野の老体を錯覚するのは難しい。けれども、錯覚する観客もいるのだ。それはまるで少女漫画を読む読者のように、「大野がこんな躍動的に踊れる身体をもった美男子だったら!」という甘い願望が花開いた瞬間だったのかも知れない。そうした誤読から自由であるためにも、この作品には「研究」の要素が強調されているべきだったろう。

2013/08/09(金)(木村覚)

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