artscapeレビュー

小林耕平《2-9-1》(里山の古い建物にて)

2010年10月01日号

会期:2010/09/25~2010/09/28

小川町小学校下里分校[東京都]

最近の小林耕平は、カメラマンを置くことで、出演する小林とカメラマンとのスリリングなセッションが作品の見所となっていた。今作では、こうしたやり方を一旦脇に置き、カメラは被写体(小林)の前で固定された。17分ほどの作品。小さな作業場らしき空間に、紙コップやティッシュ箱、水槽に入った石など日常的なオブジェが散乱。小林は、それらを持ち上げたり、テーブルの上で押したりする。ちょっとした動作の集積が見る側に突然興味深いものになったのは「水槽の石に注目して下さい」と小林が発してからだった。石は画面の右下にある。いくら注目しても石になにが起こるわけでもなく、小林が石になにかをするわけでもない。「命令」が放置されることで、観客はその状況に対して宙吊り状態にさせられる。今作の特徴は、カメラの固定のみならず、この言葉の使用だった。しかも、言葉は字幕として画面に現われもした。パフォーマーが観客に向けた約束や命令、この言葉の機能が映像に緊張感を与える。たんに身体所作ではなくこうした緊張状態のために、本作はきわめてダンス的な作品だと思った。神村恵らダンス作家との活動が近年活発だった小林の新機軸が示された作品だった。

2010/09/26(日)(木村覚)

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