2018年12月01日号
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artscapeレビュー

オサム・ジェームス・中川「Eclipce: 蝕」

2018年12月01日号

会期:2018/10/31~2018/12/22

PGI

オサム・ジェームス・中川は1962年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。1980年代から写真作品を本格的に制作し始め、アメリカと日本という2つの国にまたがる自分のアイデンティティを検証する作品を多数発表してきた。

中川は1990年代に「アメリカン・ドリームが秘める神話」の探求の一環として「ドライブ・イン・シアター」のシリーズを制作した。アメリカ各地で撮影された野外映画館の画面にKKKのデモや移住労働者などのイメージをデジタル画像ではめ込んだ作品である。今回の展示にも同シリーズから3点出品されている。だが中心になっているのは、新作の「Eclipce: 蝕」シリーズである。かつて人気を博したドライブ・イン・シアターはもはや過去の遺物となり、スクリーンは何も映さず、無人の建造物はボロボロに崩れ落ちようとしている。中川は、さらにピエゾグラフィという7色のグレーインクを重ねるプリント技術を駆使して、写真の画面を極端に黒っぽく整え、ネガとポジが一体化した幻影のような風景に仕上げた。それは、トランプ時代のアメリカが「過去を思い出すのではなく、過去を再び体験している」のではないかという、彼の痛切な現状認識に対応するイメージ操作である。

妻の故郷である沖縄の戦争体験を主題とした「沖縄─ガマ/バンタ/リメインズ」(2014)などもそうなのだが、中川の写真作品はつねに個と社会、過去と現在との対比とその緊張関係をベースとして成立してくる。コンセプトとそれを作品として実現していくプロセスが、しっかりと組み上げられているので、制作意図がストレートに伝わってくる。欧米の写真家たちにとっては当たり前なのだが、日本ではなかなかそのような写真表現のあり方が定着していかない。特に若い写真家たちに、中川の社会的な関心を強く打ち出した仕事に注目してほしいと思う。なお、同時期にPOETIC SCAPEでも「Kai─廻」展が開催された(11月16日〜12月29日)。こちらは身近な家族にカメラを向けた、より私的な要素を強めた作品である。中川の写真世界の幅は、さらに広がりつつあるようだ。

2018/11/27(火)(飯沢耕太郎)

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