2017年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:福岡道雄 つくらない彫刻家

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会期:2017/10/28~2017/12/24

国立国際美術館[大阪府]

大阪を拠点に反芸術的な姿勢で制作を貫いた彫刻家、福岡道雄(1936~)。彼の約60年にわたる活動を98作品で振り返る回顧展が、美術館で初めて開催される。筆者にとって福岡道雄といえば、真っ黒な石の立方体に単語や文をびっしりと彫った作品や、ある一場面を切り取って具象的に表わした情景彫刻が思い浮かぶ。特に前者は「つくらないことでつくる」作品であり、表現すること自体への葛藤や問いかけに満ちていた。本展では1950年代から2000年代までの彼の作品が一堂に並ぶ。筆者が知らない1950年代から80年代の作品が見られるので(もちろん一部の作品は美術館や画廊で見ているが)、自分なりの作家像を見定める千載一遇の機会となるだろう。福岡は関西を代表する美術家のひとりだが、今まで美術館で大規模な個展が行なわれなかったため、一般的な認知度が低い。本展を期にその状況が変わることを期待している。

2017/09/20(水)(小吹隆文)

プレビュー:児玉幸子展覧会「眩惑について─Éblouissant」

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会期:2017/10/06~2017/11/26

清課堂[京都府]

「磁性流体」と呼ばれる液体金属を用いて、まるで生き物のように変形する彫刻作品を制作する児玉幸子。彼女が用いる素材は、酸化鉄のナノ粒子が溶け込んだコロイド溶液。磁性流体は磁力をかけるとトゲのように変形する性質があり、児玉は電磁石の磁力をコンピューターで制御することにより、独自の「磁性流体彫刻」をつくり出すことに成功した。本展では、素材と動きと光による「眩惑」をテーマに、《モルフォタワー》(画像)をはじめとする10作品を展示。未発表作品も含まれるので、既知の人にとっても出かけがいのある個展となるだろう。なお、本展会場の清課堂は老舗の錫屋で、店舗に陳列されている商品や伝統的な京町や建築も見応えがある。また、本展の初日には京都市内の多くの画廊やアートスポットで「ニュイ・ブランシュ京都2017」というイベントが行なわれ、本展もこの日だけは午後10時まで開廊している。夜の京都観光も兼ねて出かけるのもいいだろう。

2017/09/20(水)(小吹隆文)

プレビュー:藤倉翼作品展「NEON-SIGN」

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会期:2017/10/13~2017/10/31

vou[京都府]

都市の歓楽街を彩るネオンサイン。それは20世紀の消費文化を代表するシンボルのひとつだが、近年は新技術の普及やネオン管職人の減少により、その姿を消しつつある。北海道・札幌を拠点に活動する写真家、藤倉翼は、一時代を築いたネオンサインへのオマージュとして、写真を元にした半立体作品を制作した。それはネオンサインを真正面から撮影し、LEDを仕込んだ特注額に額装したもの。LEDはコンピューターのプログラムで不規則に明滅し、リアルなミニチュアのような作品が出来上がる。ネオンサインをモチーフにした作品を聞くと、消費社会を批評したポップアートが思い浮かぶ。しかし藤倉はそうした皮肉っぽい視点ではなく、ネオンサイン=近代の工芸品としてリスペクトを捧げているのだ。作品のなかには道頓堀のグリコなど、関西人にとっても思い入れの深いモチーフもある。実物を見たら衝動買いしてしまうかもしれない(もちろん値段次第だけど)。


©藤倉翼

2017/09/20(水)(小吹隆文)

神戸港開港150年記念「港都KOBE芸術祭」

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会期:2017/09/16~2017/10/15

神戸港、神戸空港島[兵庫県]

1858年に結ばれた日米修好通商条約に基づいて、1868年に開港した神戸港。我が国を代表する港湾の開港150年を記念して、地元作家を中心とした芸術祭が開かれている。参加作家は、小清水漸、新宮晋、林勇気、藤本由紀夫、西野康造、西村正徳など日本人作家16組と、中国・韓国の作家3名だ。会場は「神戸港」と「神戸空港島」の2エリア。ただし、神戸港エリアの一部はポートライナーという交通機関で神戸空港と繋がっており、「神戸港」と「ポートライナー沿線」に言い換えたほうがいいかもしれない。芸術祭の目玉は、アート鑑賞船に乗って神戸港一帯に配置された作品を海から鑑賞すること。港町・神戸ならではの趣向だ。しかし残念なことに、取材時は波の調子が悪く、アート鑑賞船は徐行せずに作品前を通過した。通常は作品の前で徐行してじっくり鑑賞できるということだが、自然が相手だから悪天候の日は避けるべきだろう。一方、意外な収穫と言ってはなんだが、ポートライナー沿線の展示は、作品のバラエティが豊かであること、主に屋内展示でコンディションが安定していること、移動が楽なこともあって、予想していたより見応えがあった。神戸空港という「空の港」と神戸港(海の港)を結び付けるアイデアも、神戸の未来を示唆するという意味で興味深い。会場の中には神戸っ子でも滅多に訪れない場所が少なからずあり、遠来客はもちろん、地元市民が神戸の魅力を再発見する機会に成ればいいと思う。

2017/09/15(金)(小吹隆文)

UNIVERSE 橋本敦史

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会期:2017/09/12~2017/09/24

アートスペース感[京都府]

橋本はさまざまな素材を駆使して立体作品を制作するアーティストだ。素材は造形に最適なものを選択しているだけで、そこに過度の思い入れは存在しない。本展で彼は、4つのシリーズ作品を発表した。そのなかでも特に注目すべきは、《Blood Vessel》(画像)と《Flower》の2つである。前者は白いパネルの上に白く塗った木の枝が配置されているが、木の枝は縦半分など不自然な形に断裁されている。後者は精密に加工されたステンレスの立体で、一見すると花のようだ。じつはこれらの作品は、彼の疾病体験から着想したものだ。橋本は脳の血管の病気を患ったことがあり、その際に視野の半分が認識できない状態に陥った。幸い病は治癒したが、そのときの体験から脳や血管に深い興味をいだくようになり、これらの作品を制作したのだ。ちなみに《Blood Vessel》の造形は、彼が体験した症状と、血管と木の枝の形状的共通性に由来している。《Flower》の形態は花ではなく、脳の神経細胞ニューロンからの着想だ。アーティストはそれぞれテーマを持って制作しているが、彼のように自分自身の生命の危機と直結しているのは稀であろう。作家と作品の分かち難い結びつきが、作品に深い説得力を与えている。ただし、劇的なストーリーから情緒的な反応に陥ってはならない。彼の作品は造形的にも質が高く、たとえ事情を知らなくても十分鑑賞に耐え得るのだ。

2017/09/12(火)(小吹隆文)

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小吹隆文

1964年生まれ。美術ライター。情報誌の編集部勤務を経て、2005年より関西を拠点にフリーランスで活動。主に雑誌、新聞、ウェブで原稿を執筆し...

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