artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:京都dddギャラリー第211回企画展 グラフィックとミュージック

会期:2017/01/20~2017/03/18

京都dddギャラリー[京都府]

グラフィックデザインと音楽の関係は、19世紀までさかのぼれる。トゥールーズ=ロートレックやミュシャが描いたミュージックホールの絵画やポスターはその先駆けと言えるだろう。レコードという複製媒体が登場し、音楽が一大産業になってからは、レコードジャケットやポスターが盛んにつくられ、両者の関係は切っても切れないものになった。そうした歴史を名作ポスターでたどるのが本展である。個人的には、音楽がインターネットで配信されるようになってからジャケットを見る楽しみが減ったと思っているので、レコード・CDジャケットも扱ってほしい。しかし今回はポスター展とのこと。それはそれで各時代の名作音楽ポスターが見られるのだから良しとしよう。さらに欲を言えば、会場に音楽のBGMを流す、会期中にレコードコンサートを行なうといった趣向があっても良いと思う。身勝手な要望ばかり並べたが、どのような展示になろうとも見に行くつもりだ。

2016/12/20(火)(小吹隆文)

プレビュー:クラーナハ展 500年後の誘惑

会期:2017/01/28~2017/04/16

国立国際美術館[大阪府]

すでに国立西洋美術館で見た人も多い「クラーナハ展」を今さら取り上げるのもどうかと思うが、未見の筆者としては大阪展が楽しみでならない。その理由は当方のドイツ・ルネサンス(北方ルネサンス)体験の乏しさにある。まとめて作品を見たのはデューラーぐらい。いや、大昔の海外旅行でボッスも見たか。でもそれぐらいで、ブリューゲルやクラーナハは皆無に等しい。大体、昔は「ルーカス・クラナッハ」と表記されていて、それも絵ではなく山本容子の著作『ルーカス・クラナッハの飼い主は旅行が好き』(徳間書店、1989)で知ったぐらいだ。その後も森村泰昌の作品を通してオリジナルを知るなど、歯がゆい状況が続いていた。東京展の評判は関西にも届いているので、内容に対する不安は一切ない。万全を期して展覧会に臨みたい。

2016/12/20(火)(小吹隆文)

橋本陽子写真展「ラビリンス」

会期:2016/12/06~2017/12/18

ギャラリー・ソラリス[大阪府]

少女から大人へ向かう10代後半から20代前半の女性を約8年間にわたって撮影。大小さまざまなサイズにプリントした写真30数点を、インスタレーションとして展示した。最初は一人の少女を追った作品だと思ったが、よく見ると複数の人物が混ざっている。しかし、ドキュメントか否かは大した問題ではない。作家の被写体に対する眼差しには、その年代の同性に対する憧憬が感じられ、なるほど女性にしか撮れない写真だと感心した。同性を撮影する場合、あえて辛口な視点を採用する方法もあるだろう。しかし本作では、過渡期の女性が放つ刹那の美への共感が前面に出ており、それが作品に繊細さや品の良さを与えていたと思う。作家はこれまでグループ展で活動しており、個展は今回が初めて。それにしては展示構成もそつなくまとめており、好スタートと言えるだろう。いつになるかは分からないが、次の個展を楽しみにしている。

2016/12/17(土)(小吹隆文)

宇野真由子写真展「root」

会期:2016/12/13~2016/12/18

フォトギャラリー壹燈舎[大阪府]

作者は北海道釧路市周辺の出身で、大学時代を名古屋で過ごし、卒業後に大阪でカメラマンになった。その後沖縄に移住した時期もあったが、現在は再び大阪でカメラマンをしている。本展の作品は故郷の冬景色を撮影したものだ。釧路市の辺りは冬でも積雪が少なく、風が吹くと雪が舞い上がって霧がかかったようになるという。本展の作品にもそのような情景がいくつもあった。また、冬特有の乾いた光をハレーション気味に表現した作品もあった。作者は子供の頃から早く都会に出たいと思っていたという。しかし、最近になって地元の美しさに気付いたそうだ。自分自身を振り返っても、故郷とはそういうものかも知れない。今後も制作を継続して、美しい故郷を見せてほしい。

2016/12/17(土)(小吹隆文)

ようこそ!横尾温泉郷

会期:2016/12/17~2017/03/26

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

お風呂が恋しい季節に合わせて、横尾忠則が銭湯や温泉を描いた絵画、版画、ポスターが集められた。展示の主体になったのは2つのシリーズ。ひとつは2004年に元銭湯の画廊SCAI THE BATHHOUSEで個展を行なった際に発表した「銭湯シリーズ」、もうひとつは2005年から約3年間にわたる誌連載のために描かれた「温泉シリーズ」だ。その合間に、1970年代から現代までの全国各地を描いた作品も配置された。筆者が注目したのは「銭湯シリーズ」である。横尾が子供の頃に母に連れられて入った女湯の記憶を元にした同作では、画中に鳥居清永、ピカソ、ドローネ、デュシャンらの引用が散りばめられており、作品の上下左右が繋がるように描かれるなど仕掛けが満載だった。また本展では城崎温泉などから協力を仰ぎ、会場内に蛇口、洗面器、脱衣籠、脱衣箱、扇風機、体重計などが配置され、観客が座って観覧できる座敷や浴槽、さらには温泉卓球ができる卓球台まで用意されていた。こうした演出もあり、本展は非常に楽しい展覧会に仕上がっていたのだが、記者発表時には横尾からは「まだまだ遊びが足りない」と駄目出しが出ていた。学芸員はつらいよ。でも、毎回作家から厳しいチェックを受けることで、彼らは鍛えられていると思う。

2016/12/16(金)(小吹隆文)

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