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小林礫斎 手の平の中の美~技を極めた繊巧美術~

2011年03月01日号

会期:2010/11/20~2011/02/27

たばこと塩の博物館[東京都]

これはすごい。いま超絶技巧という言葉は乱用されているきらいがあるが、それはこの人のためにこそ用いられるべきと誰もが思い改めるにちがいない。礫斎(れきさい・1884-1959)がつくり出したのは、文字どおり手のひらに収まる驚異のミニチュア。茶道具や香箪笥をはじめ、筆、箸、茶碗、火鉢、灰ならし、算盤、印鑑、パイプ、杖など、礫斎は日常的な実用品の数々を細部まで忠実に再現しながらサイズダウンしてみせた。この展覧会は繊細で巧みな造形物という意味で礫斎みずから命名したという「繊巧美術」と、礫斎を中心に極小の工芸品を集めた旧中田實コレクションの中から選りすぐりの逸品などをあわせて一挙に公開するもの。ガラスケースに入れられた極小の造形物を見入る来場者たちは、眼精疲労をもろともせずに驚愕の溜息をあちこちで漏らしていた。注目すべきは、礫斎がただひとりで制作していたわけではなく、礫斎を中心とした職人たちによる共同制作だったこと。それぞれの職人の固有名が溶け合うほど、強い共同性が結ばれていたらしい。しかも、その共同制作を繰り返していくうちに次第に極小への欲望が極限化していく様子がわかる展示になっているのが、おもしろい。百人一首をすべて並べた豆本や爪先にも満たないほどの独楽、当然指には入らない真珠指輪など、職人たちの関心が手のひらから指先へと先鋭化していくのだ。米粒に写経するのは、なんとかまだわかる。けれども、米の籾殻の中に大黒様と恵比寿様を彫り出した微細な象牙を収めた作品を目の当たりにすると、文字どおり開いた口がしばらくふさがらない。狂気と紙一重の創作だったからこそ、後世に残る美術となりえたのだろう。

2011/02/08(火)(福住廉)

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