2017年12月15日号
次回1月15日更新予定

artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:小杉武久 音楽のピクニック

会期:2017/12/09~2018/02/12

芦屋市立美術博物館[兵庫県]

1950年代から活動を続けてきた音楽家、小杉武久。1960年に即興演奏集団「グループ・音楽」を結成、1960年代には「フルクサス」と関わり、その後も「タージ・マハル旅行団」を結成(1969年)、「マース・カニングハム舞踊団」の専属音楽家に就任(1977年)など、一貫して音や音楽の概念を拡張する仕事を続けてきた。また彼は、1970年代後半から音をテーマにした「オーディオ・ビジュアル作品」を手掛けてきたことでも知られている。本展では彼の長きにわたる活動を、記録写真、ポスター、プログラムなどの資料と、音をテーマにした作品約300点で俯瞰的に振り返る。また、高橋悠治(作曲家・ピアニスト)と川崎弘二(電子音楽研究家)のトークショー、小杉と藤本由紀夫(アーティスト)の対談、上映会など関連イベントも充実しており、20世紀後半の前衛芸術運動の一端を知る絶好の機会といえる。

小杉武久「横浜トリエンナーレ」演奏風景(2008)

2017/11/24(金)(小吹隆文)

プレビュー:光の現代美術@旧三井家下鴨別邸

会期:2017/12/15~2017/12/25

旧三井家下鴨別邸[京都府]

下鴨の森の中にたたずむ旧三井家下鴨別邸。大正14年竣工の美しい木造建築を舞台に、興味深い美術展が開催される。展示は昼夜2部制だ。「昼の部」では、通常は非公開の主屋2階や茶室を舞台に、金氏徹平、三嶽伊紗などのアーティストと、村山明(木工)、山本晃久(鏡師)、吉岡更紗(染織)などの工芸家、中国人作家の孫遜と娄申義が作品展示を開催。「夜の部」ではアーティストの髙橋匡太が日本の伝統色を基調とする光で、望楼をいただく建物全体をライトアップする。美術鑑賞、建築鑑賞として申し分ないのはもちろん、近隣に下鴨神社や鴨川デルタなどの観光名所もあり、冬の京都旅行のコンテンツとしてもおすすめできる。なお本展の企画・運営を行なっているのは「芸術計画・超京都」。彼らは2010年にアートフェアを開催するために活動を開始した。本展は彼らにとって初のテーマ展だが、今後は同様の活動が増えるかもしれない。

2017/11/20(月)(小吹隆文)

若手芸術家支援企画 1floor2017 合目的的不毛論

会期:2017/11/18~2017/12/10

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

「1floor」とは神戸アートビレッジセンターが2008年から行なっている公募展で、30歳未満の作家を対象とする若手支援企画だ。同センターの1階に向き合う「KAVCギャラリー」とコミュニティルームの「1room」をひとつの空間とみなし、展覧会プランを作家自身がつくり上げる点に特徴がある。10回目となる今回は大前春菜、菊池和晃、澤田華が選ばれた。個々の作風を説明すると、大前は肉体の皺やたるみを感じる彫刻をつくる作家。菊池は身体表現を用いることが多く、社会と対峙する作品や美術史を参照した作品を制作している。澤田は写真に写りこんだあいまいな図像やノイズをモチーフに、綿密な調査と意図的な誤読を繰り返して考察する過程そのものを作品にしている。このように作風が異なる3人がひとつの展覧会をどのようにつくり上げるのか、そこに本展の面白さがあった。では実際の展覧会はどうだったのかというと、3人がそれぞれの世界を構築しつつ、それでいて一体感も感じられるバランスの良い展覧会に仕上がっていた。最初に「合目的的不毛論」というキーワードを導き出せたのが勝因だろうか。じつは筆者は今回の「1floor」で審査員のひとりを務めており、作風がそれぞれ異なる3人を選出したことに期待と不安を抱いていた。彼らがこちらの期待を上回ってくれたことに、素直に感謝したい。


上=澤田華の作品、下=左から大前春菜、菊池和晃の作品

2017/11/18(土)(小吹隆文)

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林勇気「私は猫を猫として認識する」

会期:2017/11/17~2017/12/03

Gallery PARC[京都府]

自分や他者が撮影した膨大な写真をデジタル化し、それらを切り抜く、重ね合わせるなどした映像作品で知られる林勇気。彼が今個展でテーマにしたのはAI(人工知能)の普及により今後変容を迫られる「像」のあり方や、人間とAIの関係である。ちなみに謎めいた展覧会名は、2012年にグーグル社が開発したAIが約1000万枚の画像を見続け、人から教えられることなく猫を猫として認識したエピソードに基づいている。肝心の出展作品は、グーグルで検索した猫以外の動物の画像を、AIが組み込まれたプログラムによって猫化させる《Chimera》、展覧会DMに使用した猫の画像を数値化し、膨大な文字コードが集積した平面作品に変換した《times-cat》、「猫」で検索して出てきた猫以外の画像を分解して画面上に浮遊させ、それらが徐々に集積して最後は画面を埋め尽くしてしまう《IMAGE DATA-A to Z》(画像)など4点。AIの進化はこれから本格化するので、本展の作品が未来を予見しているとは言い難い。しかし、今日的なテーマに取り組み、可能性の一端を見せてくれたのは確かだ。先駆的な一例として、本展は評価に値する。

2017/11/17(金)(小吹隆文)

鉄道芸術祭vol.7 STATION TO STATION

会期:2017/11/10~2018/01/21

アートエリアB1[大阪府]

京阪電車「なにわ橋駅」構内という独特のロケーションで知られるアートエリアB1では、「鉄道芸術祭」という、鉄道にまつわる歴史や文化を多角的に捉え直し、クリエイティブな表現として発信することをテーマにした企画展を毎年行なっている。7度目となる今回は、アーティスト、グラフィックデザイナーであり、不定期刊行物『球体』の責任編集者である立花文穂をメインアーティストに迎え、彼のディレクションの下、約20組の作家が作品展示を行なっている。作品は、絵画、ドローイング、映像、漫画など多彩で、なぜだか分からないが通常の展覧会とは異なる空気感が感じられた。旅をテーマにした作品があったからだろうか、ロードムービーを見ているかのような気持ちになったのだ。立花は本展を『球体』の最新号としてディレクションしたと述べており、展覧会を書籍として成立させようとしたことが、この不思議な手触りを生み出したのかもしれない。こうしたクロスジャンル的なキュレーションが増えれば、美術展はいまより面白くなるかもしれない(同時に大コケする可能性も増えるのだけど)。

2017/11/12(日)(小吹隆文)

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