artscapeレビュー

吉岡徳仁──クリスタライズ

2013年12月01日号

会期:2013/10/03~2014/01/19

東京都現代美術館[東京都]

エスカレーターを降りて地下の会場に入ると、真っ白い部屋。積み上げられた膨大な数の白いストローが渦を巻くなかに、ガラスのベンチ《Water Block》が据えられている。チャイコフスキーの「白鳥の湖」が流れる次の部屋の中央には透明な液体が入った大きな水槽がしつらえられ、その中では結晶絵画《Swan Lake》が育てられている。壁面にはそれぞれ「白鳥の湖」の異なる楽章が流れるなかで生成された作品が展示されている。その奥の部屋には薔薇の花を核に生成した《ROSE》。ほのかな色味は、花の色素だという。展示室は再び白いストローの竜巻《Tornado》で満たされ、その間の細い道を進むと椅子の形に張り渡した細い糸に結晶を生成させた《蜘蛛の糸》が、その生成途中の姿とともに配されている。圧巻は、高さ12メートルの吹き抜け空間を使用した虹の教会《Rainbow Church》。ガラスのプリズムを通して差し込む光が、周囲に虹色の色彩を投影している。アンリ・マティスのロザリオ礼拝堂に衝撃を受けて着想したという教会建築を念頭においた、ガラスと光によるインスタレーションである。
 その規模や物量に圧倒される側面はあるが、吉岡徳仁の空間デザインに共通する魅力は、人の手によって固定化された造形ばかりではなく、チューブやストローなどの集積によってつくられる不定型な空間、結晶による造形、プリズムによる光の演出など、自然の力を借りつつも極めて純粋なオブジェ、純化された空間を生み出している点にある。自然の力を借りるといっても、すべてを委ねるのではなく、実験やシミュレーションによって明確な設計がなされている。しかし、特殊な水溶液によって結晶ができることがわかっていても、音楽を聴かせることでそれがどのような形に生成するかまではコントロールできない。羽毛に風を送ったときに、一つひとつの羽根がどのように舞うのかまではわからない。すなわち吉岡徳仁がデザインしているのは形ではなく、方法なのである。
 1階会場では、ハニカム構造を持つ紙を素材とした椅子《Honey-pop》と繊維の塊を焼いて作る椅子《PANE chair》が展示されているほか、過去の空間デザインの仕事を約50分の映像で見ることができる。またショップ奥ではヤマギワの照明《ToFU》や《Tear Drop》、ISSEY MIYAKEの腕時計などプロダクト系の作品も紹介されており、吉岡徳仁のこれまでの仕事を展望できる。東京都現代美術館で開催されている「うさぎスマッシュ展」と「吉岡徳仁展」。両展覧会の同時開催が意図されたものかどうかはわからないが、いずれも近代デザインの枠組みとは異なるアート・デザインの方法論を見せているという点で、とても興味深い組み合わせの企画である。[新川徳彦]

2013/11/19(火)(SYNK)

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