artscapeレビュー

プレビュー:Q『玉子物語』

2015年07月01日号

会期:2015/07/08~2015/07/15

こまばアゴラ劇場[東京都]

先月、舞踏家・室伏鴻が逝去した。享年68才。ブラジルでの公演を終え、ドイツでのワークショップに向かう最中、メキシコの空港で心臓発作に倒れたと聞く。ドゥルーズを愛した室伏らしいノマデックな旅の途中のことだった。筆者は15年ほど前に『edge』という公演を見て、あまりのことに驚愕し、この舞台を言葉にしてみたいと切望するところからダンスの批評をはじめた。室伏が踊るから、ダンスにはなにかがあると信じることができた。拙サイトBONUSでも第2回の連結クリエイションに室伏を招いていた。『牧神の午後』をテーマにしたダンスの制作を依頼していたのだが、最後の舞台となってしまったブラジル公演でも、ほんの数十秒とはいえ、『牧神の午後』を彷彿とさせる振りを踊っていたのだそうだ。亡骸の脇で、そのビデオを拝見した。本人は不在となったものの、なんらかのかたちで室伏が心に宿した『牧神の午後』を辿る試みをするつもりです。
さて、室伏と同じ舞台に立つはずだった市原佐都子の劇団Qの新作公演が迫っています。タイトルは『玉子物語』。Qは、女の子の自意識や性を含めた欲望や普段は隠されている部分を丁寧にひらいて見せてくれる。それは、ときにどぎつく映ることもある。けれども、Q以外の劇団のつくる演劇の多くが、いかに男性のためにつくられたものであるのかを知らしめてくれる。男性にとって心地よいシュガー・コーティングされた女性像を脱ぎ捨てた女性の姿は、ひょっとしたら醜くも滑稽にも見えるかもしれないけれど、人間が次の段階へと至る際の変容中のさまなのかもしれない。Qの舞台には、そうした未来が懐胎されている。

2015/06/30(火)(木村覚)

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