artscapeレビュー

シングルマン

2010年12月01日号

会期:2010/10/02

ヒューマントラストシネマ有楽町[東京都]

グッチのデザイナーを長らく務めたトム・フォードによる初監督作品。60年代のロサンゼルスを舞台に、建築家の恋人を不慮の事故で失ったゲイの大学教授が自殺を決意した一日を抒情詩のように描き出す。心に深い傷を負った者が自死を選ぶまでの逡巡と、死に際まで決して手放すことができない美意識、不意に訪れる新たな生きる希望。それらを淡々と描きながらも、鑑賞者を最後まで惹きつけてやまないのは、服飾はもちろん、建築や車、動植物、そしてそれらを包み込む空気感やそれらを照らし出す光など、画面の隅々にまで審美眼を行き届かせた映像がじつに美しいからだろう。とりわけ、海中に沈む裸体をとらえた冒頭の映像は印象深い。物語を2時間を切る尺に収めた編集も鮮やかだ。愛した男の存在を忘れかけるほどの新たな出会いに恵まれつつも、その幸福を手に入れる寸前に愛した男の情念によって連れ去られてしまう結末は、これ以上ないほど「文学的」である。

2010/11/17(水)(福住廉)

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